終わらない夏と、次なる野望
それから数ヶ月後。
かつて寂れていた海辺の村は、愛結商店の莫大な資本と、マリアンヌの優秀な実務能力によって、王都の貴族たちがこぞって訪れる「超高級シークレットリゾート」へと変貌を遂げていた。
「いらっしゃいませ! 『プレミアム・オーシャン・リゾート』へようこそ!」
すっかり洗練された制服に身を包んだクロエが、満面の笑みで客を出迎える。
彼女は今や、このリゾートを仕切る若き支配人として、王都の貴族たちからも一目置かれる存在になっていた。
「あのクロエお嬢さんが、立派になったものですね」
「ああ。だが、あの『人魚の涙(ただの海水)』を金貨五枚で売りつける商魂は、完全に社長の薫陶を受けているな……」
ナイジェルとアルベルトは、テラスの陰からその様子を眺めていた。
彼らは未だに「ワケありイケメン従業員」として、リゾートの目玉商品(顔面)としてこき使われている。
「ナイジェルさん、アルベルトさん! 次のお客様がいらっしゃいましたよ! オプションの『哀愁の相席プラン』が入ってますから、早くシャツの胸元を開けてください!」
「……はいはい、ただいま行きますよ」
「俺の尊厳は、すっかり金貨の対価に成り下がったな……」
二人はため息をつきながら、再び「非日常」を演じるために客の元へと向かっていった。
マックス爺さんも、今はリゾートの「名物オーナー」として、客の令嬢たちに昔の武勇伝を語り聞かせるという楽な仕事で、悠々自適な老後を送っている。
全てが順調。利益は右肩上がり。
愛結商店の「海辺のリゾート計画」は、大成功を収めていた。
「……ふあぁ」
しかし、パラソルの下で優雅にトロピカルジュースを飲んでいた愛結は、退屈そうに大きなあくびをした。
「社長? どうされました? 売上は過去最高を記録していますよ」
書類の束を抱えたマリアンヌが、不思議そうに尋ねる。
愛結はサングラスを外し、青い海を眺めながらぽつりと言った。
「……飽きたわ」
「はい?」
「海はもう飽きたのよ。毎日毎日、波の音と潮の匂い……最初はバカンス気分で楽しかったけど、刺激が足りないわ!」
愛結は立ち上がり、バンッとテーブルを叩いた。
「海を制覇したなら、次は山よ! そうね……雪山! 雪山に『遭難寸前の客をぼったくり価格で救助する、極寒のサバイバル山荘』を作るわよ!」
「しゃ、社長!? またそんな無茶苦茶な……!」
マリアンヌが慌てる中、愛結はすでに次の「悪徳ビジネス」の構想をノートに書き殴り始めていた。
「ナイジェル! アルベルト! あんたたち、明日から雪山に行くわよ! 今度は『吹雪の中で遭難者を温める、熱血マッスル従業員』をやってもらうから、今のうちに筋トレしておきなさい!」
「「……は?」」
遠くから聞こえてきた二人のイケメンの絶望の声が、波音にかき消されていく。
海辺の村に平和を取り戻した悪徳令嬢は、休むことなく次なる野望へと突き進む。
彼女の「ぼったくりスローライフ」は、まだまだ終わる気配を見せなかった。
(第四章 完)




