二者択一? いいえ、総取りよ
愛結商店のロゴが入った豪華な馬車から降りてきたのは、仕立ての良いスーツを着こなした一人の女性だった。
彼女の顔を見た瞬間、クロエとマックス爺さんは信じられないものを見るように目を丸くした。
「お、お母さん……!?」
「マリアンヌ……! お前、どうしてこんなところに……!」
クロエの母親、マリアンヌだった。
彼女は娘の姿を見つけるなり、涙ぐみながら駆け寄り、クロエを強く抱きしめた。
「クロエ! お父さんも、無事だったのね……!」
「お母さん! でも、どうして王都から……お仕事は?」
困惑するクロエに、マリアンヌは涙を拭いながら答えた。
「それが……私にもよくわからないの。昨日、突然『愛結商店』の総店長様から呼び出されて……」
「そうよ。私がハーブに命令して、あんたのお母さんを『愛結商店・海辺のリゾート開発部門の責任者』に任命したのよ」
愛結が、パラソルの下からドヤ顔で種明かしをした。
「聞けば、お母さんは王都の商会で事務の仕事をしてたんでしょ? ちょうどいいじゃない。この村を巨大リゾートにするには、現地のことをよく知っていて、かつ事務処理ができる人間が必要だったのよ」
「そ、それでは……」
「ええ。お母さんは今日から、この村で愛結商店の幹部として働くの。もちろん、給料は王都の三倍は出すわよ」
愛結の言葉に、マリアンヌは何度も何度も頭を下げた。
「ありがとうございます……! 王都での生活は苦しくて、クロエを迎えに行きたくても、お父さんの負担になると思って……本当に、ありがとうございます!」
「感謝するなら、しっかり働いて利益を出しなさいよ。私、赤字は許さないから」
愛結はふんと鼻を鳴らし、クロエの方を見た。
「どう? これで『お爺ちゃん』も『お母さん』も『村』も、全部あんたのものよ。文句ある?」
「社長……!」
クロエは、大粒の涙をこぼしながら愛結に抱きついた。
「ありがとうございます! 私、一生懸命働きます! 海水を金貨五枚で売れるくらい、立派な悪徳商人になります!」
「ふふっ、その意気よ。あんたなら、ハーブに次ぐ立派な守銭奴になれるわ」
愛結は満足げに笑い、クロエの頭を撫でた。
その様子を見ていたナイジェルとアルベルトは、やれやれと肩をすくめた。
「……やり方は無茶苦茶ですが、結果的には大団円ですね」
「ああ。金と権力で家族の絆を修復するとは……相変わらず、恐ろしい女だ」
二人の「ワケありイケメン」も、この理不尽なハッピーエンドには苦笑するしかなかった。
マックス爺さんも、娘と孫娘の笑顔を見て、静かに涙を拭っていた。
「嬢ちゃん……いや、社長。俺の負けだ。この民宿も、村も、好きにしてくれ」
「当然よ! さあ、感動の再会はここまで! 明日から、村全体を巻き込んだリゾート大工事を始めるわよ!」
こうして、クロエの家族問題は、愛結の「圧倒的な経済力」という名の暴力によって、誰一人泣くことのない完全なハッピーエンドを迎えたのであった。




