悪徳令嬢の圧倒的暴力(経済力)
「ば、馬鹿な……! 黒波商会が、たった一日で買収されるなど……!」
幹部の男は、愛結が突きつけた書類(買収証明書)を見て、がっくりと膝をついた。
そこには、王都の経済を牛耳る愛結商店・総店長ハーバートのサインが、これでもかとばかりにデカデカと記されていた。
「嘘だろ……? おい、旦那! 冗談だと言ってくれよ!」
「……事実です。愛結商店の圧倒的な資金力と、ハーバート総店長の容赦ない市場操作……我々のような中堅商会など、赤子をひねるようなものだったのでしょう……」
幹部の男は完全に戦意を喪失していた。
愛結は冷たい目で見下ろしながら、ガストンから権利書をひったくった。
「というわけで、この土地の権利は正式に『愛結商店』のものになったわ。あんたたち、私の敷地からさっさと消えなさい」
「ひぃっ……!」
ガストンと用心棒たちは、ナイジェルとアルベルトの冷たい視線を浴びながら、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。幹部の男も、逃げるように馬車に乗り込んで去っていく。
あっという間の出来事に、マックスとクロエは口を開けたまま立ち尽くしていた。
「……終わったわよ、爺さん」
「じょ、嬢ちゃん……あんた、一体何者なんだ……?」
「ただの『悪徳令嬢』よ」
愛結はふふっと笑い、奪い返した権利書をビリビリに破り捨てた。
「なっ!? 嬢ちゃん、何をしてるんだ! それはこの民宿の大事な……!」
「こんな紙切れ、もう必要ないわ。だって、この村一帯の土地は、すでに愛結商店が丸ごと買い上げちゃったんだから」
「……は?」
マックスの言葉に、愛結は事も無げに答えた。
「昨日、ハーブに連絡して、この村の土地を全部買収させたのよ。だから、ここはもう『私の村』よ」
「村ごと買っただと……!?」
「ええ。これからは、村全体を巻き込んだ『超巨大・海辺のリゾート開発』を始めるわよ! 爺さんとクロエちゃんには、その現地責任者として馬車馬のように働いてもらうからね!」
愛結の理不尽すぎるスケールの大きさに、マックスは言葉を失った。
しかし、クロエだけは目を輝かせていた。
「すごい……! 社長、一生ついていきます!」
「いい心掛けね、クロエちゃん。でも、あんたにはまだ一つ、解決しなきゃいけない問題が残ってるわよね?」
愛結は、クロエの顔を覗き込んだ。
クロエはハッとして、うつむいた。
「……お母さんのこと、ですか。でも、私……お爺ちゃんを置いて王都には行けません。だから、お母さんには手紙で謝って……」
「馬鹿ね」
愛結は、クロエの頭を軽く小突いた。
「二者択一なんて、三流の貧乏人がすることよ。私は『悪徳令嬢』よ? 欲しいものは、全部強引に手に入れるの」
その時、村の入り口から、一台の立派な馬車が砂煙を上げて走ってくるのが見えた。
馬車の側面には、輝く『愛結商店』のロゴが描かれている。
「さあ、あんたの『問題の解決策』が到着したわよ」
愛結の言葉とともに、馬車の扉が開いた。




