地上げ屋襲来、そして社長の逆鱗
「……はあ? 命だけは助けてやるだと?」
愛結の挑発的な言葉に、ガストンは一瞬きょとんとした後、腹を抱えて大笑いした。
「ははははっ! 傑作だな! どこぞの令嬢か知らねえが、王都の商会を舐めるなよ! おい、やっちまえ!」
ガストンの合図で、背後に控えていた屈強な用心棒たちが一斉に武器を抜いた。
マックスが「嬢ちゃん、危ねえ!」と叫んで庇おうとするが、愛結はパラソルの下から一歩も動かず、ただ冷たく言い放った。
「ナイジェル、アルベルト。片付けなさい」
「承知いたしました」
「……やれやれ、海辺のリゾートに来てまで力仕事とはな」
ため息をつきながら前に出たのは、胸元がはだけた麻のシャツを着た二人のイケメンだった。
用心棒たちは「なんだこの優男どもは」と嘲笑したが、次の瞬間、彼らの視界は反転した。
「がはっ!?」
「ぐあああっ!」
ナイジェルが流れるような動きで一人を投げ飛ばし、アルベルトが強烈な蹴りで二人を海まで吹き飛ばす。
彼らはただの「ワケありイケメン」ではない。公爵家の筆頭執事と、王国の第一王子(剣術の達人)である。田舎の用心棒など、相手になるはずもなかった。
「な、なんだこいつら……!」
一瞬で用心棒が全滅し、ガストンは腰を抜かして砂浜にへたり込んだ。
「さあ、ガストンとか言ったわね」
愛結がゆっくりと歩み寄り、ガストンの胸ぐらを掴んで引き上げた。
その瞳には、彼女の「金の卵(ぼったくり民宿)」を奪おうとした者に対する、絶対零度の怒りが宿っていた。
「私のビジネスを邪魔する奴は、万死に値するのよ。……でも、あんたの言う通り、権利書があんたの『王都の商会』に渡っているなら、暴力だけじゃ解決しないわね」
「そ、そうだ! 俺のバックには王都の『黒波商会』がついてるんだ! お前らみたいな田舎者が手を出せる相手じゃねえぞ!」
ガストンは震える声で虚勢を張った。
その時、民宿の前に停まっていた豪華な馬車から、一人の初老の男が降りてきた。彼こそが、権利書を買い取りに来た「黒波商会」の幹部だった。
「騒々しいですね。ガストン、立ち退きは終わったのですか?」
「お、おお! 助かりましたぜ、旦那! こいつらが邪魔をしてきやがって……!」
ガストンは幹部にすがりついたが、幹部の男は愛結の顔を見るなり、雷に打たれたように硬直した。
「あ、あなたは……愛結商店の、エレノア社長……!?」
「あら、私の顔を知ってるのね。話が早くて助かるわ」
愛結はニヤリと笑い、懐から一枚の書類を取り出してヒラヒラと振った。
それは、昨夜のうちに王都のハーバートから魔法通信(速達)で取り寄せたものだった。
「あんたの『黒波商会』だけどね。昨日、うちのハーブ(総店長)が敵対的買収を完了させたわよ。つまり、あんたたちの商会は、今この瞬間から『愛結商店』の傘下ってわけ」
「なっ……!?」
ガストンと幹部の男の顔から、一瞬にして血の気が引いた。
愛結商店の圧倒的な暴力(経済力)が、海辺の村の地上げ屋を完全に包囲した瞬間だった。




