海辺の捜索とイケメンの説教
すっかり日が落ちた頃、クロエはナイジェルとアルベルトに付き添われて民宿へと戻ってきた。
入り口では、心配そうにウロウロしていたマックス爺さんが、クロエの姿を見るなり駆け寄ってきた。
「クロエ! お前、どこに行ってたんだ! 心配したんだぞ!」
「……お爺ちゃん」
クロエは祖父の顔をまっすぐに見据え、深呼吸をしてから大声で宣言した。
「私、王都には行かない! お母さんのところにも行かない! ずっとこの村で、お爺ちゃんと一緒に民宿をやるんだから!」
「な、何を言ってるんだ! お前は都会に憧れてただろうが! それに、ここはもうすぐ……」
「地上げ屋なんかに渡さない! 私が守るもん!」
祖父と孫娘の、互いを思いやるがゆえの大喧嘩。
その様子を、テラスの特等席でワイングラスを傾けながら眺めていた愛結が、パンッと手を叩いた。
「はいはい、お涙頂戴の三文芝居はそこまでよ」
「嬢ちゃん……」
愛結は立ち上がり、マックスの前に歩み寄った。
「爺さん、あんたの『孫娘を都会へ送り出して自分は身を引く』っていう悲劇のヒーローごっこは終わり。クロエちゃんはここに残るって決めたのよ」
「だが、明日の朝には王都の買い取り業者が来るんだぞ! 権利書を取られちまったら、どうしようもねえんだ!」
「馬鹿ね。私が『どうもしない』って言ったのを本気にしたの?」
愛結はニヤリと笑い、ナイジェルとアルベルトを振り返った。
「いい? 私のビジネスを邪魔する奴は、王都の商会だろうが地上げ屋だろうが、徹底的に叩き潰す。それが『愛結商店』のやり方よ」
「……つまり、明日は荒事になるということですね、先生」
「ええ。あんたたち、明日は『ワケありイケメン従業員』じゃなくて、『愛結商店の武闘派エージェント』として働いてもらうわよ」
ナイジェルは眼鏡を光らせ、アルベルトは首を鳴らして笑みを浮かべた。
彼らもまた、すっかり愛結の「悪徳のスケール」に染まりきっていたのだ。
「爺さん、クロエちゃん。あんたたちは明日、黙って見ていなさい。都会の『本当の暴力』ってやつを、特等席で見せてあげるわ」
愛結の自信に満ちた宣言に、マックスとクロエは呆然と頷くしかなかった。
そして翌朝。
ガストン率いる地上げ屋一行と、王都からやってきた「権利書の買い取り業者」の馬車が、民宿の前に到着した。
「さあ、時間だぜ爺さん! 荷物はまとめたか?」
下品な笑い声を上げるガストン。
しかし、彼を出迎えたのは、怯える老人と少女ではなく、パラソルの下で優雅に紅茶を飲むプラチナブロンドの悪徳令嬢と、その両脇に控える二人のイケメンだった。
「遅いわね、三流悪党。さっさと権利書を渡しなさい。そうすれば、命だけは助けてあげるわよ」
愛結の冷酷な宣告とともに、海辺の村を揺るがす「愛結商店」の圧倒的な蹂躙が、今まさに始まろうとしていた。




