すれ違う祖父と孫娘
夕暮れの海辺。
波打ち際に座り込んだクロエは、膝を抱えて静かに泣いていた。
「お爺ちゃんの馬鹿……私のこと、邪魔になったんだ……」
王都の母親から手紙が来ていたことは知っていた。
確かに、昔は「都会に行きたい」「お母さんと暮らしたい」と言ったこともある。でも、今は違う。
この寂れた村も、不器用で頑固な祖父のことも、クロエは大好きだったのだ。
「……こんなところで泣いていると、風邪を引きますよ」
不意に、頭上から穏やかな声が降ってきた。
見上げると、夕日を背にして立つナイジェルと、その後ろで腕を組むアルベルトの姿があった。
「ナイジェルさん……アルベルトさん……」
「社長から、君を慰めてこいと命令されましてね。……まあ、私自身も心配だったのは事実ですが」
ナイジェルは砂浜にハンカチを敷き、クロエの隣に腰を下ろした。
アルベルトも無言で反対側に座る。二人の「ワケありイケメン」に挟まれ、クロエは少しだけ頬を赤らめながらも、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私、昨日聞いちゃったんです。お爺ちゃんが、民宿を畳んで私を王都に送るって。さっきの借金取りの人たちの話も……お爺ちゃん、きっとわざと民宿を取られようとしてるんです」
「なるほど。君の将来を思って、自分が身を引こうというわけか」
「そんなの嫌です! 私、王都には憧れてるけど……でも、お爺ちゃんを一人にしてまで行きたくない! この村で、ずっと一緒にいたいのに……!」
クロエの悲痛な叫びが、波音に溶けていく。
ナイジェルは眼鏡を押し上げ、静かに口を開いた。
「クロエお嬢さん。不器用な大人というのは、時として『自己犠牲』を美しいものだと勘違いする生き物なのです」
「自己犠牲……」
「ええ。自分が我慢すれば、相手は幸せになれる。そう信じ込んでいる。……ですが、残された側からすれば、それはただの『呪い』でしかありません」
ナイジェルの言葉には、どこか実感のこもった重みがあった。
かつて公爵家で、愛結の悪評を一人で被ろうとしていた彼自身の過去と重なっているのかもしれない。
「じゃあ、どうすればいいんですか……? 私、お爺ちゃんに何て言えば……」
「言葉で伝わらないなら、行動で示すしかないだろう」
今まで黙っていたアルベルトが、静かに口を開いた。
「俺も、親父(国王)の期待に応えようと必死だった。だが、ある女(愛結)に言われたのだ。『自分の人生くらい、自分で決めなさい』とな」
「アルベルトさん……」
「お前が本当にここにいたいなら、その場所は自分で守り抜け。祖父の勝手な自己犠牲など、お前の意志で叩き壊してやればいい」
第一王子の力強い言葉に、クロエはハッと顔を上げた。
二人のイケメンの不器用な慰めと説教は、少女の心に確かに火を灯していた。
「……私、やります。お爺ちゃんにも、あの地上げ屋にも、絶対に民宿は渡しません!」
「その意気です。……まあ、実際の『暴力』は、うちの社長が嬉々として振るうと思いますがね」
ナイジェルが苦笑交じりに言うと、クロエも涙を拭って笑顔を見せた。
すれ違っていた祖父と孫娘の想い。それを解決するための反撃の準備が、静かに整いつつあった。




