忍び寄る地上げ屋とマックスの決断
翌日。
民宿の前に、いかにも柄の悪い男たちが数人、下品な笑い声を上げながらやってきた。
先頭に立つのは、派手なスーツを着崩し、金歯を光らせた小太りの男だ。村の高利貸しであり、地上げ屋でもあるガストンだった。
「よう、マックス爺さん! 借金の取り立てに来てやったぜ。……おや? 随分と小綺麗になっちまって」
ガストンは、すっかり高級リゾート風に改装された民宿を見回し、舌打ちをした。
彼はこの民宿を借金のカタに取り上げ、土地を王都の商会に売り飛ばす計画を立てていたのだ。
「ガストン。借金なら、全額耳を揃えて返してやる」
マックスは堂々と前に進み出ると、愛結から受け取った金貨が入った革袋を、ガストンの足元に投げ捨てた。
ずっしりとした重い音に、ガストンは目を丸くした。
「な、なんだと……? お前みたいな貧乏人が、どこでこんな大金を……!」
「俺のスポンサーが用意してくれたんだ。これで借金はチャラだ。さっさと帰れ」
マックスの言葉に、ガストンは悔しそうに顔を歪めたが、すぐにニヤリといやらしい笑みを浮かべた。
「へえ、なるほどな。だが、爺さん。借金は返せても、この土地の『権利書』は俺が預かってるのを忘れたか?」
「なんだと?」
「お前が前に金を借りた時、担保として土地の権利書を渡したよな。俺はそれを、王都の大きな商会に売る手続きをもう進めちまってるんだよ」
ガストンは懐から一枚の羊皮紙を取り出し、ひらひらと見せつけた。
「今更借金を返されても遅いんだよ。明日には、王都から権利書の買い取り業者が来る。お前らは立ち退きだ!」
「きさま……! 話が違うぞ!」
マックスが胸倉を掴もうとするが、ガストンの背後にいた用心棒たちが剣の柄に手をかけ、威嚇した。
マックスは悔しげに拳を握りしめ、立ち止まるしかなかった。
「ははは! 大人しく出て行く準備でもしておくんだな、爺さん!」
ガストンたちは高笑いしながら去っていった。
その様子を、テラスから愛結、ナイジェル、アルベルトが静かに見下ろしていた。
「……先生。どうやら厄介なことになったようですね」
「あの小太りの男、王都の商会と繋がっていると言っていたな。どうする気だ?」
二人の問いかけに、愛結はパラソルの下で優雅にあくびをした。
「どうもしないわよ。あの爺さん、ちょうど『民宿を畳む』って言ってたんだから、好都合じゃない」
「ですが、それでは先生の『リゾート計画』が……」
「ナイジェル、あんたまだ私のことがわかってないのね」
愛結はサングラスをずらし、冷たい瞳でガストンの背中を見つめた。
「私の『金の卵』を横取りしようとする奴が、無事で済むと思ってるの? ……まあいいわ。それより、今はあっちの方が問題ね」
愛結の視線の先では、民宿の裏手から飛び出していくクロエの背中があった。
昨日の会話を聞いてしまった彼女は、祖父が自分を追い出すために民宿を手放そうとしていると思い込み、深く傷ついていたのだ。
「……青春ねえ。ナイジェル、アルベルト。あんたたち、ちょっとあの子を追いかけて、適当に慰めてきなさい」
「適当に、ですか……」
「そうよ。ワケありイケメンの腕の見せ所よ。しっかり働いてきなさい!」
愛結の無茶振りにため息をつきながら、二人のイケメンはクロエの後を追って海辺へと駆け出していった。




