社長の本気と、最強のブラック企業
「……後悔しますよ、ハーバート殿。我々『黄金の天秤』を敵に回して、この王都で無事に商売が続けられるとでも?」
引き抜きを断られた商会連合の幹部たちは、顔を真っ赤にして立ち上がった。
彼らは王都の物流と市場を牛耳る巨大組織だ。本気で潰しにかかれば、新興の愛結商店などひとたまりもない――はずだった。
「あら、誰を敵に回すって?」
バン!と応接室のドアが蹴り開けられ、愛結が満面の笑み(目は全く笑っていない)で姿を現した。
「しゃ、社長……!」
「ごきげんよう、豚……いえ、他所の商会の幹部さんたち。うちの優秀な店長に、ずいぶんと安い値をふっかけてくれたみたいじゃない」
愛結は幹部たちの前に歩み寄り、冷酷な見下すような視線を向けた。
「言っておくけど、私は自分のモノ(部下)を取られるのが世界で一番嫌いなの。それに、うちのハーブは『金貨五倍』なんかじゃ安すぎるわ。彼の価値は、王都の経済そのものを回せるレベルよ」
「ふ、ふざけるな、小娘が! 我々を怒らせた代償は高くつくぞ! 明日からお前たちの店に、一切の物資が届かないようにしてやる!」
幹部たちが捨て台詞を吐いて部屋を出て行こうとした、その瞬間。
「――おっと。動かない方がいいですよ、豚さんたち」
背後から、冷たい刃の感触が幹部たちの首筋に当てられた。
いつの間にか部屋の影に潜んでいたシャーリーが、無表情で暗殺用のナイフを構えている。
「ひぃっ!?」
「シャーリー、殺しちゃダメよ。服が汚れるから。……さて、ゴードン、バルガス!」
「ハッ! お呼びでしょうか、社長!」
「ふぉっふぉっ、出番ですかな」
応接室に、巨漢の元・近衛騎士と、老獪な元・商工会議所役員が雪崩れ込んできた。
幹部たちの顔が、恐怖で完全に青ざめる。
「バルガス、あんたの『ネット軍師』としてのコネと嫌がらせの知識をフル活用して、こいつらの商会の不正や弱みを徹底的に洗い出しなさい。ゴードンは、彼らの商会の倉庫の前に立って『物理的な警備(という名の封鎖)』を。シャーリーは、彼らの寝首を『寸止め』で毎晩掻き斬るフリをして精神を削りなさい」
「「「御意!!」」」
愛結商店の誇る「治安の悪い従業員たち」が、嬉々として動き出す。
愛結は、腰を抜かして震える幹部たちを見下ろし、悪魔のように微笑んだ。
「さあ、王都最大の商会連合さん。私と『経済戦争』をする覚悟はあるかしら? うちの従業員は、コンプライアンスなんて言葉、一文字も知らないわよ?」
――その日のうちに、『黄金の天秤』は完全に崩壊した。
バルガスの情報操作により不正が暴かれ、ゴードンの物理封鎖で物流が止まり、シャーリーの嫌がらせで幹部たちは全員ノイローゼになったのだ。
そして、彼らの商会が手放した市場のシェアと莫大な資産は、すべて愛結商店が「合法的に」安値で買い叩き、吸収合併してしまった。
「……先生。やりすぎです。商会連合を一つ潰したせいで、またうちの業務規模が倍になりましたよ」
「ふふん、いいじゃない。これでハーブも、もっと大きなスケールで仕事ができるわよ!」
胃薬を飲むナイジェルをよそに、愛結は高笑いする。
こうして、愛結商店は王都において「絶対に敵に回してはいけない最強のブラック企業」としての地位を、不動のものとしたのであった。




