ハイブリッド店長の覚醒と、王都の熱狂
「素晴らしい! これぞ真の英雄の戦いだ!」
「おお、あの恐ろしい罠を寸前で回避するとは! 我が息子の才能が恐ろしい!」
王都の郊外、『龍と虎の首縊りの迷宮』。
愛結商店が主催する「第一回・大サバイバルツアー」は、貴族たちの熱狂的な歓声に包まれていた。
彼らは安全な観覧席から、自分の子息たちが迷宮の罠を掻い潜り、魔獣と戦う(ように見える)姿を興奮気味に見守っている。
「……計算通りですね。人間の『見栄』と『承認欲求』は、これほどまでに財布の紐を緩くするとは」
観覧席の裏で、ハーバートは分厚い帳簿に次々と羽ペンを走らせていた。
その顔には、かつての小市民的な苦労人の面影はない。愛結の「悪徳の精神」を完全にインストールした、冷徹な経営者の顔だ。
「店長、ボルドー伯爵が『息子の活躍をもっと派手に見せたい』と申し出てきました」
「よろしい。ゴードンに指示して、爆発の魔石(※使用期限ギリギリの安物)を三つ追加で起爆させなさい。もちろん、『特大エフェクト・オプション』として金貨百枚を請求します」
ナイジェルの報告に、ハーバートは即座に指示を出す。
愛結の「ド派手な演出」と、ハーバートの「原価の安い素材の再利用」が完璧に噛み合っていた。
「さらに、シャーリーの『危機一髪救出オプション』も大好評です。罠に落ちかけた子息を、彼女が間一髪で助け出す演出に、親たちは感動してチップを弾んでいます」
「チップは全額商会で回収し、後で彼女に歩合として『ナイフの研ぎ石(※特売品)』を支給します。バルガスの『マリアの懺悔室』の売り上げはどうですか?」
「そちらも絶好調です。迷宮の恐怖で泣き出した子息たちをマリアが慰め、親たちが『聖女の加護代』としてお布施を置いていきます」
完璧だった。
愛結が適当にぶち上げた「金貨五百枚のぼったくりツアー」は、ハーバートの緻密な計算とオプション販売により、参加者一人当たり金貨一千枚以上を搾り取る「超・悪徳集金システム」へと進化していた。
「そして、いよいよメインイベントです。龍と虎の出番ですよ」
ナイジェルが指差す先、迷宮の最深部を模したステージに、巨大な龍と虎が姿を現した。
彼らは「最高級霜降り肉」を報酬として約束されているため、やる気は限界突破している。
凄まじい咆哮と、派手な炎(※絶対に当たらないように計算された寸止め)に、観客のボルテージは最高潮に達した。
「……素晴らしい。経費を投資として使い、それ以上の利益をもぎ取る。社長の言葉の意味が、今なら痛いほどわかります」
ハーバートは、帳簿の「最終利益」の欄に、信じられないほどの桁数の数字を書き込んだ。
それは、彼が大手商会で番頭をしていた頃の、数年分の利益に匹敵する額だった。
「ナイジェルさん。このビジネスモデルは、王都の貴族全員をしゃぶり尽くすまで継続しますよ。私は、一厘の無駄もなく、この商会を王都一の大企業に育て上げてみせます」
「……先生。あなたが連れてきた小市民、完全に化け物になりましたよ」
ナイジェルは、愛結商店の恐るべき飛躍と、それに伴って激増するであろう自分の仕事量に、そっと胃薬を追加で飲み込んだ。
♢
一方その頃、南の海辺の村では。
「あー、最高! やっぱり仕事は他人に押し付けるに限るわね!」
愛結が、自分の商会がとんでもないことになっているとも知らず、優雅にトロピカルジュースを啜っていた。




