類は友を呼ぶ、あるいは類が類を巻き込む
王都の一等地。クライス公爵家の権力と財力をフル活用(という名の職権乱用)して確保した三階建ての立派な店舗のプレオープンを数日後に控え、エレノア(愛結)は腕を組んで頷いた。
「よし。箱はできたわ。次は中身ね」
「中身とは、商品のことですか?それなら現在、地下室で僕が徹夜で井戸水に食紅を混ぜていますが」
目の下に前世と同じようなクマを作ったナイジェル(蛯原)が、恨めしそうに言う。
しかしエレノアは、そんな執事の疲労など意に介さない。
「違うわよ。従業員よ、従業員。私とナイジェルだけで店を回すなんて、スローライフの理念に反するじゃない。私はオーナーとして、ふかふかの椅子に座って売り上げを眺める係なんだから」
「スローライフの理念がどんどん資本主義のバケモノに寄っていってる気がするんですが」
「細かいことは気にしない。というわけで、さっそく面接を始めるわよ!」
♢
数時間後。
店舗の一階、無駄に豪華な応接セットのソファにふんぞり返ったエレノアの前に、三人の人物が並んでいた。
ナイジェルは頭痛を堪えるようにこめかみを押さえている。
「……お嬢様。なぜ、こんなことに」
「あら、完璧な布陣じゃない」
エレノアは満足げに三人を見渡した。
一人目は、メイド服を着た無表情な少女、シャーリー。
彼女はつい先ほど、エレノアの命を狙って窓から侵入してきた暗殺者である。
本来ならナイジェルが取り押さえるか、近衛兵を呼ぶところだったが、エレノアは彼女の首元に突きつけられたナイフを指先で退け、こう言ったのだ。
『あなた、手先が器用そうね。そのナイフ捌き、ポーションの瓶のラベル貼りに活かしてみない? 暗殺ギルドの三倍の給料を出すわよ。しかも完全週休二日制、有給あり』
『……乗った』
かくして、暗殺者は開始三分でホワイトな労働条件に屈し、メイド服に着替えてラベル貼り担当となった。
二人目は、筋骨隆々の大男、ゴードン。
彼は元・近衛騎士だが、融通が利かない堅物すぎたせいで騎士団をリストラされ、路頭に迷っていたところをエレノアに拾われた。
『お前、体格がいいわね。店の前に立って警備と客引きをやりなさい。合言葉は「買わない奴は叩き斬る」よ』
『おお……!なんという慈悲深きお言葉!このゴードン、お嬢様のために命を懸けて客を呼び込み、そして叩き斬りましょう!』
『よし、採用』
愛結の適当な発言を「深遠なご意志」と勝手に曲解したゴードンは、感涙にむせびながら忠誠を誓っている。ナイジェルは「客引きじゃなくて強盗では?」とツッコミたかったが、もう諦めていた。
そして三人目は、白髪だが姿勢が良いな老人、バルガス。
彼は元・王都商工会議所の役員だったが、「若返り」を理由にリストラされたばかりだった。
「ふぉっふぉっふぉ。お嬢様、わたしのような老いぼれを雇って何をおさせになるおつもりでしょう? わたしはもう、重い荷物も持てませんし、長時間立つこともできぬ老体。できれば一日中、お茶を飲んで日向ぼっこをしていたいのですが」
いけしゃあしゃあとサボり宣言をするバルガスに、ナイジェルが眉をひそめる。
しかし、エレノアはニヤリと笑った。
「いいわよ、それで」
「……ほう?」
「あなたは商工会議所の元役員。つまり、この王都の商売の裏も表も、税金対策も、貴族の弱みも、ぜーんぶ知ってるってことよね?」
「……まあ、それなりには」
「なら、あなたは店の奥で一日中お茶を飲んでていいわ。その代わり、面倒な役人や貴族が店にケチをつけてきたら、あなたの知識とコネで適当に追い返しなさい。サボるための労力は惜しまないタイプでしょ?」
エレノアの言葉に、バルガスの細い目がスッと見開かれた。
そして、人の悪そうな笑みを浮かべる。
「ふぉっふぉっふぉ……!これは恐れ入りました。クライス公爵家の令嬢は、ただの我儘娘ではないと見える。よいでしょう、この老いぼれの知恵、サボるためなら惜しみなく使わせてもらいますよ」
「交渉成立ね。よろしく、バルガス爺さん」
暗殺者、脳筋騎士、サボり魔の老獪な元役員。
あまりにも濃すぎる、そして治安の悪すぎる従業員たちを前に、ナイジェルは深くため息をついた。
「……先生。これ、店を開く前に王都の警備隊に踏み込まれませんか?」
「大丈夫よナイジェル。ほら、バルガス爺さんがなんとかしてくれるから」
「ふぉっふぉっふぉ。警備隊長なら、愛人の家に通い詰めている弱みを握ってますから。もみ消すのは容易いことです」
「ほらね?」
「ほらね、じゃないですよ! 完全に悪徳商法の組織図じゃないですか!」
ナイジェルの悲痛な叫びは、開店準備の喧騒の中に虚しく吸い込まれていった。
かくして、異世界最悪のぼったくりポーション屋が、いよいよ王都にオープンしようとしていた。




