最凶リゾートの接待プレイと、荒稼ぎの全貌
愛結商店プロデュース『龍と虎の首縊りの迷宮リゾート』のオープン初日。
かつて「絶対に生きては帰れない」と恐れられた最凶のダンジョンの前には、信じられないほどの長蛇の列ができていた。
「いらっしゃいませえええ! 入場チケットは金貨一枚! 『お助けオプション』付きのVIPパスは金貨五十枚でございますぞおおお!」
ゴードンが入り口でチケットをもぎりながら、持ち前の大声で客を煽る。
列に並んでいるのは、腕自慢の冒険者たちだけではない。噂を聞きつけた貴族の若者や、物見遊山の観光客までが押し寄せていた。
「安全に伝説の魔獣と戦えるなんて、最高の腕試しじゃないか!」
「アユ殿の商会が運営しているなら、安全性は保証されているはずだ!」
客たちの期待と興奮が入り混じる中、迷宮の内部では、愛結の「悪徳かつ完璧なビジネスモデル」がフル稼働していた。
『グオォォォォ! 愚かな人間どもよ、我の炎に焼かれて消えるがよい!』
第一層の広場。
黄金の龍が、冒険者たちの目の前で凄まじい業火を吹き出した。
しかし、その炎は冒険者たちを「絶妙に避けて」周囲の岩を焦がすだけである。
「うおおお! すげえ迫力だ!」
「俺の剣撃をくらえええ!」
冒険者が放った剣の腹が、龍の鱗にカチンと当たる。
すると龍は――。
『グワァァァ! なんという鋭い一撃! 見事だ、人間よ……!』
わざとらしく大仰な悲鳴を上げ、ドスンと地面に倒れ伏した。
完全に「接待プレイ」である。
「やったぞ! 俺が伝説の龍に一矢報いたんだ!」
「すげえええ!」
歓喜に沸く冒険者たち。
倒れたふりをしている龍は、薄目を開けて物陰の愛結にテレパシーを送った。
『(……おい社長。今のやられ方、どうだった? 迫力あったか?)』
『(ええ、完璧よ。今日のボーナスはマリア特製のパンケーキと、高級漬物の二段重ねね)』
『(っしゃあああ!! 次の客もド派手に接待してやるぜえええ!)』
一方、別のエリアでは、白銀の虎が貴族の若者たちを相手に「ギリギリで攻撃を避けさせ、スリルを味わわせる」という高度なアトラクションを提供していた。
魔獣たちは、圧倒的な食欲(漬物とスイーツ)のために、プロのキャストとして完全に覚醒していたのである。
「……先生。魔獣たちの接待スキルが高すぎて、客の回転率が異常なことになってますよ」
ナイジェルが、ものすごい勢いで増えていく売り上げ帳簿を見ながら呟いた。
「当然でしょ。客は『伝説の魔獣と戦った』という名誉が欲しいだけ。魔獣たちは『美味しいご飯』が欲しいだけ。お互いのニーズが完璧にマッチした、究極のWIN-WINモデルよ」
愛結は、特等席のソファでくつろぎながら冷たいジュースを啜る。
「しかも、迷宮内で疲れた客には、シャーリーが『ボッタクリ価格のポーション』を売り歩いてるし、入り口ではマリアと王子が『迷宮限定・龍と虎のぬいぐるみ』を飛ぶように売ってるわ。まさに隙のない集金システムね」
実際、マリアの聖女スマイルと王子の爽やかな営業トークにより、原価が銅貨数枚のぬいぐるみは、飛ぶように金貨で売れていた。
かつての最凶迷宮は、愛結商店の従業員たちによって、完全に「搾取のテーマパーク」へと作り変えられてしまったのだ。
「……先生の商魂の逞しさには、もう呆れるのを通り越して感心しますよ。でも、これだけ儲かったら、貴族たちへの配当を払ってもお釣りが来ますね」
「でしょ? これでしばらくは、何もせずに遊んで暮らせるわ。私の完璧なスローライフの完成よ!」
愛結は高笑いし、ナイジェルも(胃薬を飲みながらではあるが)少しだけ安堵の息を吐いた。
しかし、彼らは忘れていた。
愛結商店には、「利益が出れば出るほど、勝手に仕事を増やそうとする」老獪なネット軍師(笑)がいることを。
そしてその日の夜、愛結の「スローライフの夢」は、再び無惨に打ち砕かれることになるのだった。




