表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/72

最凶迷宮の理不尽な罠と、バリアフリー化

 王都から馬車で北へ半日。


 荒涼とした岩山のふもとに、ぽっかりと巨大な口を開ける漆黒の洞窟があった。

 そこから漏れ出す瘴気は、周囲の草木を枯らし、空を飛ぶ鳥さえも避けて通るほどの禍々しさを放っている。


「……ここが、『龍と虎の首縊りの迷宮』。なんて恐ろしい気配だ……」


 荷物持ちとして同行したアルベルト王子が、ゴクリと唾を飲み込んだ。


 しかし、一行のリーダーであるエレノア(愛結)は、日傘をさしながら退屈そうにあくびをしていた。


「あー、ここね。私が『なんか暗くて怖い感じで、瘴気とか出とけばいいや』って適当に書いたダンジョン」


「先生。自分の作品のラスボスダンジョンに対して、もう少しリスペクトを持てませんか」


 ナイジェル(蛯原)が、胃薬をかじりながらツッコミを入れる。


 一行は、迷宮の入り口を塞ぐ巨大な石の扉の前に立った。


 扉には、古代文字のような不気味なルーンがびっしりと刻まれている。


「さて、この扉の解除方法ですが……原作の設定通りなら、かなり複雑な儀式が必要なはずですよね?」


「ええ。確か……『満月の夜に、乙女の血を垂らし、古の呪文を三回唱えながら、スクワットを百回する』だったかしら」


「最後の一つで台無しですよ! なんでそんな理不尽な設定にしたんですか!」


「深夜のテンションで書いてて、なんか筋トレしたくなったのよ」


 愛結のあまりにも適当な理由に、ナイジェルは頭を抱えた。


 満月でもなければ乙女の血(マリアはお留守番である)もない。おまけにスクワット百回など、令嬢の体でやりたくもない。


「面倒くさいわね。ゴードン、シャーリー」


「ハッ! お呼びでございますか、アユ様!」


「ん。指示を」


 愛結は日傘をくるりと回し、巨大な石の扉を指差した。


「開けて」


「承知いたしましたあああ!! チェストォォォ!!」

「ん。破壊する」


 ゴードンが巨大な大剣をフルスイングし、シャーリーが扉のヒンジ(蝶番)部分に爆薬(ポーションの調合ミスで作った危険物)を仕掛けて起爆した。


 ドゴォォォォォン!!


 轟音と共に、数千年の歴史を持つ「開かずの扉」が、木っ端微塵に粉砕された。


 古代のルーンも、理不尽な罠の解除条件も、圧倒的な物理と火力の前に為す術もなく消え去った。


「よし。これでリゾート施設の入り口は完全なバリアフリーね。お客様にスクワットを強要するなんて、サービス業として失格だもの」


「先生、あなたダンジョンの歴史的価値を何だと思ってるんですか……」


 瓦礫を踏み越え、一行は迷宮の内部へと足を踏み入れた。

 内部は薄暗いが、発光する苔のおかげで視界は確保されている。


「ふむふむ。ここは結構広いわね。入り口付近はチケット売り場にして、この辺りにフードコートを作りましょう。迷宮限定の『ドラゴン焼きそば』とか『タイガーかき氷』とか売れば、冒険者たちが喜んで金貨を落とすわよ」


 愛結は手元の企画書に、楽しそうにメモを書き込んでいく。

 最凶のダンジョンを歩いている緊張感など微塵もない。


「アユ殿! 素晴らしい着眼点だ! 私もこのフードコートで売り子をさせてもらえないだろうか!」


「アルベルト様、あなたは一応王子なんですから、もう少し王族としての自覚を持ってください……」


 ナイジェルがツッコミ疲れで倒れそうになった、その時だった。


 ――ズズズズズ……。


 迷宮の奥底から、地鳴りのような重低音が響いてきた。

 それは間違いなく、巨大な獣の咆哮だった。


「な、なんだ!? この恐ろしいプレッシャーは……!」

「アユ様、お下がりください! ただならぬ気配ですぞ!」


 アルベルトとゴードンが武器を構え、シャーリーも無表情のまま短剣を抜く。


 ナイジェルも息を呑んだ。間違いない。この迷宮の主であり、原作のラスボス級モンスター。

 『龍』と『虎』が、侵入者である彼らに向けて、恐ろしいテレパシーを飛ばしてきたのだ。


『……あぁ……』

『……誰か……来たのか……』


 脳内に直接響く、威厳に満ちた(はずの)恐ろしい声。

 一行が緊張の糸を張り詰めた、次の瞬間。


『……腹減った……』

『……王都で流行ってるらしい、漬物……食いてえ……』


「…………は?」


 愛結の持っていた羽ペンが、ポトリと地面に落ちた。


 最凶の迷宮の奥底から聞こえてきたのは、空腹に喘ぐ、ただの「漬物難民」の情けない声だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ