表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と虎の首縊りの迷宮の悪役令嬢  作者: 秦江湖


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/56

近衛騎士の悲哀と、物理的な客引き

 愛結商店の入り口には、今日も巨大な岩山のような男が仁王立ちしていた。


 元・近衛騎士、ゴードン。

 身長二メートル近い巨躯に、歴戦の傷跡が刻まれた強面。彼が入り口で腕を組んでいるだけで、並の悪党なら道を引き返すほどの威圧感がある。


「いらっしゃいませえええ! 買わない奴は叩き斬りますぞおおお!」


 ただ、その接客態度(?)には大いに問題があった。


「ゴードン、だから斬るなと言ってるでしょう! お客さんが怖がって逃げちゃうじゃないですか!」


 ナイジェル(蛯原)が帳簿から顔を上げ、頭を抱えながら叫ぶ。

 しかしゴードンは「ハッハッハ!」と豪快に笑うだけだった。


「ナイジェル殿、ご心配なく! このゴードン、客を逃がすようなヘマはいたしませぬ! 逃げようとする者は、峰打ちで気絶させてから店内に運び込みますゆえ!」

「それが一番問題なんですよ! 拉致監禁で捕まりますよ!」


 ゴードンは元々、王家を護衛するエリート集団「近衛騎士団」の所属だった。

 彼が愛結商店の面接(という名の愛結の適当なスカウト)に来た際、ナイジェルは疑問に思っていた。「なぜ、これほどの実力者が騎士団をクビになったのか」と。


 その謎が解けたのは、つい数日前のことである。

 店に、ゴードンの元上官である近衛騎士団長がやってきたのだ。


『ゴードンよ。お前がこんな怪しい店で用心棒をしていると聞いて、様子を見に来たが……元気にやっているようだな』

『団長! お久しぶりであります! その節は、大変ご迷惑をおかけしました!』

『……いや、良いのだ。お前には悪気がないことは分かっている。ただ……』


 団長は遠い目をしながら、ナイジェルに語った。


『こいつは、純粋に強すぎたのだ。合同演習では「敵味方の区別なく」全員を制圧してしまい、他国の要人を護衛した際は「少しでも怪しい動きをした」という理由で、要人の専属護衛たちを全員叩きのめしてしまった。結果、外交問題になりかけてな……。泣く泣く、穏便に退団してもらったのだ』


 要するに、ゴードンは「加減を知らない純粋な戦闘マシーン」だったのである。

 悪意がないからこそタチが悪い。騎士団も彼を持て余し、厄介払いしたというのが真相だった。


「……というわけだから、ゴードン。あなたはもう騎士じゃないんです。接客業なんですから、もう少しマイルドに……」

「お嬢様! 入り口に怪しい風体の男が数名、店を窺っております! 同業他社の偵察か、はたまた強盗か! 直ちに制圧いたしますか!」

「だから話を聞け!」


 ナイジェルの制止も虚しく、ゴードンは大剣を抜いて外へ飛び出していった。

 外から「ヒィィィ!」「命だけはぁぁぁ!」という悲鳴が聞こえてくる。


「……ナイジェル、外が騒がしいわね」


 奥のソファから、エレノア(愛結)があくびをしながら起き上がってきた。


「先生、ゴードンがまた暴走してます。あの脳筋、本当にどうにかしてくださいよ。このままだと、うちの店が武闘派の反社組織だと思われます」

「もう思われてるんじゃない? まあいいわ、ちょっと見てくる」


 エレノアが店の外に出ると、そこには、ボロボロになって土下座する数人のチンピラと、仁王立ちで高笑いするゴードンの姿があった。


「ハッハッハ! この程度の腕で、アユ様のお店を狙うとは片腹痛いわ! さあ、命が惜しくば、店内の壺(金貨五十枚)を一人一つ買っていくがよい!」

「か、買いますぅぅぅ! 買わせていただきますぅぅぅ!」


 チンピラたちは泣きながら財布を差し出している。

 完全に恐喝だった。


「……ゴードン」

「ハッ! アユ様! 不審者は全て制圧し、売り上げにも貢献いたしました!」


 胸を張るゴードンに対し、エレノアは小さくため息をついた。

 そして、ゴードンの肩をポンと叩く。


「ゴードン。あなた、力加減ってものを知らないわね」

「も、申し訳ありませぬ! やはり、やりすぎましたか……!」

「違うわよ。チンピラから金貨五十枚も巻き上げたら、彼ら明日から生きていけないじゃない。持続可能なビジネスモデルに反するわ」


 エレノアはチンピラたちに向き直り、慈愛に満ちた(悪徳商人の)笑みを浮かべた。


「あんたたち。金貨五十枚は免除してあげる。その代わり、うちのポーション(金貨十枚)を買って、王都の裏社会で宣伝してきなさい。『愛結商店のポーションを飲めば、近衛騎士にも勝てるかもしれない』ってね」

「えっ……! ほ、本当ですか!? ありがとうございます、アユ様!」


 チンピラたちは金貨十枚を支払い、ポーションを抱えて逃げるように去っていった。

 それを見ていたゴードンは、感涙にむせび泣き始めた。


「うおおおおお! アユ様! なんという慈悲深さ、なんという商才! 不審者すらも宣伝塔に変えてしまうとは! このゴードン、一生ついていきますぞおおお!」

「はいはい、うるさいから早く持ち場に戻りなさい」


 適当にあしらうエレノアの後ろで、ナイジェルは胃薬を飲み込んでいた。


「……先生。結局、ゴードンの暴走を利用して売り上げ伸ばしてるだけじゃないですか」

「適材適所って言うのよ、ナイジェル。強すぎる馬鹿は、使い方さえ間違えなければ最高の兵器になるのよ」


 かくして、愛結商店の入り口には、今日も「物理的な客引き」を行う最強の元・近衛騎士が立ち続けている。

 王都の治安は、この店を中心に微妙なバランスで保たれているのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ