第9話 大台突破
――出会ってしまった運命の株。
それが、キオクシアだった。
大げさではなくマジにそう思ったし、今でもそう思っている。
10月中旬、株価が7,000円を超えたあたりで、信用フルレバに近い1,500株を購入した。
1,000万を超える買い物だ。自己資金は500万円ほどなのに、決意するだけでポンと買えてしまうのだから、恐ろしい。
しかし、俺は恋していたのだ。一生一緒に連れ添うのだ。そんな気持ちを込めていた。
そうでもしなければマトモな神経ではいられない。なんせ500万借金しているのと同じだからだ。
ミナミの帝王が好きな俺は、借金の恐ろしさを知っている。
想像してほしい。竹内力(イケイケの頃の)が真っ白なスーツと漆黒のグラサン、7777ナンバーのベンツで取り立てに来ることを。
だが、そんな心配は杞憂だった。
10月24日、前日の終値7,320円の株価が、8,780円まで急騰して引けたのだ。
一日で約1,500の値上がり。225万円の含み益だった。
値嵩株フジクラの悪魔の10分間には及ばなかったが、ほぼ取り戻した計算だ。
資産は800万円に戻ってきた。
どうして急騰したのかというと、前日に世界最大手のサムスンとSKハイニックスがメモリ価格を引き上げると報道されたからだ。
その夜、アメリカ市場が反応し、キオクシアと協業しているサンディスクの株価が急騰した。
要するに、AI向け需要の急増でメモリ不足に拍車がかかり、ビッグテック(巨大IT企業)がメモリ確保に動くだろう(メモリ価格が本格的に上昇する)と予想されたわけだ。
つまり、熱い。激アツだ。
どう考えても値上がり必至だろう。
これで織り込み済みだの、材料出尽くしだの言うアナリストがいたら、金払ってでもセミナー受講してやるわ!と思ったものだ。
その翌日、さらに株価は跳ね上がった。
終値は、9,810円!
また一日で1,000円以上の値上がり。資産は950万円になった。
もう確信していた。
10月30日には株価が10,000円を超えた。
嘆きの壁のようにそびえ建っていた大台をするりと超え、資産が1,000万円に到達した瞬間だった。
不思議な気持ちだった。
嬉しさが爆発して、SNSに投稿しようとするのを、待て待て!と止める自分を想像していた。
しかし、心は落ち着いていたのだ。
鼓動はいつもより早い気がするが、浮かれてはいなかった。
それは、キオクシアのせいだ。
資産1,000万に達した瞬間、嬉しいよりも、絶対にこれを死守しなければならないというプレッシャーを感じたし、それよりも大きな感情に支配されたからだ。
それは、次の2,000万円だ。キオクシアなら不可能じゃない。
守りと攻めのせめぎ合いに立っていたのだった。
とはいえ、売るという選択は微塵もなかった。
売ってどうする、という単純なものだ。
案の定、それからも連日のように値上がりを続け、11月になると株価はすぐに、13,000円に達したのだった。
俺の資産は、数日の間に1300万円になっていた。
――これって、夢?
じゃないのはわかっているが、ドラクエのカジノの裏技でも使った気分だった。
フワフワした気持ちで、俺はそれからキオクシア株を持ち続けようと心に決めた。
まあなんにしても、いい年越しになりそうだ。
優雅におとそでもやりながら、格付けチェックを見ている自分を想像する。
だが、そんなに甘くないのが株の世界。
俺はまた、迷宮に迷い込むことになる。




