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第10話 ゼンモとガチホ

11月11日に13,000円を超えた株価は、そこから下落を始めた。

理由は、決算だ。


まあ、皆が超絶決算を期待していたわけだが、内容は期待外れだった。

売上も利益も想定ほど伸びず、「本当にスーパーサイクルならもっと強気な数字を出すはずだ」と失望売りが広がった。

また、来期の予想もいまいちだった。つまり、期待が先行しすぎたわけだ。


12月になると、株価は9,000円を割り込み、10,000円からその間をウロウロするようになった。

あっという間に到達した大台から、あっという間に滑り落ちたのだった。


ここまで落ちてしまうと、もう売るに売れない。というか、7,000円台で購入しているので、まだ含み益がある状態なのだ。

そして、この頃になると理解するようになった。

キオクシアがとてつもない人気株であることを。


なんと、売買代金(株価×出来高)が一位になるほどだった。これは日本の中で一番だよってことになる。

そのため、株価が一万円前後の他銘柄と比較しても、値動きが半端ない。

つまり、ボラが非常に大きいのだ。フジクラ程ではないが、千円近く動く。


だから、なだらかに下がってきたわけではない。

急上昇したり急降下したりしながら下げてきたのだ。


この間、俺は何度も味わった。

朝は特買いでギャップアップしたのに、気づけば前日の終値まで戻している。

つまり、マイ転していることを。

要約すると、買い注文が多くて値が付かない状態(特買い)になり、前日の終値よりはるかに高い値で寄った(GU)のに、気がつくと始値より値が下がりマイナスに転じている(マイ転)ということだ。


これを、通称『ゼンモ』という。

がんもどきでもグーグーガンモでもない。『全戻し』の意味だ。


Yahoo掲示板では、

――はい、ゼンモ~。

――まさかのゼンモ~。


なんてコメントが躍る。

これは、マジで精神をえぐられる。


最高の気分で年越しを迎えるはずが、悶々とした日々に逆戻りした。

上がった!と思っても翌日にゼンモ。下手をすればその日のうちにゼンモ。


しかし、ほぼ塩漬け状態と化している俺の場合は保有し続けるしかなかった。

これは通称『ガチホ』というやつだ。

株価に一喜一憂せずに、ガチでホールド(保有)するという意味である。


これがよかった。というか、助かった。

落ち着いて格付けチェックを楽しめる精神状態ではなかったが、年明けの2026年1月ごろから、株価が上昇しはじめたのだ。


その理由は、NAND価格そのものが本当に上がり始めたからだ。

市場はようやく、メモリー需要が本物だったと認識し始めたというわけだ。


株価は急上昇を続け、1月30日には20,000円を突破した。

俺の資産は、1,000万円の大台に再び乗せるどころか、一気に2,000万円まで膨れ上がってしまった。


この時、俺は本気で思った。

確実に持っていると。独身の俺にも女神は微笑むのだと。


「ガハハハ」と大笑いしたと思われたことだろう。

できることなら、そうしたかった。100万円ほど現金にして一晩で散財してやるくらいのことはできたはずだ。

しかし、できなかった。

震えているような、暴風雨に茫然と立ち尽くしているような感覚というか。

想定外の事態に、これからどうしようと小物ぶりを発揮していたわけだ。


とりあえず、キオクシアだけは絶対に外せない。

そう決意したのだが、決意が揺らぐのが株の世界。

ここまで一気に上昇すると、もう下がるだろう、明日暴落したらどうする、そんな思考にとらわれる。


――売るべきか?


悪魔(もしかしたら天使)の囁きが頭に渦巻くのだ。

本物のガチホ勢なら動じないのだが、俺はついこないだまで貧乏人寄り。

さすがに3,000万円まで上がるとは思えない。今の2,000万円で手を打っておくべきだろう。

そう考えてしまう。


しかも、利益には2割の税金がかかる。

すでに1,000万円を超える含み益がある俺は、株を売った時点で2,000万円を割り込むことになる。

じゃあ、どうする?

2,300万円くらいになったら利確しよう。そんな、根拠に乏しい妥協案を頭でまとめてしまう。


今思えば、それが間違いだった。この時のままガチホしていれば――。


俺は気づいていなかった。

キオクシアのスーパーサイクルは、まだ始まったばかりだったことに。


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