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『ホテル・ブルートーンへようこそ』  作者: マサ


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第9話:『宇宙一の幸せを運ぶ船』

大島の「椿まつり」が終わりを告げる頃、いつも元気いっぱいのチャンちゃんが、

少しだけそわそわしていました。

それもそのはず、故郷の両親が日本へやってくるのです。

東京の煌びやかな景色を案内した彼女が、最後に選んだ目的地は、自分が今、

魂を燃やして働いているこの「大島」でした。

「あんこさん」ではなく「一人の娘」として、両親に自分の居場所を見せる旅。

それは、スタッフたちにとっても、大切な家族を迎えるような、特別な一日になりました。

椿の花が名残惜しそうに揺れる桟橋に、

チャンと彼女の両親が降り立った。

「ここが、私の働いているホテルだよ!」

誇らしげに胸を張るチャンの横で少し緊張した

面持ちの両親を、須賀が最敬礼で迎えた。


「遠路はるばるようこそ。チャンの両親を

お迎えでき、光栄に存じます」

須賀の丁重な挨拶に、両親も深く頭を下げ、

慣れない日本語で精一杯の感謝を伝えた。

その時、エントランスに柔らかなサックスの

音が響き渡る。

大島の民謡『あんこ節』をモダンにアレンジ

したウェルカムソング。


「お父さん、お母さん、聞いて!

カイトさんのサックスだよ。

この人の音は世界一なんだから!」

チャンが興奮気味に説明する。

カイトは一瞬だけチャンと目を合わせ、

静かに、けれど力強くリードを鳴らした。


客室の窓から広がる真っ青な海と力強い大地の

景色を眺めながら、両親は何やら小声で、

大切そうに話し合っている。

須賀はその様子に気づきながらも、

言葉にできない親心の機微を尊重し、

静かに見守っていた。


夕食では、亮太が大島の大地の恵みを凝縮した

スープを供した。

「このスープにはね、この島の命が

詰まってるんだよ」

得意げに解説するチャンの姿は、

立派なホテリエそのものだった。


そして夜、チャンが一番楽しみにしていた

BARの時間。

「お父さんたち、ずるい! 私は仕事中、

佐々木さんのカクテルずっと

我慢してたんだから!」

両親よりも大喜びでカウンターに座る

チャンを見て、両親は目を細め、

幸せそうに笑い合った。


佐々木は、三人の前に透明感のある美しい

カクテルを置いた。

「ご両親様。私たちは毎日、チャンさんから

太陽のような元気をもらっています。

彼女をこの島へ送り出してくださったことに、

心から感謝いたします」


翌朝、成人の華やかなスイーツと

島コーヒーを楽しみながら、

両親はやってきた須賀に、静かに語りかけた。

「……実は、ここに来るまでは心配だったんです。

働き始めた頃のチャンは、毎日泣きながら

『帰りたい』と電話してきましたから。

でも、今日わかりました。

なぜあんなに泣き虫だった娘が、

こんなに強く、優しく変わったのか」


父親が、チャンの働く姿を眩しそうに

見つめて続けた。

「この島、このホテル、そして皆さんに囲まれて、チャンは世界一の幸せ者です。

でも、そんな娘を持った私たちは

……宇宙一の幸せ者ですよ。

これからも、どうかよろしくお願いします」


いよいよ別れの時。

桟橋に大型客船「かめりあ丸」が接岸した。

タラップを上がる両親を、カイトがサックスを

持って待っていた。そしてその隣には、

必死に練習を重ねてきた自分のサックスを

構えるチャンの姿があった。


吹き鳴らされた曲は、『上を向いて歩こう』。

チャンが日本へ旅立つ前の夜、両親が

「くじけそうになったら、この歌を

思い出しなさい」と教えてくれた、

大切な日本の曲。


不器用ながらも、カイトの音に寄り添い、

懸命に息を吹き込むチャン。

その音色は、空を越え、海を越え、

両親の心に真っ直ぐに届いた。

デッキから大きく手を振る両親の目には、

涙が光っていた。


船が離れても、二人の合奏は止まらない。

チャンの奏でるメロディは、もう「帰りたい」

という悲鳴ではなく、明日を生きる喜びと、

家族への愛に満ち溢れていた。


【第9話:宇宙一の幸せを運ぶ船 完】

「チャンのサックスデビューが、まさか両親への『上を向いて歩こう』になるとはね。

カイトが彼女の拙い音をそっと支えるように吹く姿が目に浮かびます。

須賀が見守った両親の『密談』。あれはきっと、成長した娘への驚きと、

この島の人々への信頼を分かち合っていたんでしょう。宇宙一の幸せ者……。

ブルートーンの連中も、最高のギフトをもらいましたね

野内マサ

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