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『ホテル・ブルートーンへようこそ』  作者: マサ


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10/20

第10話:『ブルートーン・セレナーデ』

いつも『ホテル・ブルートーン』を愛していただき、ありがとうございます。

今回の主役は、当ホテルの精神的支柱、支配人の須賀です。

完璧なサービス、冷静な判断、そして若手たちへの温かな眼差し。

そんな彼が、かつて挫折し、一度は置き去りにした「バーテンダー」という名の情熱に、

もう一度向き合うことになります。

きっかけは、若き天才・佐々木が仕掛けた「お節介」なエントリー。

技術も経験も超えた先にある、今の須賀にしか作れない一杯とは何か。

支える側だった男が、仲間に支えられて挑む、魂の再起の物語です。

「これは……」

佐々木から手渡されたHBA(日本バーテンダー協会)の封書。

そこには前年優勝者である佐々木への招待状と、もう一枚、

今年から新設される『シニア部門』の案内が入っていた。


「須賀さん、勝手にエントリーしておきました。僕は、あの伝説の赤井さんと競い合った、

あなたのシェーカー捌きが見たいんです」

佐々木の言葉が、須賀の胸の奥底に蓋をしていた熱い想いを直撃した。

かつてライバル・赤井に敗れ、若き天才・佐々木にその場を譲った、

バーテンダーとしての未練。それが、三原山の地下で眠るマグマのように、

静かに、けれど激しく噴き出し始めた。


その夜から、須賀はBARに籠り、試作を繰り返した。

「須賀さんのカクテル、飲みたいです!」

様子を見に来たチャンに最初の一杯を差し出す。しかし、チャンは一口飲むと顔をしかめた。

「……私には、お酒が強すぎます」

「技術も構成も完璧なはずだが……」

首を傾げる須賀の背後から、亮太の静かな声が響いた。

「須賀さん。あんた、そのカクテルを『誰に』飲ませたいんだい?」


その一言に、須賀の手が止まった。

かつて負けた理由。それは、自分のテクニックとプライドを優先し、

目の前の相手への敬意が足りなかったこと。

(今の私は、一人で戦っているんじゃない。支えてくれる仲間がいるんだ)

須賀は一からカクテルを作り直す決意をした。


翌朝、思考が煮詰まりデッキで海を眺めていた須賀に、

成人が島コーヒーと特製の島フルーツヨーグルトを差し出した。

「どうぞ、須賀さん。疲れている時は、元気な朝を迎えなきゃ」

一口食べた須賀は、その濃厚な味わいに驚いた。

「……なんて濃いんだ。これは?」

「島のミルクで作ったんです。須賀さんとチャンさんが、

いつもお客様の情報を正確に伝えてくれるから、僕らは迷わず作れる。

亮太さんと佐々木さんのバトンを受けて、僕とカイトで最高のエンディングにしたいんです」


仲間の有り難さが、身体中に染み渡った。

須賀は微笑み、再びカウンターに向かった。もう迷いはなかった。


一週間後。

チャンの携帯が、佐々木からのメールで震えた。

『第1回 全国カクテルコンペティション シニア部門 優勝者:須賀勝』

「やったぁぁぁ!」

チャンの叫び声が、ホテル中に響き渡った。


『おがさわら丸』が桟橋に接岸する。

タラップから降りてきた須賀の傍らには、黄金に輝くトロフィー。

岸壁には、ブルートーンの全メンバーが揃っていた。


カイトのサックスが、これまでにないほど華やかに鳴り響く。

曲は、クイーンの『ウィ・アー・ザ・チャンピオン』。


デッキで誇らしげに胸を張る須賀に、佐々木が隣で囁いた。

「須賀さん。優勝コメントで仰った通り、これからはBARでそのカクテルを振る舞ってください。

今度は僕が、入口で支配人としてお客様をお迎えします」

「……はい。よろしくお願いします、GMゼネラルマネージャー


二人は固く握手を交わした。

トロフィーのプレートに刻まれた名は、須賀勝。

そしてその下には、仲間への感謝と愛を込めたカクテル名が刻まれていた。

『ブルートーン・セレナーデ(青き調べ)』


【第10話:ブルートーン・セレナーデ 完】


書き終えて今、心地よいシェーカーの音が耳に残っているような気がします。

今回、須賀に気づきを与えたのは、亮太の厳しい言葉であり、

成人の真心がこもったヨーグルトであり、チャンの素直な感想でした。

「一人で戦っているんじゃない」

その当たり前のことに気づいた時、カクテルの味は「技術」から「祈り」に変わる。

須賀が手にした優勝トロフィーは、ブルートーン全員で勝ち取った勲章です。

そして、ラストシーンでの佐々木との役割交代。

これは単なるポジション変更ではありません。互いの魂を認め合ったプロ同士の、

究極の信頼の形です。

新総支配人・佐々木が迎え、名バーテンダー・須賀がカクテルを振る。

新しく生まれ変わった『ホテル・ブルートーン』の夜明けを、カイトの奏でるクイーンと共に、

皆様もぜひお祝いしてください。

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