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『ホテル・ブルートーンへようこそ』  作者: マサ


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19/20

第19話:『リ・ブルートーン ―絆が繋ぐ謝恩晩餐会―』(前編)

いつも『ホテル・ブルートーン』を応援していただき、本当にありがとうございます。


シリーズ初となる「前編・後編」にわたる大長編エピソードの幕開けです!

今回、私たちの愛するホテル・ブルートーンに、これまでにない最大の試練が訪れます。

それは、建物の老朽化にともなう「長期休業」と、スタッフたちのバラバラになりかける絆でした。


しかし、絶望の淵に立たされたスタッフたちが選んだのは、

これまでホテルを愛してくださったすべてのお客様への「感謝」の道でした。

大島の抜けるような青空とは裏腹に、総支配人室の空気は重く沈み込んでいた。

本部の統括部長である西山にしやまから告げられたのは、あまりにも非情な現実だった。


「定期建築検査の結果、基礎部分を含めた老朽化がかなり深刻な数値で出てね……。

しばらくの間、全面的な改装と修繕の工事に入ってもらうことになった」


それは、ホテル・ブルートーンの「長期休業」を意味していた。

西山が去った後、佐々木は一人、机に両手をついて深く頭を抱えた。

休業中のホテルの維持もさることながら、何より佐々木を苦しめていたのは、

期間中のスタッフたちの雇用のことだった。みんなをバラバラにしなければいけないのか。

この最高のリレーを誇るチームが、ここで潰れてしまうのか――。


「……支配人、顔が暗いですよ」


静かに部屋に入ってきたのは、チーフバーテンダーの須賀だった。

須賀は温かい大島コーヒーを佐々木の机に置くと、その深い眼差しで真っ直ぐに佐々木を見つめた。

「雇用のことで悩まれているのでしょう。ですが、心配はいりません。

あなたが決めたことに、私たちは皆、どこまでも従いますよ」


その一言に、佐々木の凍りついていた心がどれほど救われたか。

佐々木は深く息を吐き、静かに頷いた。

「……ありがとうございます、須賀さん。みんなを集めてください」

ロビーに集まったスタッフ一同を前に、佐々木は事実をありのままに話した。

しばらくの間、ホテルを閉めなければならないこと。


「そんなの嫌です! 皆と一緒じゃないと絶対に嫌ですっ!」

話を最後まで聞き終える前に、チャンがその場に泣き崩れてしまった。

いつも明るい太陽のようなチャンの涙に、成人もカイトもかける言葉を失い、

ロビーには重苦しい、長い沈み込みの時間が流れた。


その沈黙を破ったのは、料理長の亮太だった。

「……改装と修繕は、建物を守るためにどうしてもやらなきゃいけない。それは分かった」

亮太は腕を組み、不器用ながらも強い光を宿した目で佐々木を見た。

「どうせしばらく閉めるっていうんならさ、支配人。

その前に、今までこのホテルを利用してくれたお客様を集めて、感謝の晩餐会をやりたい」


その瞬間、床に伏せていたチャンの顔がパッと輝くように上がった。

「……晩餐会!? 私も、私もやりたいです! お客様にありがとうを言いたいです!」


佐々木は胸を熱くしながら、周囲を見回した。

「他の皆さんは、どうですか?」

成人も、カイトも、そして須賀も、力強く頷いた。満場一致。

ホテル・ブルートーンの最後の花道を飾る『謝恩晩餐会』の開催が、ここに決定した。

翌週、佐々木と須賀は本部の西山のもとを訪れ、晩餐会の計画を丁寧に説明した。

西山は二人の熱意に深く感じ入った様子で、申し訳なさそうに天を仰いだ。

「……みんなの気持ちは本当によく分かるよ。

ただ、本部は今回の莫大な改装・修繕費用を捻出するだけで完全に予算が限界なんだ。

それ以上のサポートや、晩餐会の資金を出してあげることができないんだよ……。すまない」


誰も悪くない。けれど、資金がなければ晩餐会は開けない。

しばらくの沈黙の後、須賀が静かに一歩前に出た。

「西山部長。ならば、我々自身で資金繰り(資金集め)をしてもよろしいでしょうか?」


西山は驚き、それから二人の覚悟を察して頭を下げた。

「すまないが……よろしく頼む」


オフィスを出た後、佐々木は不安を隠せず須賀に尋ねた。

「さぁ、どうしましょうか、須賀さん。あてはありますか?」

須賀はフッと悪戯っぽく微笑んだ。

「ダメ元で、クラウドファンディングというものをやりましょう」

すぐさま佐々木がサイトに登録し、ブルートーンの謝恩晩餐会に向けた支援の募集が始まった。

「今日も上がってないです……」

チャンが毎日、祈るような気持ちでパソコンの画面を見つめていたが、

知名度の低い離島のホテルのページに、一向に資金が集まらない日が続いた。

みんなの焦りが募る中、いよいよ明日が募集の最終日となってしまった。


その夜、BAR『ブルートーン』のカウンターで、佐々木は須賀と並んで頭を悩ませていた。

「やっぱり……ダメだったでしょうか……」

佐々木が弱音を吐きかけた、その時だった。


バタンッ!!と、激しくバーの扉が開いた。


「佐々木さん! 須賀さん!! 大変ですっ!!」

息を切らせたチャンが、顔を真っ赤にして猛烈な勢いで走ってきた。

その手にはタブレットが握られている。


「急に、ファウンド金がものすごい勢いで上がってきました!

もうすぐ、もうすぐ満額になっちゃいます!!」


「そんな馬鹿な……! 一体どうして!?」

佐々木が信じられない思いで立ち上がった、まさにその瞬間

、彼のポケットの中で携帯電話がけたたましく鳴り響いた。

画面に表示された名前に、佐々木は目を見張った。


かつてこのホテルを訪れ、人生の危機を救われた、大手IT企業社長の大下おおしたからだった。


「もしもし、大下様!?」

『やあ、佐々木支配人! ホテルを改装するんだってね。エコーがネットで見つけて教えてくれたよ』

電話の向こうから、懐かしい大下の快活な声が響く。


『とりあえず、目標に足りない分の資金は今全部入れといたから、遠慮なく使ってくれ!

ああ、それから高木真由美さんにもメールしといたからさ。

彼女からもすぐに大きな寄付が入るはずだ。これで大丈夫だろう?』


その瞬間、横でタブレットを凝視していたチャンが大歓声をあげた。

「満額です! 満額集まりましたーーっ!!」


佐々木は目頭を熱くしながら、受話器を強く握りしめた。

「大下様……本当に、本当にありがとうございます……!」

『気にするなよ。当日は、エコーにスケジュールをすべてキャンセルさせて、

二人でそっちに寄らせてもらうよ。最高のディナー、期待してるからね』

大下はそれだけ言うと、嬉しそうに電話を切った。


静まり返ったバーの中で、須賀が磨き終えたグラスをそっとライトにかざしながら、

集まってきたスタッフ一同に静かに語りかけた。


「――今まで、我々スタッフが全力で助けてきたお客様から、今度は、我々が助けられたのですね」


その言葉に、全員の胸に熱いものが込み上げる。

「さぁ、最高の夜にするぞ! 仕込みを始めよう!」

亮太が厨房の奥から大声を張り上げると、チャンが涙を吹き飛ばして元気いっぱいに手を挙げた。


「はいっ!!」


ホテル・ブルートーンの歴史に残る、奇跡の謝恩晩餐会。その幕が、いま静かに上がろうとしていた。


(後編へ続く)


【第19話:リ・ブルートーン(前編) 完】

第19話の前編を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


初の前後編となる今回は、ホテルの危機という大きなシチュエーションからスタートしました。

バラバラになるかもしれない恐怖に涙するチャン、

そしてそれを「謝恩晩餐会」という最高の前を向くアイデアで一本にまとめた亮太。

スタッフたちの絆の深さに、書いていて胸が熱くなりました。


そして、最終日に起こったクラウドファンディングの奇跡!

かつてブルートーンで救われたIT企業の大下社長、そして真由美さんといった懐かしい名前が登場し、

今度は彼らがブルートーンを救うために手を差し伸べてくれる……。

これぞまさに、これまで皆さんと一緒に紡いできた『ホテル・ブルートーン』の絆の結晶です。


資金は集まりました。さあ、次回はいよいよ後編、大感動の『謝恩晩餐会』の本番です。

大島に再び集う懐かしいゲストたちを前に、亮太の料理、須賀のカクテル、成人のスイーツ、

そしてカイトのサックスが、どんな最高の輝きを放つのか。


ブルートーンの総力戦となる後編を、どうぞ楽しみにお待ちください!

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