魔王の右腕
ニナとは一旦分かれて別室に待機するよう言われたが未だ帯剣を許されたままだ。
今頃、ニナは魔王にあって状況を説明しているのだろう。
魔王が俺と会ってくれるかどうかもまだ分からないが
会わなければ何も進むことが出来なくなるだろうな・・・。
会ったとしても俺を身内にしてくれるという事はないと思うが・・・。
俺の売りは勇者としての戦闘力しかない。聖剣も魔族には使えないから
聖剣を取り上げる意味はあまりないだろう。
後は俺の魂を欲しがった場合、差し出す事も難しいが・・・。
考えても答えが出ないものを何時までも考えるのはあまり良い事ではない。
考えるのを諦めて迎えを待つ事にした。
暫くすると城のメイドらしい人が迎えに来た。
どうやら案内してくれるらしいが歩く距離が長い・・・。
それに地下に降りているという事は謁見させるつもりはないという事か・・・。
「こちらが地下闘技場になります。魔王様より伝言です。
悪魔は実力主義、欲しい物あれは力を示せとの事。」
「なるほど、そっちの方が分かりやすくて助かる。」
案内されたまま、真っ直ぐに闘技場に入っていく。
観客として集まっている悪魔はまばらだが正面の貴賓席らしき場所に
4人の姫と魔王が見えた。
ニナが俯いて悲しそうな顔をしている事に頭に血が上って来る。
誰であれ俺のニナを悲しませるとは許しがたい所業だろう。
悪いが全く手加減できる気分ではないな。
鐘が鳴り響くと同時に奥の牢が開き魔獣が飛び出して来る。
狼の魔獣、フェンリルだ。
ゆっくりと聖剣を抜いて構える。
飛び込んで来るフェンリルを一瞬溜めた剣が通り過ぎる。
一瞬で綺麗に真っ二つになったフェンリルに周囲からどよめきがあがった。
少し時間を置いて再度鐘が鳴る。どうやら何戦かさせられるみたいだ。
奥の牢が開き今度は六本腕の骸骨が出てくる。
纏っている魔力が目に見えて揺れていた。
次は魔獣じゃなくて悪魔、って事か・・・。
六本の腕に剣を持つ骸骨は確かに手強いが聖剣を持ってる勇者からしてみれば
大した事はない。光の魔法を乗せた一撃で粉々に砕いてやった。
そしてまた暫らくの間が空く。相手を用意するのも大変だな。
そうして次に出て来たのは相当高位の悪魔だというのが一目で分かった。
「人間如きに俺様を呼び出すとは魔王様も何を考えておられるのか・・・。」
「まさか、ヴァンパイアか!?」
夜の王とまで呼ばれる魔王の側近、ヴァンパイアのフィネルか・・・。
正しく魔王の右腕、側近中の側近じゃないか・・・。
視線をニナの方に向けると魔王に抗議しているのか泣き叫ぶようなニナが見えた。
はぁ・・・。人間ここまでぶち切れる事が出来るとはな・・・。
「ニナを泣かせたら誰だろうと殺してやる!」
怒りをそのままフィネルに視線を向けるとどうやら相手もやる気を出したらしい。
怪しく光る剣を抜いて構えた。
風を纏い一気に距離を詰めて怒りに任せた一撃を振るう。
ギャリっ!
聖剣が弾かれたという事は相手も魔剣だ。
だが・・・。
「それがどうしたぁぁっ!」
真横に一閃から無理やり軌道を変えて斬り返しの一撃。
下段からの逆袈裟斬りがフィネルの左腕を吹っ飛ばした。
「なかなかやるな、小僧・・・。」
「再生が速いな化け物。だが泣いても許されると思うな。ニナの心の痛みを教えてやる。」
「食らいつくせ!魔剣ブラッディメア!」
「吠えろ!聖剣フォリアル!」
魔剣の魔力と聖剣の魔力が振り下ろした剣と同時に相手に向かって走り出す。
バラバラと闘技場の床を捲り周囲に振りまいて魔剣の魔力同士が相殺された。
「くっ。魔剣如きと互角かよ。」
「・・・。」
明らかにフィネルの顔つきが変わった。聖剣と俺をどうやら警戒しているみたいだ。
俺はまだニナを悲しませた事を許してはいないけどな。
どの道、勝たなければニナを貰えないなら勝つ以外の選択はない。
こんな所で魔王を倒す切り札を使う事になるとは思わなかったが仕方がない。
「封印解除、術式展開!」
その言葉に聖剣から立体的な魔法陣が何重にも展開されていく。
パキィィン!
何かが割れる様な音と共に聖剣の封印が解除された。
「聖剣の魔力を蓄積していたというのか・・・。」
「そういう事だ。まだやるか?」
「誇り高きヴァンパイアの辞書に逃げるという言葉は無い!
全てを食らいつくせ!魔剣ブラッディメア!」
「そんなの!見えてるんだよ!」
風を纏って魔剣を躱し、上空に飛び上がってからフィネル目掛けて一直線に斬り込む。
フィネルが迎え撃つ為に魔剣に魔力を込めた。
「食らいつくせ!魔剣ブラッディメア!」
「吠えろ!聖剣フォリアル!聖風連弾っ!」
歪な魔力同士のぶつかる音と同時に地盤が割れていく。
風を纏った聖剣の連弾が魔剣の魔力を弾き返すのと同時にフィネルの右腕と首を刎ねていた。
心臓を壊さない限りはヴァンパイアは死なないだろうからこのくらい平気だろう。
首を斬り落とされても倒れない身体が頭を拾ってくっ付けた。
流石に化け物じみているとしか思えないが・・・。
蘇生した右腕とあっという間にくっ付いた首を見る限り問題はなさそうだ。
そのままフィネルが片膝を付いて頭を下げた。
「参りました・・・。」
取りあえずニナを悲しませたと思ってキレてしまったが別にフィネルが悪いわけじゃない。
もう少し冷静にならないとな。ニナが絡むと周りが見えなくなりそうだ・・・。




