全てを捨てる覚悟
人生で初めての告白がこんなにグダグダになるとは夢にも思って居なかった。
そもそも自分がまさか誰かに一目惚れをしてしまう事も想像してなかったからだ。
衣服を身に纏った彼女の前で何を言えば良いのかすら分からなくなってくる。
「それであなたは人間よね?」
「あぁ、そうだ。」
「悪魔である私を馬鹿にしているの?」
「してない。それに君ほど美しいと思った女性は見た事がない。」
「えぇっ・・・。」
「君を見た瞬間、まるで妖精が歌っているのかと思った。」
「そんな・・・。」
少しだけ頬を赤くする彼女を見て美しいだけじゃなく可愛いとも思ってしまう。
「俺はどうやら完全に君に一目惚れしてしまったようだ。」
「えっ、こ、こまる・・・。」
少しだけ焦ったような彼女はやっぱり突然の告白を迷惑に感じてるのかもしれない。
「突然の事で君が困惑してるのは分かる。早急過ぎたのも謝ろう。」
「えぇ・・・。」
「でも俺はもう君じゃなきゃ駄目なんだ。」
「そんな・・・、私なんて胸も無いし・・・。」
「俺は君にずっとそのままでいて欲しいけど。」
「胸が小さくてもいいの?」
「あぁ、君の魅力の前には些細な事だ。」
「そ、そうなんだ・・・。」
赤くなった頬を隠す様に横を向く彼女が照れているのが分かって嬉しくなる。
女の子のふとした表情ひとつでこんなに嬉しいと思えるなんて信じられない事だ。
「俺はジーク。君の名前を聞いても良いかな?」
「あっ、私は・・・、ニナ・カルディアナ、です。」
「美しい名前でとても君によく似合ってる。」
「え、そんな事・・・。」
「あるよ。ニナは世界で一番美しいから。」
「ええっ、そんな嘘・・・。」
「嘘じゃない。もっと顔を良く見せて。」
ニナに近づくと恥ずかしいのか視線を合わせようとしなかった。
「やっぱり凄く綺麗だ。その角もニナに似合ってて可愛いよ。」
「やだ、恥ずかしいから・・・。」
両手で顔を覆うように恥じらうニナがまた可愛い。
「ニナ、俺は真剣なんだ。君が人間か悪魔かなんて俺にとっては些細な問題だ。
君とずっと一緒に居たい。俺の命が尽きるまで君と共にありたい。」
「ふゎ・・・。」
「急な話でやっぱり困惑しているかもしれないが俺が本気だというのは本当だから。」
「えっと、ジークさん。ひとつだけ言っておかなければならない事があります。」
「あぁ、何でも言ってくれ。」
「私・・・。魔王の娘です。」
「問題無い。直ぐにでも君の両親に挨拶に行きたいくらいだ。」
「えぇっ・・・。」
「言いたい事はそれだけか?」
「えっと、あの、私で良ければ・・・、その、宜しくお願いします。」
受け入れて貰える事が、眩暈がするほど嬉しいと思ったのは生まれて初めての経験だった。
これほど誰かを好きになる事も受け入れて貰える事もこんなにも世界が輝いて見える事も
何もかもが信じられないくらいに胸を打つ。
「ありがとう、ニナ。今の俺ほど幸せな奴は居ないだろう。
世界で一番素敵な花嫁がここにいるのだから。」
「そ、そうですか・・・。」
恥じらうニナとこのままずっと話をしていたいと思った。
だけど、何時の間にか結構な時間が経っていたのかゼスが迎えに来てしまった。
「ジーク!何やってるだよ!そいつから離れろ!」
「ゼス・・・。」
「ジークさん・・・。」
悲しそうな顔をするニナを見て胸が張り裂けそうな程苦しくなる。
「悪いゼス。俺はもうそっちには帰れない!魔王の娘と結婚する事にしたんだ!」
「はぁっ!?ジーク正気か!?」
「あぁ、正気だ!俺はニナを守る為なら世界中を敵にしても構わない!」
ゼスが信じられない者を見るような目で俺を見てくる。
「おいおい、ジーク・・・。お前本当にジークなのか?お前ってそんな熱い奴だったか?」
「すまないゼス、今まで世話になった。アリスとマリーにも宜しく伝えてくれ。」
「馬鹿言うなよ!俺達ずっと一緒に戦ってきた仲間だろ!」
「あぁ、すまない・・・。頼む、お前たちは引き返してくれ。俺もお前らとは戦いたくない。」
「ふざけるなよ!何なんだよ!意味がわからねぇよ!お前勇者だろ!」
「えっ、ジークさんって、勇者なの・・・?」
「俺はニナだけの勇者として生きるって決めたんだ!もうそっちの世界に戻るつもりは無い!」
「嘘だろ・・・。ジーク・・・、嘘だって言えよ・・・。」
「嘘じゃない。俺はニナを死んでも裏切らないって決めたんだ。」
「ジークさん・・・。」
「お前、絶対後悔する事になるぞ!忘れるなよ、絶対だ!」
振り返って走り出すゼスは泣いていた。大切な仲間を裏切った事に胸が痛くなる。
だけどそんな俺にニナはそっと寄り添ってくれた。
それだけで胸が一杯になって来る。
俺はこの時、人間の味方である事を止めてしまったんだ。
もしかすれば直ぐに俺への討伐隊が編成されるかもしれない。
そしてその中には仲間たちの姿もあるのかもしれない。
だけど、俺はニナの為に生きると決めた。
それが、例え仲間達と敵対する事になったとしてもだ。
初めて抱きしめたニナの腰は折れそうな程細く、でも誰よりも温かく感じた。




