色付き始める世界
ガチャっと扉を勢いよく開いて部屋の中にマリーが入って来る。
「ジーク!一緒に飲もうぜ・・・ってアリス!?」
「あらあら、見つかってしまったわね。」
「ちょっとアリス!抜け駆け禁止はどうした!」
「結果的にあなたもここへ来ましたよね?」
「うっ・・・。」
「マリーもこれからの事が気になったのか?」
マリーにそう聞くが不思議そうな顔をされた。って事はただ一緒に酒を飲みたかっただけか。
「折角だし、マリーも一緒に飲むか?」
「折角だしね、そうする。」
グラスを渡して葡萄酒を注ぐ。
「じゃあ乾杯。」
軽く合わせたグラスから心地良い音が響く。
ふとマリーを見るとアリスより薄着に見える。
全く二人共ここを自宅かなんかだと勘違いしているのか・・・。
「マリーは随分と薄着なんですね。それって下着付けているのでしょうか?」
「そういうアリスも薄着過ぎじゃないか?下着見えすぎだろ。」
二人の仲は悪くは無いと思うが、ふとしたことでこうやって対立が始まってしまう。
はぁ、これだから女は嫌だ・・・。
「喧嘩するなら外でやれ。」
「うっ・・・。」
「はい・・・。」
追い出されたくはなかったのか二人が大人しく葡萄酒を飲む。
2年も一緒に居るが変わらないよな、この二人は。
そうして一緒に飲んでいるうちに何時の間にか眠ってしまっていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
飲み過ぎたのか気怠い目覚めだった。
何よりも胃が重い・・・。そう思ったら身体の上に手が乗っていた。
手だけじゃなく足にも足が乗っていた。
意味が分からないがアリスとマリーが左右から抱き着いているみたいだ。
もしかして部屋に戻るのもめんどくさかったのか・・・。
二人共柔らかい身体を押し付けるように眠っていた。
マリーは完全に下着を付けてないどころか露出した胸を押し付けてる状態だ・・・。
本当に俺じゃなければ完全に襲われている所だぞ。男を舐め過ぎだな・・・。
アリスの方にある右手は腕を太ももに挟まれているのか手の自由が効かない。
これって起こしたら怒られそうだよな・・・。
二人が起きた時の事を考えると溜息しか出ない・・・。
何とか二人を起こさないように抜け出して部屋の外へと出る。
「今日は少し暑くなりそうだな。」
朝から快晴の青空を見上げるながら村を散歩する。
朝食の準備をしているのかパンが焼きあがるいい香りがする家も結構あった。
適当にぶらついてから宿に戻ると既にみんなが1階の食堂に揃っていた。
「ジーク散歩か?何か面白い物はあったか?」
「いや、パンを焼いている家が多くて香りを嗅いでたらお腹が空いたくらいだ。」
「ははっ、じゃあそろそろ飯にしようぜ。」
アリスとマリーも機嫌は悪くないみたいでほっとする。
昨日の夜と今朝の事はもう触れない方がいいだろう。
下手に藪をつついて蛇を出す事もないからだ。
そうして今日の目的地である魔王領の洞窟へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ジーク、一旦休憩にしようぜ。森が進みにくくて仕方がない。」
ゼスの言う通り、鬱蒼と生い茂る森の中は進みにくかった。
予定時間の半日を過ぎても洞窟に着かないのも問題だった。
「よし、今日はここまでにしよう。キャンプを張るがもうここは
魔王領だ。みんな気を付けろよ。」
皆に注意を促してからテントと食事の用意を頼み水場を確保しに行く。
森の中とは言え地図から水辺がある事は分かっているからだ。
ゆっくりと辺りを警戒しながら草の根を掻き分けて進む。
次第に水の匂いが近づいているのが分かった。
同時に何か歌の様なものが聞こえてくる。
これは、もしかして歌なのか?
ゆっくりと進むにつれてそれが歌だという事がはっきりとわかって来た。
魔王領で歌声か・・・。悪魔の女がいる可能性が高い。
そう思い更に警戒を強めながら進んでいく。
「ルールルールー♪ルールルールー♪」
はっきりと聞こえてくる澄んだ歌声に鼓動が跳ねる。
悪魔にしてはやけに綺麗な歌声だった。
歌声に導かれるように進んでいくとやがて水場が見えてくる。
そっと木の陰から歌声の主を伺ってみる。
その声の主を見た瞬間、まるで頭の中に雷が走った様な衝撃を受けた。
小さな湖の真ん中で彼女は水浴びをしながら歌を歌っていた。
それはまるで妖精が水辺で戯れているかのような幻想的な光景だった。
「・・・美しい。」
あまりの衝撃に隠れるという事すら忘れ、無意識に彼女に近づいていた。
「・・・誰!?」
彼女がこちらの存在に気がついても目を離す事は出来なかった。
薄い胸を覆い隠す細い腕、真っ白な長い髪。そして羊の様な悪魔の角・・・。
「まさか人間・・・。」
「待ってくれ、俺は怪しい者じゃない。いや、怪しいのか・・・。兎に角、君の敵じゃない。」
「敵じゃない?人間なのに?」
そうだ。彼女の言う通り俺は人間で彼女は悪魔だ。
だけど彼女の前ではそんな事すらどうでもよくなってくる。
熱くなってる身体と頭が伝えたい事を邪魔してくる。
言いたい事は沢山あったが兎に角、彼女に敵じゃない事を伝えようとした。
「俺と・・・、結婚してくれ!」
「はぁっ!?」
そうして俺の世界は一気に色付き始めたんだ。




