誰もが平和に・・・
ニナと一緒に部屋に戻りひとりでバルコニーへと出る。
ニナが風呂へ入っている間に気になっていた事を確認する為だ。
バルコニーから目的の小屋を確認すると暗い森の中で
小さな小屋がひっそりとした灯りを灯していた。
リリーに聞いた魔石の秘密がどうしても気になったからだ。
夜の闇に紛れてジークは風を纏い空へと飛び出す。
「空には結界が無いとか言っていたが本当に周りに結界があるのか?」
思いのほかあっさりと小屋までたどり着いてしまった事に何故か戸惑ってしまう。
余計な考えを振り払うように軽く頭を振ってから音を立てない様に慎重に窓へと進む。
「・・・っ!」
覗き込んだ窓から見えた光景に危うく声を出しそうになってしまった。
小屋の中にはフィネルと先ほど殺したヴァルの死体、それに知らない悪魔がいた。
ヴァルの死体に口から無理やり何かを飲ませてるみたいだ。
「死体に何を・・・。」
「魂の剥離ですわ。」
不意に後ろから聞こえた声に咄嗟に振り返ると目の前には微笑んだリリーが居た。
どうやらまんまと彼女の策に嵌ってしまったみたいだった。
「・・・魂なんて本当に存在するのか?」
見つかってしまった事よりもその秘密の方に興味があった。
どうせリリーはこの状況を望んでいたんだろう。
いや、少なくても予測していた筈だ。
「ほら見て御覧なさい。」
リリーの言葉に小屋の中に視線を戻すとヴァルの身体が痙攣していた。
「嘘だろ・・・、死体が・・・。」
痙攣した身体の心臓部分から赤い光が抜け出てくる。
「まぁ、信じられないくらい綺麗な緋色ですこと・・・。」
魂なのか何なのか分からないがもう一人の悪魔が魂と思われる緋色の光を掴むと
その光がゆっくりと消えていく。
「なんだ?何をしているんだ・・・。」
「ふふっ、ああして魂を固形化しているのよ。そしてそれが人間界では
魔石という名前で呼ばれているのですわ。」
「嘘だろ・・・。あれが魔石?」
「あら。ご自分の目で見た事が信じられませんの?」
人間界で当たり前に使っていた魔石は実は人の魂でしたって事か・・・。
つまり悪魔が居なければ魔石は出来ない。人間界は魔石が無いと生活が成り立たない。
結局は、人は悪魔を亡ばすことは出来ないのだ。
逆もまた然り。悪魔は労働力となる人間を滅ぼす事は出来ない。
この世界は酷くバランスが取られているのか・・・。
正しく悪い夢にしか思えなかった。では一体、勇者とはなんなのだろう・・・。
「まぁ、魂が震えていますわね・・・。良いですわ、あなたの魂も美しくて・・・。」
「・・・つまり君は俺を殺して魔石が欲しいのか?」
「いえいえ、生きている内は結構ですわ。死んでしまったら頂く事になるでしょうけれど。」
「生きてるうちに狙われないなら別にいい。」
その言葉にリリーが不気味な笑みを浮かべ小屋の中を見る。
その瞳にはヴァルの深紅の魔石が映っているのだろう。
大きさと言い色といい相当高価な魔石だろう。
それが個人の魂の色で変わって来るって事かもしれない。
だがあれは人に作り出す事は無理だろう。見た瞬間に分かってしまった。
魂の存在すら信じていない様な人が扱えるものではない。
これ以上は見るだけ無駄だ。うっとりと魔石を見つめるリリーを置いて
そのまま風を纏い飛び上がりニナの待つ部屋へと帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
差し込む光から顔を背ける様に寝返りを打って横を向く。
同じシーツに包まったニナがいる事を思い出して起こさない様に気を付ける。
相変わらずニナは可愛いな・・・。寝顔を見ているだけで癒される・・・。
少し捲れたシーツからニナの胸が見えてそっとシーツを掛け直した。
勇者を討伐した日からもう三ヶ月。
ニナとの日々は信じられない程温かく幸せだ。
基本的に勇者以外の相手では呼ばれない為、あれから一度も戦いはない。
もしかしたらずっとこのまま生きて行けるのではないかと、そんな考えまで浮かんでしまう。
ニナの洞窟の管理を手伝い、ニナの秘密の場所で休憩したりお茶を飲んだりする日々が
これまで冒険しかしてこなかった日々からは信じられないほど心地よく感じる。
誰も争わない平和な世界があればいいのにな・・・。
それこそ悪魔も人間も手を取り合って・・・。
そう考えても魔石がなければ人間は暮らせない。
悪魔が教会で働く事が出来ればいいのか?
死んだ人から魂を抜き出して魔石にする仕事があれば・・・。
いや、そもそも魔族がいる教会に人は寄り付かないだろう・・・。
もう何度となく考えた事をまた考えていた。ニナの寝顔を見ると
誰もが平和に暮らせる道もあるのではと、どうしても考えてしまう。
ニナの頬を撫でると眠っているのに少しだけ擽ったそうに笑う。
「愛してる、ニナ・・・。」
寝ているニナの耳元に愛を囁くと寝ている筈のニナが少しだけ微笑んだような気がした。
だが、ジークが束の間の平和を愛でている時。人間界は悪魔との戦争をする為の
準備が整っていた。世界中から兵を集め、冒険者を集め、勇者を集めたその戦争は
人類史上、最大の作戦と後世に語り継がれるほど大規模なものになっていた。
そしてその日、三人の勇者と三千人の連合軍が魔界に向けて進軍を開始した。




