笑う閣下に泣くわたし、愛はいずこにチョップが頭に!
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おばんです。キュイです。
出会ったばかりのシュヴァルさんと仮想バカップル同盟を組み、お祭りデート、夜中の空中散歩を楽しんだあと家にお泊まりし、同じベッドで寝りについた男装乙女キュイです。
昨夜はキスだ落下だ兄上だと色々ありましたが、女友だちのところに泊まる感覚でドキドキワクワクし、――まぁ思っていたより疲労困憊していたようですし、人生も二度目、四十を超えると少々のトキメキよりも眠気が勝つようで、マクラ投げなんかに興じることなくすぐに眠りについたキュイです。
そんなわたしは、目が覚めたら兄上をお探ししようかな、なんて考えていたんです。が、
――が、ですよ。
おそらくは朝方。まだ陽の光さえ室内に差し込まない時刻にシュヴァルさんが起き出しました。昨夜は微動だにせず寝返りさえしなかったシュヴァルさん。さすがに起きるには早いと思うのでトイレかなーと呑気に思っていると、すぐに室内に三人目の気配を感じとり意識が浮上していきます。
「そこに、いらっしゃるのでしょう?」
わたしに話しかけていないことは明白です。だってわたしはここにいたんですからずっと。声を潜めていることからしても、わたしを起こさないよう配慮してるようですし。
「……お早いお出ましではありませんか」
その声のトーン。シュヴァルさんは不機嫌なんでしょうか? 感情が欠落しているように聞こえます。
「予定が変わったんだ。お前もそれは分かっていたはずだろう」
その不機嫌なシュヴァルさんに返答したのは男。どこかで聞いたことがあるようなないような……。そんな男の余裕のある返事はシュヴァルさんの声よりも遠くに聞こえたので、訪問者は恐らくは出入り口付近にいると思われます。
「それにしても急ではありませんか」
シュヴァルさんが、早朝のお宅訪問にも関わらず相手をしているところをみると知り合いではあるようです。しかも、気配を消してこっそり入ってきても驚かないということは常習犯。この場合、お邪魔虫はわたしのようなので、こちらに矛先が向かない限りは寝たふりをすることにしました。
「予定は予定。仕方ないだろ、出くわしちまったんだから」
……でも、この話はわたしが盗み聞いても良い類のものなんでしょうか? 訪問者はともかくシュヴァルさんはわたしがいるのを知っていて話しているわけですから機密性は低いのかもしれません、が……ふぁー朝ですか? とか寝ぼけながら起きた方がいいのかもしれません。どちらをとるのが正解か悩みます。
「お前も少しは報われたんじゃないのか?」
そんなわたしの悩みに気付くことなく会話は進んでいきます。いや、わたしは別に好きで盗み聞いてるわけではっ!
「惚れた相手と朝まで同じベッドで過ごせたんだからな。――にしても、手を出すかと思いきやずっと背中を向けたままで……、お前それでも男かよ。信じられん」
うは、ベッドで朝まで……、手を出す……? 誰に背中を向けていたんですって?
それは今の状況に関連する発言ではありませんよね? その話にわたしは無関係ですよね? ねぇ、シュヴァルさ――
「……閣下、その発言はいくらあなたでも許されるものではありません。殿下に対する不敬です」
……。無関係、ではないんですね? 流れからして殿下って、わたしのことですよね? ぇ、てことはわたしのことを好き? この不機嫌オーラマックスのシュヴァルさんが? 本気で? マジですかっ?
「くくっ、不敬ねぇ? その敬愛する殿下にキスをかましたのはどこのどいつだ? それこそお前の予定にはなかったはずだがな」
笑う閣下。
黙り込んだシュヴァルさん。
聞き耳をたてるわたし。
うーん? これはどういうことでしょうか? 盗み聴きはよくないとは思うのですが、二人の会話の中心にいるのはどう考えてもわたしです。そうなると、――いくつか気になる発言はあるんですが、――シュヴァルさんがわたしのことを好きだとか――でもその中で最たるものは『予定』というワードです。
もしもわたしとシュヴァルさんの間に何かしらの――わたしが知らない『予定』が組み込まれていた場合、それはつまりが、予めシュヴァルさんがわたしのことを知っていたということになります。この訪問者と組んで計画的に動いていた、――が、予定が狂い、訪問者が現れた。
そして、狂った原因が誰かと『出くわした』から。
わたしが昨日出くわした人――シュヴァルさんを除けば、メイシャさん、カミューリアさん、そして兄上と兄上に暴言を吐いた貴族。女装騎士団のみなさんに居酒屋の市民たち――思い返してみると多すぎて誰のことかさっぱりです。しかも、わたしが気付いていないだけという可能性もあります。
いったい、誰と出くわしたことで計画が狂ったんでしょうか?
その狂った計画とはいったいどんなものだったんでしょうか?
「さて、んじゃそろそろ――」
「お待ちください。閣下、約束を覚えていらっしゃいますよね?」
「むろんだ。強制はしない、協力してもらうだけだ」
参りましたね。これ、もしかしたら出会ったときから既に確信犯だった可能性もあります。もしくは居酒屋の前で再会したときからか……。それ以降はシュヴァルさんとずっと一緒でしたから、二人に計画を立てる時間はなかったはずです。しかし、もしもシュヴァルさんとの出会いすら――あの盗賊たちですら仕込みだったとしたら、……。
「ま、もう少しお前に恋人ごっこをさせてやりたいところだが、状況が状況だ。そいつはアジトに連れて行くぞ」
あぁ、嫌です。アジト……なんだか悪役ちっくな単語じゃないですか。
シュヴァルさん、悪い人、だったんでしょうか……? 落ち込みます。わたし、見る目なさすぎます。兄上に呆れられて溜息をつかれそうです。昨夜はあんなに素敵なバカップルを演じたというのに、訪問者曰くの恋人ごっこは終わりを告げるのですね。
「――というわけだ。おい、そろそろ起きろ」
……ん、あれ? もしかしなくてもバレてますか?
「まぁ、そのまま寝たふりしていても構わん。袋詰めにして引きずって行くからな」
バレていたようです。
なんだかちょっとバツが悪いですが、仕方ありません。袋詰めは嫌なのでわたしはのっそりと起き上がりました。薄暗い部屋の中で、わたしを振り返ったシュヴァルさんが、眉をひそめてこちらを見つめています。起きていたんですね、そんな声が聞こえてきそうです。けれど、……さてさてどうしたものか。
とりあえず、
「状況が掴めないんですが、わたしを誘拐でもする気でしょうか?」
直球で質問してみることにしました。
もちろん、投げた相手は未だ顔がはっきりと判別できない訪問者です。カーテンの隙間から入るわずかな街灯の灯りだけが室内を照らしいるんですが、それが当たっているのは訪問者の腰程度まで。帯剣はしていないようですが、その顔を見ることはできません。
「誘拐? 俺がお前を?」
「違うんですか?」
でも袋詰めにするんですよね?
「言ったろう、これは強制じゃない。協力してほしいだけだ」
でもアジトには連れて行くんですよね?
「お断りしたら?」
「おいおい、内容も訊かずに断る気か?」
「こんな時刻に現れる方の要求がまともであるはずがありません」
絶対にろくでもないことです。
用があるのが金麦伯爵子息にしろ、女王国公爵にしろ、身分ある者に協力を強制させようなんて絶対に確実に悪事です。けれど、できれば後者であればいいと思います。せめてあの出会いは偶然であってほしいです。でなければシュヴァルさんの誓いの根拠が失われます。シュヴァルさんが恩返しの鶴の羽毛を羽織った狩人だったなんて……、そんなことになったらやっぱり口封じをしなければならなくなります。
視線を訪問者に向けながらも、意識をシュヴァルさんへと飛ばします。
昨夜のあのバカップル。本当にいい感じだったのに……。
「くくっ、言うようになったな、お前も。しかもその殺気……そんなにシュヴァルのことが気になるのか?」
ん? 言うようになった? お前も?
後半はともかく、それってわたしのことを以前から知ってるみたいに聞こえるのは気のせいでしょうか?
「昔はハーネスの回りをうろちょろして鬱陶しいだけのバカガキだったけどな」
「――っな、!」
ハーネス! ハーネス兄上っ? あ、兄上のことを知っている? この訪問者は、昔のわたしたちを知ってるというんですかっ?
「あなたはいったい――」
「本当に分からないのか?」
驚きまくっているわたしの視界に、はっきりと訪問者の顔が現れました。
「久しいな、キュイ」
「――っ、あ、あなたは……!」
騎士服をラフに着こなし、わずかにうねる長髪を束ね、精悍な顔をした――故郷金麦国の第三王子――グラファス・オルヴァーン・シュトゥックレンゼン。
五年前、兄上をわたしから奪ったあげく、女王国へと留学し、兄上を女装の道へと導いた放蕩王子にして愚か者!
「どうして、」
わたしは脳裏に浮かんだ疑問の言葉を口にしながら身を乗り出しました。全細胞が同じ疑問を抱き、身体中からゾワゾワとあふれ出ようとしています。
「ようやく気付いたか? 久々過ぎて気配や声では分からなかったみたいだな」
余裕の笑みを浮かべるその男と対峙すべく、わたしはベッドから飛び出しました。仁王立ちし、王子を睨みつけます。そして、
「どうして、」
「ん?」
礼儀も忘れて飛びかかってしまいました。
でも、止められませんっ、沸騰した血管が勝手に手足を動かしているのですっ!
「どうしてっ、どうしてどうしてっ!」
「なんだお前、どうし――」
「どうしてあなたは女装なさっていないんですか!」
「ぁ?」
余裕でわたしの体当たりを交わして眉をひそめた王子に、体勢を整えたわたしはダンっと足を踏みならしました。裸足だったのでこちらの足が痛いだけで音はあまり出ませんでしたが、問題はそこではありませんっ!
「兄上があんなお姿をされているのに、なぜあなたはそんな普通の恰好をなさっているんですかっ?」
毒牙にかかったのは王子のはずです。それなのに、なぜ兄上だけが……!
「あぁ、あれか、あれは――」
王子が訳知り顏を見せたのとほぼ同時でした。ある程度は覚悟してた予感が実感として広がり、それに伴い血の気が引いていきます。
「――ま、まさか、あなたですか? 兄上のあの女装はあなたのせいなのですねっ?」
「いや、まぁ、俺のせいっちゃ俺のせいだが、あれは、」
肯定の言葉に目眩が起きました。額を抑え、倒れるのを必死で耐えます。
まさか、こんなことが……起こるなんてっ!
実を言えば、昔から予感はあったのです。幼い頃からやたら歳下の兄上とつるんでいた王子にまさか、と。けれどそんな展開いくらなんでもありっこないと、転生乙女だからそんな連想が出てくるのだと、そう思っていたんです。ちょろちょろと兄上の周りにまとわりつき、わたしから兄上と過ごす時間を奪い――相手が王子であるがゆえに譲らなければならなかった悔しさは計りしれませんでしたが、それでも我慢していたのは兄上の出世のため! 馬鹿でアホと名高い第三王子だろうが王子は王子。きっと兄のためになるだろうと……、それなのにまさか……、まさかっ!
「グラファス王子っ!」
「さっきからなんだよお前は」
呆れを見せるその顔をガッと睨みつけてやりました。なんだよ? それはこっちの台詞です!
「王子、あなたはっ、あなたという人はっ、」
拳を握りしめ、膨らむ涙袋に力を入れて絞りつつ、
「兄上と結婚したいがためにこの女王国にいらっしゃったのですね!」
ビシッと指摘してやりました。
「……あぁ? なんだと?」
王子の反応は薄いものでしたが、わたしには分かっています。図星をつかれたから一拍間が空いたのでしょうっ? わたしの経験からして図星を指される人は反応が遅れるか、もしくは慌てて否定するかのどちらかなんです!
「お前、何ふざけたことを――」
「隠しても無駄ですっ!」
人生歴四十年をなめないでくださいっ!
「五年前、突然我が兄上を専従騎士として指名し女王国へと渡ったのは、兄上を女装させて国では許されない同性婚を成就させるためだったのでしょうっ?」
でなければ、兄上が女装しこのバカ王子が男装している説明がつきません。
あのとき貴族たちが言っていた毒牙とは、兄上と王子の結婚を示唆していたんです。金麦では同性婚は許されていません。――いえ、正確に言うならば男性同士の婚姻が認めらていないのです。女性過多社会で――しかも男性のみが家督を継げる状況で、男性同士の結婚を認めようものなら女性陣営が怒り狂うでしょう。確実に血を見ます。ゆえに金麦ではガールズラブは推奨図書、ボーイズラブは発禁書物としてカテゴライズされているほどなのです。それほどに金麦の婚姻制度は逼迫しているのです。
だというのにっ、いえ、だからといってっ――!
「あなたは、なんということを……! なんということをなさったのですかっ、兄上は、ハーネス兄上は確実に男に興味などなかった。きちんと女性とお付き合いをしている時期もありましたっ。ゆくゆくはピナス家の家督を継ぎ子孫を残す。それが自分の役目だと理解されていたのですっ! それを、あなたは権力を使って……!」
主従、無理矢理、駆け落ち、女装――末は結婚!
これは、ノーマルだろうがビーエルだろうがよくある展開ではありませんかっ。なぜ気付かなったのか、否っ、気付いてはいました。特にこの女王国のあり方はまるで公認ビーエルホイホイ、ですからもしかしたら兄上もこの地で殿方と……そんなこともあるかもしれないと危惧はしていたのです、ですが、まさかコレとっ、自国の王子とっ……!
くっ、これはわたしの落ち度です。転生乙女として二度目の人生を過ごしていたわたしは、主人公めいた己の存在を過信していました。転生というファンタジックライフに己が主役なのだと勘違いていたんです。ですがようやく悟りました。わたしは脇役。ビーエル主人公として選ばれた兄上の傍で無様な姿をさらす無力な存在でしかないと。
――あぁ、兄上様っ!
仇を討ちたくとも、相手は王子! わたしが王子殺害の罪に問われればいくら女王国の公爵位にあろうとも実家に類が及ぶ可能性もあるのです。きっとそれは兄上も望みますまい、それゆえにわたしに助けを求めなかったのでしょう。
ですが、だからこそ、わたしが気付いてあげるべきだったのです!
「あ、あにうえっ、っう、うぅ、」
わたしは耐えきれずに膝をつきました。涙まで流れてきました。この男を仕留めたいと本気で思いました。が、それはしてはいけないことだと理性が止めにかかり、それでもなお飛び出しそうとする脚を止める手立てが他になかったのです。
――あぁ、哀れな兄上っ! 気付けなかったこのキュイをお許しください!
セクハラに耐え、パワハラに耐えた五年もの長きに渡る歳月。どれほどお辛かったことでしょうか。便りがないのはご無事な証であると呑気にパスタやピザやパフェ作りに邁進していた愚かなキュイをどうか罰してください!
「おい、」
本格的に泣きに入ったわたしに無情な声がかかります。その声の主はもはや忘れることができないだろう憎き王子のもの。
「……お前って、ハーネスのことになると大馬鹿になるのは相変わらずだな。普段は虫も殺しませんって顔ですましてるくせに」
貴様に何を言われる筋合いはないと顔をあげて睨みつけてやると、腰を折った王子が頬杖をついてこちらを見つめ返してきました。その瞳に呆れの色を見つけ血が滾ります。
――いえ、ダメです、落ち着きない、キュイ。もしかしたらもしかするかもしれません。初めは意に沿わないことであったとしても、一緒に過ごすうちに兄上の心にも愛が……。もしそうならば、そう落胆することはありません。兄上をお助けできなかった罪を背負い、わたしがオルヴィナス領の領主となります。兄上がお幸せであるなら、この鬼畜を罰したいほどの万感の思いを全て心の奥底へと封印し、この身を領地に捧げ、兄上の分まで領民の生活のために尽くして参ります。そう、全ては兄上のお気持ち次第なのです。
わたしはスゥーっと深呼吸。
そして、思いきって尋ねてみました。
「同意しておられるのですか?」
「……」
ちょっと、なぜ答えないんですかっ? さぁ答えなさい! 答えてください!
「兄上は、あなたのことを心から愛していらっしゃるのですよね? 結婚も同意の上だったんですよね?」
答えてください、王子! ――王子っ!
視界が歪みます。お願いですからイエスと、イエスと言ってくださいっ。でなければ、わたしはっ、わたしはっどうしたら……!
「あなたも兄上のことを愛し――ィデっ?!」
痛む心を服ごと鷲掴み、もはやすがるような声をあげると、――いきなりチョップされました。王子にチョップされましたけどっ!
「何を! 気が触れたのですかっ?」
「それはお前だバカキュイ。意味不明なことを言い募るな気持ち悪い」
「――キモっ?! なっ、では、あなたはまさか遊びで兄上に手を――アダッ! ダ、デ、ィタッ、痛いですっ、王子、おやめくださいっ!」
連続チョップされ、わたしは地面へと沈められました。額を床に三度ぶつける頃にようやく止めてくれましたが、頭と顔が痛すぎますっ! ヒリヒリもします。煙出てるんじゃありませんかっ?
「な、何をなさるんですっ?」
「お前が馬鹿だからだ」
「ばっ」
馬鹿はそちらでしょうに! 昔から馬鹿といえば王子、王子といえば馬鹿として常にイコールで結ばれていたではありませんか。
「シュヴァル、お前こんな奴のどこがいいんだ? 頭が腐りまくってるぞ」
「……殿下は兄上想いの優しい方なのです」
腐ってません。そしてシュヴァルさん、その間はなんですか? 今ちょっと何か考えましたね?
頭と顔面の痛みに耐えながら立ち上がり、こぼれた涙の余韻を拭います。
痛みで少し冷静さを取り戻しました。ふぅ、少し熱くなりすぎたようです。美少年よ冷静であれ、それがわたしのモットーだというのに。
「お前、そんなにハーネスが好きか?」
「愚問ですね。わたしがこの世で最も愛しているのは兄上です。常に兄上の健康とご武運を祈っています」
「……ふーん、それ、シュヴァルよりも?」
「もちろんです」
たった一日かそこらでトップの座が変わるほどわたしは軽くはありません。
「俺よ――」
「当然です」
「即答かよ」
「そんなことより、あなたは兄上と愛し合ってはおられない。その認識で正しいのですよね?」
これが、今までの流れからわたしの冷静な頭が導き出した結論ですが、それでもきちんと確認しておきます。
「当たり前だ」
――のクラッカー! ビバッ! ――はっ、でも!
「では、……もしや他の男性と」
「……安心しろ、奴は女しか相手にせん」
再度ビバッ! ヒャッハー! よかった! 兄上よかった! 兄上の貞操は守られている! よかった! よかった兄上っ!
思わず涙ぐんだわたしに、シュヴァルさんがハンカチーフを寄越してくれました。ありがとう、シュヴァルさん。
「それで、今兄上はどちらに?」
「あいつならアジトにいる」
――アジト!
王子の専従騎士なのですから行動を共にしていて当然ではありますが、複雑です。だってアジトですよアジト! 兄上は正義の名の下に乗り込む騎士役であるはずなのに、なぜにアジトにいるのか、しかも女装……。
「――来るだろう? 道中説明してやる」
その王子の誘いを断るはずもありません。もちろん全て、根掘り葉掘りうかがわせていただきますともですっ! わたしは兄上を助けるためにここに来たのですから当然ですっ。
――さぁ、待っていてください兄上、いま、あなたのキュイが会いにゆきますからっ!
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