バカと王子は紙一重と言うけれど……
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おはようございます、キュイです。
シュヴァルさんのお宅にお泊まりしたら、突然兄上をわたしから奪った憎い第三王子グラファス殿下と再会することになったキュイです。
兄上が王子のアジトにいるということなのでわたしは勢い勇んでアジトへの道を進んでいます。
ちなみに着替えはフィッシャー君が早着替えの技で着替えさせてくれました。またもカボチャパンツでしたけど、――人とは慣れるものですね、一晩経つともうどうでもよくなりました。ふふ、ふふふふ。
「――もうすぐ着くぞ」
王子の声が響く通路はゴツゴツの岩壁。そこをかれこれ結構なお時間歩いています。きっともう外は太陽も昇ってしまったことでしょう。
どうやらアジトは地下通路で繋がっているらしく、――しかもシュヴァルさんが住む家の地下に隠し扉があり、そこから地下洞窟へ降りるというアジトというよりは秘密基地ぶりにちょっとだけテンションの上がったわたしですが、暗い地下通路を王子の手もとの小さな燭台だけを頼りに進んでいると徐々に不安になっていきます。
「……まさか、これ、王子が掘ったわけではありませんよね?」
気を紛らわすために王子に尋ねると笑われました。
「まさか。俺が来た時にはすでにあったさ。こんな土木工事を五年かそこらでするのは無理だろう、しかも他国で」
無理だとは思っていましたが、安心しました。
背の高い王子がジャンプしてやっと天井に手がつく広さがあります。それがシュヴァルさんのマンション地下からここまでずっと続いているんですから、一人二人の小人数では確かに無理ですよね。王子は人望ありませんし、あったとしても世界の中心で掘削作業なんてしませんよね。さすがに。
「では、この地下通路はなんのために?」
やはり避難経路でしょうか? わたしの実家にも秘密通路があります。そこは、もしものときの脱出通路で、子供のころに探検がてら兄上と避難訓練をした覚えがあります。懐かしいです。
ただ、その通路はここよりもずっと狭かったと記憶しています。今通ろうと思ったら頭を下げなくてはいけないでしょう。
でも、わたしの実家のように大きな屋敷なら分かりますが、なぜあのようなマンションの地下にあるのかは疑問です。集合住宅といえど貴族が住んでいるからでしょうか? 女王国のマンションには非常用通路が常備されているのが普通なんでしょうか?
「これはあの屋敷に住んでる貴族たちの移動用に作られたものらしい。あそこは昔から女装貴族専用だからな」
「女装貴族の移動用?」
というか、専用住宅だったんですね。まぁ同じ女装貴族が住んでると思うと気兼ねなく暮らせますから、その辺の配慮なのでしょう。
「もしかして、今からむかう場所にも女装貴族たちが?」
「あぁ、ある意味溜まり場だな」
「溜まり場……」
もしかして街での鬱憤を晴らす場なのでしょうか? 地下の酒場とか地下街があって、女装アウトローたちが日夜どんちゃん騒ぎ……、そしてそこに兄上も……。
「すごいぞー、あそこは異様な雰囲気が充満してるからな」
笑う王子になんと返答したものか迷い、結局「そうですか」とだけ返しました。
だって、頭に浮かんじゃったんです。昨日の女装騎士団のみなさんがたくさんいる光景が。愚痴を呟きながら麦粒酒をチビチビと飲む、疲れ切ったサラリーマンみたいな光景が。
きっとある意味絶景です。
も、もちろん分かってますよ? 好きでやってる人にしろ強制されている人にしろ、あるがままを受け入れなければならないことは。
でもですね、人にはそれぞれ美的感覚というものがありまして、――わたしの美的感覚で言わせてもらえば、彼女たちは決して美しい部類には入らないわけで……。兄上だってドレスよりも騎士服が似合うわけで……。
あぁ、やめましょうこの思考は不毛です。わたしはただ、彼女たちをまっすぐに見つめて、笑顔で対応すればよいのです。
「そこには女装王族の方もいらっしゃるんですか?」
「いや、今は王族の参加はないな。支援することはあるようだが」
「支援だけ、ですか?」
もしも飲み会なら、女装王族こそ参加したいイベントでしょうに。あれでしょうか? 飲み代だけ払ってこれで楽しんでくれみたいな?
「色々と事情があるのさ」
事情? それはいったいどんなものなのか。気になったので尋ねようとしたところで「ついたぞ」と王子の足が止まりました。曲がり角の先に、ゆるい階段があり、岩壁の天井に木戸がはめ込まれていました。王子が木戸を叩くとややして扉が開きます。目的地はどうやら地下街などではなく、どこかの屋敷の――恐らくは地下室かどこかのようです。
「よぉ、揃ってるか?」
「はい。閣下方が最後です」
「そうか。お前は先に戻ってろ。――おい、入れ」
木戸の外にいる人と話しながら、王子はさっさと上へあがっていきました。
わたしはというと、王子に促されてもさっきの会話が気になって足が動きません。
だって、揃っているとはどういうことでしょうか? つまり王子が呼び寄せたということですよね? 陽は昇ったにしろまだ朝方です。飲み会のはずはありません。それに事情とは? 木戸の向こう側にいるのはきっと女装貴族たちなのでしょうが、そこに女装王族はおらず、裏から支援するだけ……。なぜ、支援を?
そもそも、協力してほしいこととは何なのでしょうか?
よからなぬことは、いったいどれくらいのレベルで?
兄上に会えると思って喜び勇んでここまできましたが、いったい何をさせるつもりなんでしょうか? そして、この王子は兄上にいったい何をさせているんでしょう?
確か、道中教えていただだけるお約束だったはず。秘密基地ばりの地下洞窟につい興奮と思考を掴みとられて聞きそびれてしまいましたが、
「なんだ、来ないのか?」
その木戸を何の前知識もなく潜るのは愚の骨頂。勢いで進むのは勇気ではなく無謀の極みです。
「……先に、教えていただけませんか? あなたは、いったいこの国で何をなさっているんですか? 兄上になんのために女装をさせているんです?」
兄上は王子に追従して女装しているわけでも、男が好きなわけでもない。なら、なんのために?
何かがひっかかります。
――こいつら女装子爵!
あの若輩貴族の言葉が頭に甦ります。
あのとき、兄上に対してあの若輩貴族はそう叫びました。女装子爵、と。なぜ兄がこの国で子爵位を?
それはとても些細なことかもしれません。ただ兄上がそれっぽい格好をしていたからそう呼んだか、あるいは傍に、他にも女装子爵の方がいたのかもしれません。――が、そのことが今になって気になって仕方ありません。不安なせいで疑心暗鬼にかられているようです。
「ここまで来たんだ、あとは中で説明してやる。というか奴らに会えば分かる」
「奴らとは、女装貴族の方々ですね」
だから、どうして女装貴族が朝っぱらから集まっているのかが気になっているんです。
「そうだ、その中にお前の兄もいる。お前が来るのを待ってるだろうよ」
兄上が、わたしのことを待っている……。
地下道へと戻ってきた王子が笑顔でそう告げます。ちょっと前のわたしなら王子を押しのけてでも入り込んだでしょうけど、今は足が動きません。そこに兄上がいるのだから入らないわけにはいきませんし、結局は入るわけですが、それでも心の準備は必要です。
「シュヴァルさん」
王子はあてにできません。
シュヴァルさんならきっと答えてくれるはずだと声をかけます。でも、名前を呼んですぐに王子に服従傾向にあることを思い出しました。だって移動中一言も喋っていません。他国の王子に遠慮しているだけだと思いたいですが……でも、きっと大丈夫ですよね? 一度信じた相手です。それに、……わたしのこと好きらしいですし? 教えてくれますよね? ……とは言っても、惚れた腫れたが本当かどうかも王子の言葉なので微妙ではありますけど。
斜め後ろにいるシュヴァルさんに顔を向けます。しばらく見つめ合っているとシュヴァルさんの瞳が少し細められました。え、なんでそこで笑うんですか?
「反乱です」
――って、ぇ? なに?
「彼らは反乱を起こそうとしています」
……はんらん? ――って、反乱? 反乱ですか? 反乱とおっしゃいましたかっ?
一瞬、本気で倒れそうになりました。でも頭のちょっとした片隅では「やっぱりかぁ!」と頭を抱えて「オーマイガー!」と叫ぶわたしが崩折れていました。
まさか、そんなはずないと。いくらバカ王子と名高いグラファス様でも他国で――しかも世界の中心で反乱なんて起こすはずないと、そう信じていたというのに……!
ショックで混乱する頭を、まるでからくり人形のように回して、王子を見返します。
「反乱、ですか?」
王子が溜息をつきました。溜息をつきやがりました。しかも「やれやれ」と。ことの大きさを分かっていないかのような、そんな様子にカチンときます。
国境侵犯したわたしが言える台詞ではないかもしれませんが、あれは結果オーライということで言わせてくださいっ、――こんのバカ王子!
「驚かそうと思ってたんだがな」
「驚いてますっ! あなたはいったい何を考えておられるんですかっ?」
まさかの反乱、やっぱり反乱、ひどいよ反乱っ!
なにがひどいって、
「あなたは、そんなものに兄上を巻き込んだのですかっ?」
クワッと王子を睨みつけ、激昂しました。しますとも、だって反乱ですよ? 他国の――しかも属国の王子が地下組織作って反乱ですよ? バレたらスミマセンではすみませんよ! 一家断絶どころか他の属国からも袋叩き。ピナス家どころか金麦の危機です! こんのバカチン王子、そこんところをきちんと分かっているのでしょうかっ? 脳みそ入ってますかっ? まさかトロトロに蕩けてるんじゃないでしょうねっ?
「いや、俺は巻き込まれた方なんだが」
はぁ? なにおっしゃってるんですかっ? 堂々と嘘っぱちつくなんてっ! 兄上が王子を巻き込む確率なんて一万分の一以下ですっ。
剣の柄に手をかけていたわたしに両手を見せますが、兄上に罪をなすりつけるとは許せませんっ! 反省文を石板に掘って持って来たところで許せませんよっこのすっとこどっこい!
「反乱といっても計画しているのはごく小さなもので、」
「反乱に大きいも小さいもありませんっ、反乱は反乱でしょう!」
小さな反乱から大きなものへと繋がっていく可能性はあるんですよ? わたしがピザを初めて焼いた時、パフェを作った時、口コミから方々へ噂が広がり今では店舗をもつほどにまで成長したのと同じように、口コミで反乱の規模が広がっていくかもしれないではありませんか!
「あなたという人は……!」
ブチ切れそうになったわたしは、なんとか心を鎮めようと爪を肉に食い飲ませました。ダメです、怒りで我を忘れてはいけません。落ち着いて、落ち着くのですキュイよ。そう、まずは深呼吸。でもラマーズ法はダメ。キャラじゃないから静かに呼吸を繰り返すのです。
ここはどこで、どんな状況なのか、そんなこんなを客観的にとらえ、気持ちを切り替えることを試みます。感情の爆発は思考回路を破壊します。多角的視野から物事を見るために冷静さを欠いてはいけないのです。
そうです……もしかしたら……、もしかしたら王子の言葉は少しは――小麦ほどには正しいのかもしれません。いや、きっと少しは正しいはずです。元々反乱組織があり、何かしらの騒動の末に二人は巻き込まれてしまった――そんな可能性はそこそこあります。というかきっとそうですよね。だってここは他国ですから。世界の中心ですから。まさか首謀者ということはないはずです。
わたしはもう一度深く息を吸い込んでから、
「けれど、兄上を巻き込んだのは間違いなく、」
「だから俺じゃない。先に巻き込まれたのはお前の兄で、次が俺だ」
とりあえず兄上の名誉のために冷静に指摘しようとすると、さらにそんなことを言いやがりました。
兄上が巻き込まれた? あの慎重な兄上が? でもきっと、それは――
「まぁ、きっかけを与えたのは俺だが」
やっぱり王子のせいじゃないですかっ!
最初からそう言いなさいってんですよ!
「――あなたという人はっ! ご自分が何をなさっているかお分かりなのですかっ? 兄はピナス家の跡取りなんです。そしてあなたは第三といえど王子! そうと分かっていて、他国の反乱に参加するとはどういうつもりですかっ?」
あぁ、ダメです。つい感情的に、どうしても語気が荒くなってしまいます。だってここは世界の中心なんですよ? 世界の中心で反乱なんか起こしたら、それは世界への反乱です。そこんとこ分かってるんですかっ?
「どうと言われても困るが、俺としては軽い気持ちで、」
「軽い気持ち……、反乱へ軽い気持ちで参加すると?」
その気持ちにイエローカード! マッチ一本火事のもと! あなたの耳元で永遠と囁いてさしあげましょうかっ!
「いや、だが、これはお前が思っているような大事には、」
「すみませんが、――気持ちを落ち着けたいので少し黙っていてくれませんか」
「……お前な、人の話を聞け」
反省の色が全く見えない王子に、昔の記憶が甦ってきます。この王子には何度煮え湯を飲まされたことか。
……そう、あれはわたしが七歳のとき。わたしと兄上が楽しくお散歩していたところに獰猛な犬に乗って現れたのが出会いでした。あのときはわたしを追いかけ回した揚句に兄上をかっさらい、一人残されたわたしはトボトボと還る羽目に……。しかも犬が苦手になりました。
それからというもの、学校へ通う兄上に差し上げた手作りクッキーを強奪され、ケーキを強奪され、レモンパイを強奪され、シフォンケーキを強奪され……、会話を交わしたことはわずかですが、わたしの兄上への愛が詰まったスイーツを数え切れぬほど奪い、悪びれもせずに犯行を続けたその所業……! 思い出すだけで腹が煮えくりかえりますっ。
それでもわたしは耐えに耐えていたのです。美味しいよ、キュイ。兄上のその顔が見たいから。優しく微笑んでもらいたいから。
――けれどっ、結局は兄上をも奪われてしまった……!
「そもそもの間違いは、兄をこの女王国に連れて来たことです。あなたが国から出たことです」
男子出国禁止的空気が漂っている金麦において、兄と離れることなど死別以外にはないと安心していたのに……!
この国で兄上に何かあったとするなら、全ては王子のせいです! わたしが今ここいるのも全て王子が兄上を女王国に連れて行ったからなんですからね!
「なぜ留学なんてことをお考えになったのです」
ずっと聞きたかったんです。この王子が留学なんて言いださなければ、兄上はわたしの傍で健やかに暮らしていたことは間違いありません。
「どうしてですか、王子」
どうしてなんですか? さぁ、お答ください。軽い気持ちで正直にお答えください王子!
「……まったく。――で、なんだ? 留学の理由? なんとなくだろ、そんなの。当時のことなんぞ覚えとらんわ」
なんとなく? 覚えてない?
――キレますよ? キレますよわたし!
なんとなくで留学するんじゃありません能天気ボンボンめっ。あなたいくつだと思ってるですか? いい歳して結婚もせずにほっつき歩いて兄上に迷惑かけて――!
「……まぁでも、分かった。考えてみれば俺が元凶だ。よし、俺を恨んでいいぞ」
恨まいでかっ! 考えずともあなたが悪玉菌ですっ! わたしがこの五年、何度呪詛の言葉を吐いたと思ってるんですかっ? 当然恨みます。恨みますよ永遠に! もしも国が滅びることになったなら、あなたのパンツはわたしが斬り刻んでさしあげます! そして女王国の門扉に天誅の札を張り付け逆さづりにして、腕のいい絵師と掘師にその姿を後世にまで残してさしあげます!
「そして恨まれついでだ。お前も参加しろ」
アホですかこのアホンダラ王子は。この流れでどうしてそんな台詞を吐きやがるのでしょうか。
「遠慮します。他国の内乱などに興味はあません」
というかこの特ダネと引き換えに女王を抱き込んで無事に帰国――
「お前ここの公爵になったんだろう? 無関係でもないさ」
ノー! そうでしたっ。わたし、つい昨日女王国の公爵に……! しかも兄上を人質にとられていては反乱のことを女王へリークすることもできないではありませんかっ!
「お前の兄は参加して、快く協力してるぞ。兄弟仲良く反乱すればいいだろう」
仲良く……。兄上と仲良く……。
――はっ、なに揺らいでるんですわたしったら。仲良くはしたいですが反乱はダメです。口車に乗ってはダメですよ!
「……それは参加ではなく人質、協力ではなく強制されているのでしょう。あの兄が家名を危うくするようなことをするはずがありません。……もしも、そのせいで五年もの間、帰国できずにいたというならどんな手を使ってでも助け出します」
ぐっと拳を握り、決意を固めます。わたしは今、無力な子供ではありません。フィッシャー君というちまぷにメルヘンパワーボーイがついているんです! もしも兄上に不埒なら真似をしようものならわたしのガッキーだけでなく、フィッシャー君が青い羽根でやっつけちゃいますよ! その恐ろしさは女王国に長年いらした王子なら分かっているはずです。
しかしわたしは武力行使に出るよりもまずは対話を望みます。平和主義なのですわたしは。
「いったい、どうしてですかグラファス王子。なぜ反乱に加担など……」
何か深いわけが、
「成り行きだな」
――っく、今度は成り行きですか。ふっ、そうですよね、深いわけなどあるわけないですよね。
うぅ、もうヤです。この王子本当にバカです。成り行きで反乱になんか参加しないでください。そして兄上や金麦を巻き込まないでください。
「……では、成り行きで事の全てをお話し下さい。今ならまだ引き返せるかもしれません」
というか引き返しましょう。足を洗って金麦へ帰りましょうよ。結婚願望の強い女性陣に追いかけられていた日常が懐かしくはないですか? わたしはひどく懐かしいです。昨日のことなのにもう随分と昔のことのように感じられます。ね、王子、国に帰って甘いものを食べましょう? 王子好きでしょう? 甘いもの。兄上のスイーツを奪うくらいですもんね。
ですから、わたしがオーナーをしている店で兄上と王子、あとシュヴァルさんも一緒に食事でもしましょうよ。美味しいピザにパスタ、ほっぺがとろけるスイーツがたくさんありますよ。我が金麦はとっても潤ってます。美味しいものがたくさんあります。その金麦を危機に追いやるようなことはやめて帰りましょう。
ね、王子?
懇願する視線を送ってみましたが、
「無理だな。俺はともかく、ハーネスはやる気でいる」
肩をすくめられました。
「またそんなことを、」
「本当だ」
疲労の溜まった声でいさめると、思いのほか真面目な声で否定されてしまいました。王子のその表情には笑みはありません。ピンっと、緊張の糸が張られました。
「ハーネスに会えば俺の言葉が真実だと分かる。あいつは変わった」
「……」
眉をしかめたその表情からは苦悩を感じとれます。そんな、まさか、兄上が? 変わった?
「お前も来い。別に参加しろとはもう言わん。だが、もしハーネスを止めたいなら奴らはお前自身で説得しろ。俺にはもうあいつらを止める手立てが思いつかない」
「……ま、さか、王子、本当は、」
本当は、王子は兄上たちを止めようとしていたのですか? だからヤケになって反乱に加わろうと……!
「お前の言う通り、俺が原因でもあるからな」
苦笑を見せる王子に、わたしは胸を打たれました。
――あぁ、王子! なんてことでしょうかっ! あの王子が――バカと王子は紙一重――いやもうバカが王子の皮を被っているとまで謳われた王子がこんなにも成長して……きっと金麦におわす陛下もお喜びになるでしょう!
「ただ、覚悟しろ。生半可な気持ちじゃ奴らの気持ちは変わらない。奴らの想いは切実だ」
王子の真摯な眼差しに気を引きしめます。
きっとここに集まった貴族たちは、昨日会った若輩貴族少年のように国を憂い、日々国に対する不安を抱いているのでしょう。けれど、早まってはいけません。一か八かの反乱など起して人生を棒に振ることはないのです。……もしかしたら兄上はその国を想う気持ちに呼応されたのかもしれません。兄上もまた金麦の将来を常に考える愛国心に溢れたお方ですし、それになにより心がお優しいから……。
ですが兄上、お願いですから思いとどまってください。ここは女王国エマニュエルサであって、金麦シュトゥックレンゼンではないのです。他国の――宗主国の事情に口を挟んではなりません!
「――分かりました、王子」
わたしは一歩を踏み出しました。
胸に手を当て、ふっと息を吐き出します。
「お任せ下さい。必ずやわたしが反乱を止めて見せます」
そして必ず、兄上を連れて国へと帰ります!
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