ちょっ、嵐の前の×××!
▽
こ、こんばんは兄上! ご機嫌うるわしゅうございますか、兄上! わたしです、キュイです。あなたの可愛い妹であり弟であるキュイです!
お嬢さん方への侮辱にキレて乱入したその場に、まさかの兄上がいらっしゃるとは! あぁ、これぞ運命! 切っても切れない血の赤い糸!
――と興奮した瞳で久々の兄上を心ゆくまで見上げ今にも身体が駆け出そうかとしていましたが、そんなとき、空気を読まない人がわたしの肩を掴んできました。
「お前、ダレ?」
相手に顔を向けることなく、視線は兄上に向けたままでそれを振り払いますが、すぐにまた掴まれてしまいました。
――うざっ! なんなのうざっ! というかお前こそ誰ですかっ、わたしは今、兄上との運命的な再会に心躍らせているんです! 邪魔しないでください!
「俺が訊いてんだから答えろよ。今の跳躍はどうやった? というか、お前、もしかして騎士を気取ってんの? はっ、俺が誰か分かっててそんなことしてんだろうな?」
知るかです!
まったくグチグチとウルサイ人ですっ、わたしがあなたのことなんて知る由もないじゃありませんか! だいたいですね、いいですかっ、わたしたちは五年ぶりの再会なんですっ! 少しくらい余韻に浸らせてくれてもいいでしょう!
例え兄上が女装していたとしても、それでもその逞しさは隠しきれるものではなく、――いや、その女装では隠しきれないほどの男らしに眼福眼福幸せ至極で、あなたに構っている暇は一秒足りともないんです!
「こっち向けガキ!」
――アァァァ、もうっ! ついに力任せに肩を引かれ、よろりとよろけながら振り向かされてしまいました。最後の一瞬まで目を見開いてわたしの登場に驚いている兄上から視線は外しませんでしたが、――あぁ、兄上! 今兄上も運命を感じていらっしゃいますね、キュイにはわかります。兄上もわたしに会いたかったんだと!
「……ふん、女みたいな顔しやがって」
む。それは美少年だということですよね? そのままの意味だった場合キレますよ?
というか、再会を邪魔された時点で相手の評価は最悪で、これでもかと睨みつけてやりました。そうしてようやく目にとめたウルサイ人は、不機嫌オーラを顔に貼り付けたそこそこの美少年。わたしと同レベル――いえ、系統が違うので一概には言えませんが、――とりあえず生意気そうに吊り上がった猫目が印象的な少年です。女っぽくはありません。たぶん将来有望な男っぷりある美少年です。――が、わたしとそう歳は変わらないではないですか! ガキにガキと呼ばれたくありません。それにあなた、あなたは……
「――あなたは先ほど、こちらの方を侮辱しましたね?」
思わず低い声が出ました。降って湧いた幸福に浮かれていましたが、このウルサイ美少年が侮蔑の言葉を吐いたのはわたしの兄上に対して。その辺にいる女装令嬢さんでも腹が立つというのに、わたしの兄上! 我が愛しき兄上に、女装野郎と! キモチワルイと! え、そこまで言ってない? いや消えろってそういうことですよね?
――うぉのれっ、許すまじ!
再びキレた音がシュッと聞こえました。
「――なっ、道の往来で剣を抜くか普通!」
ホゥ、此の期に及んで正論を吐きますか。確かに、こんな場所で剣を抜くのは非常識極まりないです。ですが、仕方がないでしょう! 怒髪天をついたことで身体が勝手に動いちゃったんですから! わたしに対する丸禁ワードをお教えできるならば教えて差し上げたいです。
「貴様は、羞恥に値する罪を犯した」
わたしに対して、いえ、わたしの鼓膜が震える場所で発してならないもの、それは兄上への暴言、真実の暴露、仮装者たちへの配慮に欠けるセンテンス!
「羞恥を抱き墓穴へと去りなさい! それが嫌なら謝罪しなさい!」
「はっ?! いや意味不明だろっ?! なんだ羞恥って! 墓穴って、俺を殺す気かっ?!」
社会的に抹殺してやります。さぁ、謝罪を! でなければ我が愛剣ガッキーの刃が貴様のパンツまでも切り裂くであろう!
「――なんとか言え、逆に気味悪いっ。そ、それに、恥ずかしいのはそこの女装野郎たちで――っ!」
切っ先をフリフリの襟元にピタリとつけます。そのボタン、一つ一つ切り取ってやろうか!
「騎士を目指す者として、令嬢への侮辱は許せません」
女性は大切にしなければなりません。それが例え女装令嬢でも、世界の中心である女王国が女性と認識するよう法まで制定したならば、世界の民の一員としてはそれに従わなければ不敬! それはあなたも分かって――
「れ、令嬢って、相手は女装子爵――っ!」
いませんか。そうですか。ふっ、ボタンを一つ飛ばして差し上げました。愚かなことを口にするたびに、遠慮なく飛ばしてやります。そしてゆくゆくは……
「キモいからキモイって言ってんだ! 何が悪い!」
パチンっ、とまた一つ。
「黙りなさい。あなたはそれでも国に仕え、女王を支えるエマニュエルサの貴族ですか? もちろん、子供であろうと貴族は貴族です。ならば、その立場をわきまえた言動をす――」
「子供じゃねぇ! 俺は十四だ!」
タメですか、そうですか。でも、
「そこはどうでもいいのです。十四だろうが四十だろうが貴族に生まれ貴族として生きるからにはその発言には気を配るべきです。こんな公の場で、しかも世界再建の礎となった女王国の建国記念祭の最中にそのような不徳不忠の発言をするとは言語どう――」
「ふんっ、不徳? 不忠? 俺が女装を蔑視することが? バカかお前。仮装文化なんかキモイんだよ! 男は男でしかねぇし、女は女でしかねぇ! 外面変えたって中身は変わんねぇ! 無骨な男が女装して出歩くなんて恥だ! 国に屈した馬鹿な奴らがやることだ!」
ふむ。人の発言を遮る無礼はさておき、再び発せられたキモイんだよ発言のときにもう一つボタンを飛ばしてやったんですが、彼のその意志は固いらしく、自説を止めることはしませんでした。これはこれで良い度胸です。
それにしても……どうやらこの若者、単純にキモイを連発する愚か者ではないみたいです。国を憂うがあまりにツンツンしている若輩貴族っぽいです。
ズボンからパンツまで切り刻み少年に羞恥を抱かせようかとも思いましたが、残念ながら前途ある若者が墓穴に入ったまま出てこれなくなっては女王国の損失。属国の貴族としてはそれは看過できません。
仕方ありません。わたしは剣を鞘に収めることにしました。
まったく、妙なことを妙なときに妙な場所で最悪の相手に吐くなんて……。面倒なお子様です。
わたしが剣を引いたことで眉をひそめていた美少年に、羞恥の代わりに溜息をくれてやります。
「あなたは間違ってはいませんが、間違っています」
「はぁ? どっちだ女男」
「……」
少し剣を引いたことを後悔しましたが、そこは怒りをぐっと我慢です。彼よりもわたしは大人なのですから。ね、わたし、ね?
「あなたが抱く国への憂いは間違ってはいませんが、やり方が間違っていると申し上げています」
「……別に俺は、憂いてるとか、そんなんじゃ」
「あなたもツンデレですか」
「あぁ? つん、なんだと?」
「いえ、――そこはどうでもいいです。そうではなく、女装した方々を声高に侮蔑したところで問題は解決しないということです。もちろん論舌することで一石を投じることはできるでしよう。波紋の連鎖が起きる可能性は捨てきれません。けれどことは女王陛下や国の歴史にも深く関わることです。そう簡単にはいきません。いくわけがないのです。――とは言え、だからといって、このような横暴に出てはなりません。国を動かす立場にある貴族が市民の前でそのようなことを口走れば紛争の火種をまくことにもなってしまいます。もし仮装を止めたいと思うのなら、もっと他のやり方を考えなさい。相手を非難しても不和が生まれるだけです。そしてなにより諦めないことです。諦めなければ聞く耳をもつ者は現れます」
あなた美少年だから余計に。とは癪なので言いませんでしたが。
美少年は随分と間抜けな面をしていましたが、呑気な彼は彼として、わたしは今そこそこ悩んでいます。割と大きな騒ぎになってしまいましたが、この場をどうおさめましょうか……。
「そうですね、……まぁ、わたし個人としても仮装制度はいかがなものかと思いますよ。――あぁ、とは言っても女装や男装自体を非難するわけではありません。文化ではなく制度化することが疑問だと言っているだけです。あなたの言う通り、装いを変えようと中身は変わりませんので、男でありたいと思う者が無理に女装したところでその不満は隠しきれません。迷いはどうしても滲み出ます。ようは心次第だと思うんです。そこに自分らしさがあるかどうか。らしくありたいと考えた末に女装する、男装する、というのはアリだとわたしは思います」
内面は見えにくいですからそこを着る服で表すとか、弱い内側を守るために着飾ることもあるでしょうしね。一概に女装がキモイだとか否定するのはどうかと思います。
「――とにかく、仮装文化の歴史はそこそこあるんでしょう? ならば先人に学び大切にすべきです。それでも今の風潮に合わないのなら少しづつ変えていけばいいのでは? ……わたしはシュヴァルが女装していようといまいとどちらでもかまいませんが、この美しさに惹かれたのも事実なので、できればそのままでいてほしいですね」
すぐ近くにシュヴァルさんがいることに気付いて手を差し伸べます。笑みを浮かべたシュヴァルさんがその手を取るのを待って引き寄せました。……どうすべきか分からなかったので結局バカップル路線で締めてしまいました。
でもうまくいったようです。ランタンと星空の灯の中で抱き合う二人に、観衆はうっとり。きっと映画のワンシーンでも見ている気分になっていることでしょう。ってこら美少年、さっさと去りなさい。あなたがしれっと帰れるようにわざわざ演出して差し上げたんですから。シュヴァルさんの腕の中で少しの流し目で視線を送り、しっしっと小さくジェスチャーすると察したらしい美少年はそっと人混みの中に消えました。
あとはわたしたちですね。――と、兄上はっ? これは誤解です、とある策略のバカップルでと説明せねばならないのですが――あれ? あれれ? 兄上がいない? ……こちらもまた人混みの中に消えてしまいました。残念すぎます。でも、こんな衆人観衆の中では感動の再会ハグをすることもできませんから……それに、この街にいる限りまた会えるのは確かです。わたしがこの国に――この街にいることを知らせることが出来ただけでも良しとしましょう。きっとあとで兄上から会いに来てくれるはずです。
――ということで、フィッシャーくん!
もしかしたらさっきのように頭の中で返事があるかもと思っていると、
『なんでしゅかー?』
お! きました、フィッシャーくん! わたしはここから去りたいのでさっきの忍者的跳躍力を再びお願いしてみました。いつまでも抱き合ったままでもいられませんからね! するとすぐに『おやしゅいごようでしゅー』との返事がありました。
「シュヴァル」
腕を引き、顔を寄せます。
周囲から歓声があがりますが、いえいえ、こんなところでしかもそんなみなさんのご期待に添えるようなことはいたしませんよ。そんなハレンチな。相手の同意もなくそんなそんな鬼畜じゃありませんからわたし。そうではなく、
「空の散歩と洒落込みましょう」
「――は?」
頬を寄せ合って囁いてから、シュヴァルさんの腰を抱いて飛び上がりました。人々のざわめきが直下に聞こえます。ふふ、驚いてる驚いてる。
――フィッシャーくん、このまま宙を歩けますか? 空を飛んだりとか?
『できましゅよー。でも隣のそれは殿下が手を放しゅと落ちましゅからねー』
それはそれとして、その緩いけれど怖い発言に、慌てるシュヴァルさんの腰と手をしっかりと掴むことにしました。そしてゆっくりと、水の中を進むようにゆっくりと足を動かします。
「ほら、シュヴァルさんも! 足を動かして、歩いてみてください」
「……空を歩くなんて、初めてで、」
「あはは、そりゃそうですよ。わたしも初めてです」
わたしの身体にぴったりと張り付き、わたわたしているシュヴァルさんが可愛く見えます。
二人してバランスを崩しつつゆっくりと前へ前へと進んでいきます。
しばらくすると、足元で輝く街の灯を眺める余裕もできて、空の散歩を少しずつ楽しむことができるようになりました。シュヴァルさんはまだまだ足元がおぼつかない様子ですし、お祭りデートはダメになってしまいましたが、星空の中をお散歩デートなんてなかなかロマンチックです。っていうか、素敵すぎます。
「それにしても、……よくこのようなことを思いつきますね。あの状況で空に飛び上がるなんて……」
「まぁ、成り行きですかね」
できるかな、と思ったらできちゃいましたって感じです。守護騎士ってすごいですねぇ。
「まぁ、あそこにあのままいても見世物になるだけでお祭りを楽しむこともできなかったでしょうし、あの騎士の方々もまくことができましたからね。――さて、このままシュヴァルさんのご自宅まで行きましょうか? もう少し上空を歩けば、人が歩いてるなんて事情を知らない人には分かりません」
そう言いながらシュヴァルさん諸共星空へ向かって上昇します。ちょっと息苦しいうえに少し寒いです。手が冷たくなっていきます。
「寒くありませんか?」
シュヴァルさんは飛ぶことに必死なのか答えがありません。でもわたしが寒いんだからきっと寒いだろうとシュヴァルさんの脇の下に腕を回して抱きしめます。うーん、ぬくぬく。でも背中と手が冷たい。
それでもシュヴァルさんがこの高さに慣れるまで背中をさすってあげました。
「やっぱり地面を歩きますか?」
「……いえ、きっと噂はもう広がってます。下では騒ぎになっているでしょうから今降りれば帰れなくなりそうです」
「あぁ、そういえばここ、異常なまでに情報伝達速度が速いですもんね」
「それもありますが、これまで天馬で空を飛ぶ王公族はいても、空を歩く者はいませんでしたから」
自分で空を飛ぼうと考えなかったんでしょうか?
せっかく飛べるのにもったいない。
「でも、まぁそれはそれで、ね。これでわたしとあなたの噂が広がれば、作戦成功に一歩近付きますし。二人きりになりたくて空に昇ったとかなんとか言えば、それらしいです。――さて、そろそろ移動しましょう」
わたしは未だに不安定そうなシュヴァルさんの前へ出て向き合い、両手を握り直しました。ほら、スケートで滑れない彼女を引っ張る彼氏みたいに。安心させるように笑みを向けて、それから眼下を眺めます。街の灯りが本当に綺麗です。あの中に兄上がいるかと思うとさらに輝かしく見えます。
女王国の首都エマは案内図にあったようにロールケーキのようで、今はランタンや家々の灯りでとても美しく輝いています。おそらく中央で一際明るいのが王宮で、その周囲にあるのが貴族たちの居住区でしょう。
「……それが、事実なら、どんなにいいでしょう」
「――ぇ?」
何か言いましたか? 聞き逃してしまいました。今何かシュヴァルさん言ってましたよね?
後ろ歩きで進むのをやめて首を傾げると笑みが返ってきました。ん?
「……キュイ」
「はい?」
「……いえ、呼んでみただけです」
「……? ――ぁあ!」
――無意味な名前の呼び合いですね?
ふふ、シュヴァルさんって熱心だなぁ。
ありがたいことなので、わたしも「シュヴァル」と無意味に呼んでみました。すぐに返事があったので、呼んでみただけです、と笑みを浮かべて返します。あぁ、カップルバカップル。ロマンチック度も最高潮に達しているので、ノリに乗ったわたしは、シュヴァルさんの頬に手を添えて、
「大好きです、シュヴァル。愛してます」
と、告げてみました。
あぁ、星空の中での告白。雰囲気もばっちりでいい予行練習になりました。是非兄上にしてみたいです。きっと兄上なら――、そう夢想していると、
「――へ?」
わたしの手をぐっと引いたシュヴァルさんの顔が近付いてきて、唇に柔らかいものがぶつかりました。――って、え?
それがなんなのかはよーく存じてます。いわるゆキスというやつです。
金麦では女性にファーストキスもセカンドキスも無理やり奪われていますからそれくらい分かります。けど、え、なんで、このタイミングでキス?
あまりに驚いたわたしはシュヴァルさんから手を離してしまいました。反射的です。これでシュヴァルさんがわたしに触れていたり、手を放すことに抵抗していたら問題なかったんでしょうけど、シュヴァルさんは何故かそんなことはせず、すんなりと手を離してしまい――
「――ちょっ!」
フワッと髪とスカートを乱しながら落ちていきました。
あっという間で、シュヴァルさんがわたしに手を伸ばすこともなかっため、わたしの伸ばした手は虚しく宙を掴むのみで。
「――待って、し、死にます! 落ちたら死にますからっ!」
慌てて急降下したわたしは、シュヴァルさんの落下を食い止めるべくなんとか抱きとめることができました。もうっ、かなり胸がドキドキしてます。ホントびびりました!
「どうしたんですか、急に!」
「……申し訳ありません。少々図に乗ってしまったようです」
俯いていて表情が見えませんが、苦渋の声、といったところでしょうか。でも、それ落下したことじゃないですよね? ということは、
「あぁ、もしかしてさっきのキスのことですか? 確かに驚きましたけど、でも、わたしも悪ノリしましたから。お互い様というか……逆に空気を察してのキスだったんですよね? 付き合ってるんですから、キスはしなくちゃいけませんよね。認識が甘くて驚いて手を放してしまったのはわたしの落ち度です。シュヴァルさんこそ嫌じゃなかったですか?」
付き合ってることを証明する最終手段ですよね、キスって。できれば寸止めくらいで済ましたいところですけど、疑われないためにはそこまで必要でしょうね。寸止めのキスなんて引きの場面なら分からないかもしれませんけど、近くからだと角度によってはバレバレです。だからわたしはまぁいいんです。気持ちの整理さえ付けてしまえば唇の一つや二つ減るもんじゃないですし。ですが、シュヴァルさん、まさかそれを苦にしてわたしから離れたんですか? 落下の道を? やっちまったあとでヤバいやりすぎたって? なんて真面目なんでしょうか。
――あぁ、というか……、
「シュヴァルさんって二十三歳ですよね? 今更ですけど、十四のわたしを恋愛対象にしてしまって問題ないんでしょうか? わたしもあと一年で成人扱いで結婚もできる歳ではありますけど……、」
九歳差って微妙なところですね。でも、九歳の小学生と十八の高校生のカップル……と、考えると……あぁ、これ、ロリコンとか疑われたら可哀想です。
「それは……問題ありません。あと十年もすればお互いに三十代と二十代、長い目で見ればその年の差は大きくはありませんので」
あ、そうか。そうですね。確かにその通りです。年の差婚なんて向こうでもザラです。二十、三十歳差もあるくらいですからね。大人になれば問題ないですね、うん。――って、いや、現時点でわたし一応十四なんですが?
「わたしがあなたに手を出していないことにすればいいのです」
手を出すって、
「……それって、」
「あなたが成人するまで――いえ、身体が成熟するまで待っている、と。とても大切にしていて、時々口付けることはあっても、それ以上はしていないと、そうしておけば周囲はさらにわたしたちに興味をもつでしょう」
「なるほど……」
いや、なにがなるほどなのかよく分かってはいないんですけどね? でもアレですよね? 障害がある方が恋は萌える――いや燃えるっ、みたいな? 愛し合ってはいますけど、良識をもって清い関係でいますアピールもすれば、よりみなさんにインパクトを与えることができるし、シュヴァルさんもロリコン認定されずにすむ、というこですよね?
「キュイ」
「はい?」
シュヴァルさんを膝と腕に抱きかかえたまま思考にふけっていると、顔を上げたシュヴァルさんの手が伸びてきました。
「美しいです」
「……」
あれ、これどう答えたらいいんでしょうか?
そんな真顔で言われたら返答に困るんですが。唐突すぎますよ! ……ええと、これ練習のいっかんですよね? なら普通にお礼を言えばいいんでしょうか? それとも照れるべき? 二人きりだと対応に迷いが……。
悩んでいると、伸びてきた手が、その指が天をさしました。ん、天? それを目で追えばそこにあったのは綺麗な満月。
「……空の散歩というのは、素晴らしいものですね。また、連れてきてくださいますか?」
「え、あぁ、もちろんです」
どうやら満月に見惚れての発言だったようです。確かに綺麗な満月ですもんね。うん。あー、驚いた。
「もうすぐわたしの住む住宅街の真上です。灯がない方角に進んで下りましょう。ベランダもありますが、内鍵が閉まっていますので裏口から」
柔らかな雰囲気に戻ったシュヴァルさんにホッとします。歩いてもらおうかとも思いましたが、また落下されては困るので抱き上げたまま言われるがままに行動し、中心街にあるシュヴァルさんの家に無事到着。
ご立派な集合住宅の玄関をくぐり、シュヴァルさんのご自宅へ。
ふむ、2LDKといったところですね。トイレと風呂が別です。さすが女王国の貴族邸。集合住宅といえど下水が完備されています。
お風呂を借り、フィッシャー君を脅しつけてまともな寝間着を出してもらい、――ようやくカボチャパンツから解放されたわたしは、シュヴァルさんと共にベッドの中に入るとすぐに眠気に襲われました。
寝入る少し前――意識がうつろになってきたわたしは、このときちょっとしか引っかかりを感じていたのですが……、眠気に勝つことできずにそれが何なのか探り出すことを放棄したのでした。
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