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転生乙女は頑張っています。  作者: にーやん
頑張る転生乙女 in 女王国
20/29

棚ボタ応援隊、ゲットだぜっ?

▽



 こんにちは、キュイです。


 煌めく星空、輝くランタン。

 露店から漂う芳しい芳香、心に響く楽しげな音楽。

 世界の中心に暮らす人々は建国の母を敬い、平和に感謝し、幸福な将来を夢見ています。

 

 女王国エマニュエルサの建国記念祭は建国記念日の半月前から始まり、徐々にそのボルテージを上げていく――らしいのですが、わたし、キュイ・ピナスの周りではこれ以上ないくらい完全なるお祭り騒ぎとなっております。


 どういうわけか、


「キュイジーヌ公爵様に!」


「キュイ公爵殿下にっ!」


「カンパーイ!」


 笑顔とジョッキとを向けられているのです。


「キュイ公爵!」


「キュイ公爵様ぁぁあああ!」


「キュイジーヌ様ぁぁああ、カン、パーイ!」


 ……あの、何故でしょうか? このキュイコールは。乾杯は。

 わたしとシュヴァルさんが一階へと降りていくと、メイシャさんの乱入で破壊された居酒屋のみなさんも掃除をそこそこに出来上がっていました。それも、出入り口が破壊された居酒屋にかなりの人が集まっています。まぁ、ここの料理は最高でしたし、今日はお祭りの初日らしいですからそれはいいと思います。瓦礫の上で飲む酒が乙に感じる人も中にはいるでしょうから。けれど、そんな出来上がった人たちが何故か、階段を降りてきたわたしたちの姿を見つけた瞬間、次々と歓声をあげ、さらには乾杯し始めたのです。


「キュイ公爵殿下の心を射止めたシュヴァル子爵にっ!」


「シュヴァル子爵様にっ!」


 カンパーイ! ――はいいとして、どういうことでしょうか? わたしとシュヴァルさんに乾杯? 訳が分からずにシュヴァルさんに問う視線を送ると、


「どうやら殿下は民意を得たようですね」


 笑みを浮かべていました。

 それにさえクエスチョンマークを浮かべていると、あれよあれよと酔っ払いたちの間に連れ込まれ、ジョッキを渡されます。そして訳が分からないまま一緒にカンパーイ!


 ――って、いや、だからなんの乾杯ですかこれはっ?


 戸惑っていると傍にいた見知らぬ若者が笑顔で、


「聞きましたよ公爵様! 公爵様、守護騎士様の力で俺の兄貴や怪我人を治してくれたんですってっ? 本っ当にありがとうございますっ! あなたみたいな人が俺たちの公爵様になってくれて、俺すげー嬉しいです!」


 お酒のせいか興奮して顔は真っ赤、瞳もキラキラと輝き――今にも抱きついてきそうな勢いです。

 どうやらあの修羅場にいた人の家族のようで、感謝されているようなのでとりあえず笑顔を見せると「こ、公爵様! 俺、一生あんたについて行きます!」と本当に抱きついてきたので、シュヴァルさんが盾になってくれました。

 すると今度は逆方向から、


「公爵様! あんたは最高だ! あのメイシャお嬢様の癇癪も懐深くお許しになられたって言うじゃねぇか! しかもカミューリア姫に女装王族にはならねぇと宣言したその肝っ玉! おりゃ感動したぜっ!」


「あぁまったくだ! あのカミューリア姫に堂々と向かい合って拒絶した理由ってのが、そこのシュヴァル子爵のためとはっ、かぁぁぁ! 泣けるねぇ! 愛だねぇ! 俺たちはあんたらを応援するぜ!」


 ……。よく、分かりませんが、なんとなく状況は把握しました。

 つまりこの方々はメイシャさんとカミューリアさんへのわたしの態度に好感を抱いてくれた、ということですよね? カミューリアさんとの会話は居酒屋のおじさんしか知らないはずなので彼が大袈裟に――尾ひれ背びれ胸びれを付けて伝えたようですが。

 だってわたし、女装王族になりませんなんて宣言してないですから。対応してくれたの全部シュヴァルさんですし。


 ――んー、でもまぁ、とにかく、公爵でいることを応援してくれると、そういうことですよね? 棚ぼた応援隊ゲットだぜってことですよね?


 わたしを抱き込むように背後にいるシュヴァルさんを見上げると、耳元に近寄ってきた唇から「良かったですね」との囁きと蕩けた微笑みがふってきました。


 ――いい! その微笑みプライスレス!


 まるで自分のことのように――そんな笑みを浮かべて喜んでくれるなんて!


 思わぬところで味方ができてしまいました。これは喜ばずにはいられませんっ。頬が、頬が緩んでしまいますっ、あぁ、これで平穏無事な帰国に一歩近付いたんですね!

 わたしも少しうるっときてしまいそうです。


「ヒューヒュー!」


「熱いねご両人!」


「シュヴァル様が微笑まれたわ! わたし、初めて見ちゃった!」


「いやーん、美男美女すぎるぅ!」


「キュイ公爵様かーわーいーいぃ!」


「お幸せにっ、お幸せに二人とも!」


 まるで結婚式のようです。口笛があちらこちらから鳴り、楽団が音楽を奏で、踊り出す人まで現れました。我らが公爵殿下に! と、繰り返される乾杯の音頭はとどまるところを知らず広がっていきます。


 渦中のわたしたちはといえば出来れば早々に退散したいのですが、それを許してはもらえず、未だ居酒屋の中。……だんだんこの人たちは騒ぐ理由が欲しいだけなんじゃないかと思えてきました。


 そんな時です。


「キュイジーヌ殿下はこちらかっ!」


 歓声や乾杯、音楽をものともせずに野太い声が居酒屋を覆い尽くしました。なんという大声でしょうか。一斉に、全員が声の主の方へと振り向き、目を向けました。そして、


「――ゔ、」


 それがいったい誰の呻き声だったのか……。少なくともわたしも少しだけ呻きました。すみません、ですがっ、これはあんまりですっ!


 現れたのは無骨な男性でした。が、女王国でいうところのおそらく子爵位に当たる方だとお見受けします。なにせ、黒々とした太い眉に毛むくじゃらの太い腕、背は高く筋肉隆々――そのくせドレスにしか見えないフリルや花飾りをつけた服を着た男――いや女――でもやっぱり男――いやいやここはやっぱり女性たちがそこに立っていたのです。腰には剣を差していますし、まさかの騎士でしょうか? じょ、女装騎士っ?


 彼らのためにまるでモーセの海割神話のように民衆が道を開けます。けれどそれでも頑として動かない人が一人。シュヴァルさんです。わたしを背に庇う姿はまるで乙女を守る騎士然としています。……ん? ということは、乙女はわたしですか? いやダメダメ! わたしは美少年! 見た目美女の背中に隠れるなんて男装乙女のプライドが許しません!


「何か御用でしょうか?」


 わたしはシュヴァルさんを軽く制して前に進みでます。この筋肉隆々の――女性、が用があるのはこのわたしのはずです! そうでしょう? 筋肉よ!


「あなたがキュイジーヌ殿下でしょうか?」


「そうですが?」


 筋肉が揺れるほどの敬礼をした筋肉たちが、無表情に告げます。


「では、殿下、フェルディオン殿下がお呼びでございます。是非夏ノ宮までお越しいただきたく」


 フェルディオン? 誰ですそれ?

 問いかけようとすると、背後からシュヴァルさんが一歩前へでます。横に並んだ彼はわたしの腰を掴み、引き寄せ、


「そのご要望にはお応えしかねます。殿下にも予定というものがあります。突然の申し出をのめるはずもないでしょう」


 そうだそうだ正論だ!

 また追い帰してくださいシュヴァルさ――シュヴァル! おっと忘れてました。


「自分はただ、殿下をお連れするよう指示をうけたにすぎません。お連れするまで殿下のお傍を離れるなとも申しつけられておりますので、今すぐお越し願えない場合はこちらがお二人に同行いたします」


 なんですとっ?! 同行っ?!

 それはまずいです、まずいですよっ、わたしたちはこれから初デートで、バカップルの真髄について語り合う予定なのに!


「キュイジーヌ殿下は先祖返り、良からぬ者が手を出すやもしれません。これは我がフェルディオン殿下のお心遣いです。剣を持たぬか弱い女装子爵だけでは心許ないだろうという」


 瞬間、無表情だった顔にいたずらっ子のような笑みが見えました。どうやらそれはシュヴァルさ――、に向けられたもののようですが、わたし、ばっちり見ました。シュヴァルさ――あぁもうシュヴァルさんでいいやっ! とにかくシュヴァルさんの顔も鋭い中にも知古への恨みがこもっていそうな視線を向けていますし、間違いなく二人は知り合いです。

 そして周りはこのやり取りを息を詰めて見ています。この緊張感の中、手に汗握ってるようです。ここを打開できるのは誰か……わたししかいないでしょうね。

 この表情から察するに二人はいわゆる悪友。一歩も引かんぞこんにゃろう、と意地になっていそうです。

 ということは、やはりわたしが動かねば。とは言え、そうですねぇ、どうしましょうか……。


「どうなさいますか、キュイ殿下?」


 とりあえず、矛先がこちらに向いたので直接疑問を尋ねることにしました。


「フェルディオン殿下とはどなたでしょうか?」


 相手のこと知らないまま断るわけにもいきませんよね。


「女装王族にございます。キュイジーヌ殿下の噂をお聞きになりお会いしたいとのことです」


 噂が広がるの早いですねー。しかも相手は女装王族ですか。シュヴァルさんの態度からして断ることもできそうですが、その場合、この人がデートについて来る、と。

 どっちも嫌ですが、どちらか一つ選ばなければならないのなら、


「……ダブルデートにしますか」


「は?」


「いえ、なんでもありません。それより、わたしたちは今からお祭りを楽しもうかと思っていたんです。どうせついて来られるのならご一緒にいかがですか?」


 ヒーフーミーヨー、五人いますからこれだとダブルデートではなくハーレムデートになりますが、後ろからゾロゾロ尾行されるより堂々と周囲を歩かれた方がマシです。


「……それでは、フェルディオン殿下のもとにはお越しくださらないということですか?」


「今は遠慮させていただきます。いくら招待されたからといって、こんな夜分に女性のお宅を訪ねるのはご迷惑でしょう?」


 目がめいっぱい見開きましたね。

 ふふ、相手が女性――女装王族だとしても――あくまで女性であるとこちらで認識されているのなら、そこそこ扱いには慣れているのですよわたしは。バカップルの経験はありませんが、あしらう、断る、逃げる算段なら割と考えつくのです。まぁこの理由だと明日伺いますーみたいな展開になりそうですが、そのときはまた別の断り文句を考えます。


「それに、フェルディオン姫の部屋に一人招かれるよりも、あなたが同行する方がシュヴァルのヤキモチも少しはマシでしょうからね。わたしとしては花に囲まれながらお祭りを楽しめるなんて願ってもないことです」


 どんな用事か知りませんが、フェルディオンさん、どうやらわたしだけを呼んでるみたいですもんね。シュヴァルさんが付いてきても、ここから先はお一人でとか言われそうです。今一人にされちゃ堪りませんから筋肉女装騎士たちとご一緒した方がまだ気楽ってなもんですよ。

 だって冷静に考えてみたら、部屋の中まで入り込んでくることなんてたぶんないじゃないですか。ということはです、お祭りの間だけその手の話を我慢して今できるバカップルっぽさを存分にさらけ出していけばいいわけです。元々千里の道を一歩から進むつもりでしたからね、実地練習、習うより慣れろの精神は変わらずなのです。


「いいですよね、シュヴァル? ……それとも、二人きりじゃないとダメかな?」


 シュヴァルさんに向き合ってその手を取り、その手の甲に口付けます。

 ふふふ、コレ、騎士っぽいでしょー? 王宮ホスト業で身に付けました。元ネタはわたしの愛読書である『騎士的乙女の口説き方』という本なのですが、髪に触れる、手の甲にキスする、という軽いタッチは鉄板だそうです。同じ作者で『騎士的乙女とのお付き合い方』なる続編もあるんですが、残念ながらそれは未読でして……。いやー惜しいことをしました、読んでおけばよりスマートな騎士デートが出来たかもしれないのに。だってまさか仮にも女性と、――偽りでも本物っぽくお付き合いすることになろうとは思いもしませんでしたからね。とりあえずいざというときの逃走レベルさえ上げておけばなんとかなると思っていたわたしが甘かったんです。何事も備えあれば憂いなし。まさかを想定して備えることが保険であり危機管理能力というものですよね。気をつけます。


 さて、口付けて見上げれば、周囲からは溜息とも歓声ともつかない静かなざわめきが聞こえてきましたが、なによりわたしが関心を寄せたのはシュヴァルさんのその演技力です。


「……キュイ、殿下がそれでよければ、私は構いませんが」


 も、本当にシュヴァルさんったら演技派! 頬を染める演出グッジョブです!

 美人度がさらに上昇してますよ。いいねいいね! 女性度マックス! 乙女度限界突破! 少し照れた表情の中から飛び出す喜びが万人の心をくすぐりますっ。


「――というわけですから、ご一緒しましょう」


 そして筋肉女装騎士たちに向き直ると、――戸惑ってる戸惑ってる! 視線が泳いでます。どうするよ、こんな展開予想してなかったよマジパネェ! そんな会話が視線で交わされてますね? 分かります、分かりますよー、ふふん。でもでもー、まだまだいきます。


「ではまず、お嬢様方のお名前をお伺いしても?」


 自他共に認める天使的微笑みを浮かべてさらに問いかけると、筋肉女装騎士たちの動揺がさらに激しくなります。ふふ、うふふっ、そうでしょうそうでしょう、そんな中途半端な女装じゃ誰も女扱いしてくれないでしょう? メイシャさん同様に――いえ、その堂々とした空気から決意は固いのだと感じることはできますが、それでも装いに女として生きることに迷いがでています。否、女とはどうあるべきかを戸惑っているのかもしれません。


 ――っふ、ならば、この不肖金麦の男装伯爵子息――兼、女王国の男装公爵であるキュイ・ピナスがその迷いを晴らすお手伝いをいたしましょう。今宵はわたしがとことんみなさんを女性扱いして差し上げます!





 ――と、こうして、うふふ、あははのハーレムデートが開催されたわけですが、まぁアレですね、注目の的ってやつですね。わたしのことを知っているのか「キュイ殿だ」「キュイジーヌ公爵だ」ざわざわ、ヒソヒソ、「可愛い」「素敵」そんな声が聞こえてきますが、それと共に――


「キュイジーヌ公爵は女装専門なんだろうか?」


「……俺も女装しようかな」


「シュヴァル子爵ほどは無理でもあの女装騎士団よりはマシかも……」


 なんて声もちらほら。

 女装騎士団……まさかそれ正式名称でしょうか? というか、誰が女装専門ですかっ!


「でも、あれはないわー」


「よく表歩けるよなー、同じ男としては信じらんねぇや」


「どんびくぅ」


 ……って、ないわーコレ。正直驚きました。月の魔力で脳みそ通らずに口から言葉が飛び出しているにしてもありえなさすぎです。

 ニコニコと笑みを浮かべたまま、シュヴァルさんと手を繋ぎつつ、背後に筋肉女装騎士団を伴ってお祭り街道の散策をしていましたが、女装子爵たちの評判の悪さにこっちこそドンビキです。侮蔑的な発言も聞こえます。――が、ちょっと待って下さいよそこの人たち。あの、この人たちは騎士団ですよ? 装いが斬新ではありますが、騎士は爵位をもっていなければなれませんから、地位も階級も一般人よりは当然上で、敬われてしかるべき存在のはずですよ? それなのに、――有事の際には真っ先に死地に赴く彼らに対してコソッととははいえ不敬の言葉を吐くなんてどういう神経なさってるんですか?


 あの、これ、金麦ではありえません。っていうか、そんな暴言を吐く人がいたら割と即行で処罰対象です。

 あ、いやもちろん、騎士の言動の全てを尊ぶべきとは言いません。騎士イコール人格者ではありませんからね。ですが、彼らは騎士という縛りの中で生きていて、責任ある立場にあるんです。そんな彼らが女装している、もしくはしなければならない状況に置かれているのに、それを、ないわーなんてないわー、ですよ。


 この世界の平和や均衡が保たれているのは騎士団の存在も大きいと言われているのに、女王国の貴族は世界再建の母の子孫のはずなのに、女王国建国祭で陰口なんて……別に言ってもいいけど陰口は端っこで言いなさいって感じです。だって、そんな大声で言ってたら普通にみなさんに聞こえ――


「――気持ち悪りぃんだよっ! 女装野郎は消えなっ!」


 聞こえるっちゅうねん!


 ぷち。


 あは、聞こえましたか? わたしは聞こえました。

 それは見ず知らずの女装令嬢へ向けられたもののようでしたが、そんなの関係ありません。


 ――陰口は陰で、墓穴を掘って呟くがいいですっ!


 わたしは、シュヴァルさんの手を放し、胸糞悪くなる台詞が聞こえた方へ突っ走りました。片手はガッキーの柄に添え、あぁ、暴言犯のもとに一足跳びできればいいのにとちょっと考えると、


『ご助力いたしましゅ!』


 ――そんな声と共に、なんというか摩訶不思議パワーがさく裂しました。いや、さく裂というほどではないかもしれませんが、自分ではありえないほどの跳躍力を発揮して宙を舞い、四回転半という無意味な回転をして華麗に着地するという大技を見せてしまったのです。体操選手や猿も真っ青でしょう。

 アクロバティックマジシャンか忍者になれそうです。しかも身体が軽い軽い。空を飛んでハイになった脳みそ内では――おぉ、これが守護騎士の力かっ! 力が、力がみなぎってくる! オォォオ! と興奮の坩堝が誕生しました――が、それはそれでいいとして、


「ご令嬢方を侮辱する者よ、恥を知るがいい」


 キメ台詞を吐き、ゆっくりと視線を上げ、目の前の相手を睨みつけました。

 ――が、しくじりました。半回転入れたことで、目の前にいたのは侮辱の言葉を浴びせられたと思われる女装令嬢で、しかも、


「――ぇ、ぁ、あにうえ?」


 思わず漏れた小さな呟き。


 そう、それはつい先ほどお見かけした我が兄、ハーネス・ピナスだったのです。




△

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