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転生乙女は頑張っています。  作者: にーやん
頑張る転生乙女 in 女王国
19/29

我にバカップルの定義を教えたまえ!


 やぁ、みんな、試練に立ち向かう覚悟を決めたキュイ・ピナスだよ。

 わたしはこれより、完璧なまでの美少年になろうと思っているんだ。目指すは女性も男性も惚れるような素敵無敵で可憐なアイドル。

 歌もダンスも微妙なわたしだけど、スマイルには自信があるから、ライブを開くときはどうぞよろしく! キラン☆



 ――と、そんな意気揚々と高揚しまくった心を伴って扉へと向かっていたわたしの腕を掴む人がいました。もちろんシュヴァルさんです。ちょっと、空気読んでくださいよ!


「今からですか?」


「今からです」


 何か問題が?

 こーゆうのは勢いですよ? ガーといってダーといってポン。そんな感じで終わらせましょうよ。


「今から行っても女王陛下に謁見することはできません。もう夜です」


「……ぇ?」


 告げられて窓の外を見ると、人工的な灯りが輝いています。確かに夜です。シュヴァルさんの言葉通り王宮に出向くには非常識な時間です。しかも女王陛下に会うことなどできるはずもありません。

 いくら気が急いているとはいえ、なんてことでしょう! ケーワイなのはわたしではないですか!

 相手が誰であろうと礼儀はわきまえなくてはなりません。特に王宮は夜分遅くに失礼しますでまかり通る場所ではありませんし礼儀のないアイドルはほされます。半人前とはいえ、我儘が許される歳でもありません。


 ――クッ、落ち着きないさい、キュイよ。

 善は急げとはいいますが、急がば回れ、急いてはことを仕損じる、とも言うじゃありませんか。先人の言葉通り、ここは一晩ゆっくりと休み、存分に英気を養ってから戦いに挑むべきす。


 ふぅーと、息を吐いたことで諦めたことが伝わったのか、シュヴァルさんの手が離れていきました。彼――いえ、彼女には助けられっぱなしです。


「ありがとうございます、シュヴァルさん」


 そのうち頭が上がらない状態になりそうです。本当に迷惑かけ通しで痛み入ります。


「いえ、……ですが、このままここで過ごすわけにもいきません。ここは殿下が泊まるような場所ではありませんので、場所を移動しましょう」


 ぇ、移動ですか? わたしはここでもかまいませんが? ――あぁ、打ち合わせの必要があるんでしたね。


 今のところ、――わたしがシュヴァルさんから離れたくなくて追ってきて、それで火がついたシュヴァルさんによってこの国まで浚われてやってきた――といういかにもなバカップル設定が出来上がっていますが、他にも細かなことを決めておかなければなりませんよね。確かに、それをこの薄壁の飲み屋の二階で行うわけにもいかないでしょう。今は騒がしくしていますからあれですが、寝静まる夜になれば話し合いに集中できないでしょうし。


「ですが、どちらに?」


 きちんとした宿屋を探すつもりでしょうか? ですがそれだと状況はあまり変わらない気がします。それともこの国の宿屋は密会に適した三ツ星ホテル並みなんでしょうか?


「……キュイ殿下がよろしければ、私の家にお越し下さい。ここよりは幾分マシかと思いますので」


 あぁ、そうでした。シュヴァルさんは女王国の出身でしたね。


「ご実家でしょうか?」


 それだともしかしたら大公閣下に会うことに? お父上が大公様でしたよね?


「いえ、私は実家を出て一人暮らしをしています。貴族専用の集合住宅の一室ですが、貴族専用だけあって安全は保障できますし、そこはお互いに干渉を嫌う者達が暮らす場所なので下世話な輩はいません。……もちろん、王宮に赴けば部屋を用意してくれるとは思いますが、まずは対策を練ってからの方がよろしいかと。新たな――しかも先祖返りの公爵となると、周囲の目を引きますので」


 ……ですよね。王宮にいけば部屋の一つや二つ確保できそうですが、王宮にはあのカミューリアさんや他の女装王族、さらにはスキャンダル好きな貴族なんかもいるかもしれません。大公閣下に会うのも今の段階では心許ない気がします。今までは勢いだけで乗り切ることができましたが、これから先はそうは問屋が卸さないでしょうし。


「ですが、ご迷惑ではありませんか? わたしを部屋にあげてしまって」


「迷惑なら提案はしません。それに、……お忘れですか? 我々は付き合っているんです。国境を超えるほどに愛し合っている相手を部屋に呼ばずに安宿に泊めては、その信ぴょう性を疑われてしまいます」


 ほのかに笑みを浮かべたシュヴァルさんを前に、わたしは額に手をつきました。

 ――オーノー! ジーザス!


「……そうでした、ただのアイドルではダメ。……恋するアイドルでなければ……」


「は?」


「いえ、独り言です。気にしないでください。――そんなことより、全てあなたのおっしゃる通りです」


 あぁ、コンチクショウ!

 わたしは今、猛烈に叫びたい衝動に駆られています。


 まったく、わたしは今日、いったい何度この類の言葉を使ったでしょうか。そうですね、そうですよ、ですよね、確かに、その通り……。繰り返されるその言葉に反吐を吐きかけたい気分です。――あぁ、なんて至らないんでしょうか、わたしは! 頭では分かっているんです。わたしたちはバカップル。盲目の恋に浸る運命の恋人たち。そう頭では理解しているのに行動が伴わない。それはなぜか、なぜなのか、――えぇ、分かっています。その原因くらい!


 そして、そして、そのことを共犯者――いえ、協力者であるシュヴァルさんには伝えておくべきなのですっ。


「シュヴァルさん」


「はい」


「わたしは、……わたしは、……恥を忍んでお話しますが、わたしは、」


 額にあてていた手を離し、それをぎゅっと握りこみます。恥ずかしがっている場合ではありません。これはわたしの未来の行く末を――いえ、ピナス家とオルヴィナス領の民の行く末をも決める大芝居なのです。躊躇っている場合ではありません!


 深く深呼吸をしたわたしは、真っ直ぐにシュヴァルさんを見上げました。

 勇気を出しなさい、キュイ、言うは一時の恥、言わぬは末代までの恥!


「わたしは、……わたしは、男性とお付き合いした経験がありません」


「……」


 ふふ、言ってしまいました。耳年増なだけで経験値はゼロだと。


 一体何事かと身構えていたらしいシュヴァルさんが瞬きを繰り返します。きっと言葉の意味を把握するのに時間がかかっているんでしょう。それはもう当然ですよね。この年で恋人いない歴年齢なんて……。きっと信じられない気持でしょう。


 ですが事実です。

 悲しくも恥ずかしい事実なんです。


「……ですから、恥ずかしながら、普段どういった行動をすれば付き合っていることになるのかが分かりません。――もちろん、多少なりと知識はあります。けれどそれも、手をつなぐとか、デートをするとか、抱きしめ合うとか、一緒に寝るとか、そういった漠然とした知識でしかなく……」


 これが付き合い始めたばかりの初々しさを表現するなら問題ありません。素でやれる自信があります。けれど表現したいのは国境を超えるほどのバカップルです。いったいそんなバカップルの頭の中はどうなっているんでしょうか? 謎です。本当に謎です。


「このままでは……不安で……、ですから、色々とご教授願いたく」


 縋りつく思いで告白したわたしに、シュヴァルさんは溜息をつきました。前途多難だと思われたに違いありません。落ち込みます。


 でも! どんなに呆れられようとわたしはくじけませんから!

 いくら美少年度を上げたところで、バカップル度が低ければこの計画は達成できません。わたしはこの計画に全てを賭けているんです!

 ですから是非教えてください。バカップルになる方法を! 誰もが認めるバカップルの真髄を!


「殿下」


「はい」


 どんな試練でもござれ!

 とシュヴァルさんと向き合いました。


「……殿下は今おいくつですか?」


「――四十……ではなく、十四です」


 危ない危ない。精神年齢を暴露するところでした。まぁ、おおよそではありますが。しかし、年齢が何か? 年代別でバカップルの行動に差が出るのでしょうか?


 と、身構えましたが、どうやらわたしは勘違いをしていたようです。


「その年頃で男性と付き合った経験がないのは普通だと思いますよ。しかも、あなたはこれまで男性として生きてこられたのですから。あればあなたは同性愛者ということになります」


「……ぁ、」


 そ、そうでした。そうですよ。そうですよね。そうでしたよ! どうやらわたし、まだ混乱の極みに片足を突っ込んでいるようです。

 わたしは男、美少年。前世の記憶を引きずっていたとしても、ここにいるのは、これから演じるのは女装した男性を愛している十四歳の美少年。


 ――あぁ、ですが、やはり、


「……それはそうかもしれませんが、相手が女性であれ男性であれ、経験がないのは事実です。衆人観衆の前であなたにどう接すればそこに愛があるかのように見せることができるのか、分からないものは分からないんです」


 分からないことを認めるのは屈辱です。ですが失敗は許されません。バカップルとは何なのか、いったいどういう二人をバカップルと呼ぶのか――脳裏にあるのは、名前を愛情たっぷりに無意味に連呼しあったり、額をこずきあったり、浜辺でおいかけっこしたり、アーンと食べさせあったり、そんな恥ずかしいことしか思いつかないんです。でもこれは前世の記憶から得た――主にドラマや漫画という非現実社会の知識であって、ここでは通用しないかもしれません。こちらの世界のバカップルはそんなことしないかもしれません。


 ――とか考えていると、もうなんだかバカップル演じる気力がそがれていきます。ど、ど、どどどどうすればいいですかっ?


 拳を握り、俯いていたわたしの視界に、手の平が差し伸べられました。

 その白い指を見つめて、少しだけ顔をあげると、そこには優しく微笑むシュヴァルさんが……。


「あなただけではありません」


 ぇ?


「私も男性と付き合った経験はありません」


 ――って、そんなっ!

 頼みの綱であるシュヴァルさんが、まさかのっ?! なんてことでしょうっ! 大人の優しさで巧みにリードしてくれるんじゃないんですかっ? 男男の機微というかそのへん熟知してるんじゃないですかっ?


「ですから一緒に考えましょう」


「そんな悠長なことでは、」


「ですが、こればかりは仕方がありません」


 それはそうかもしれませんが、もっと的確なアドバイスはないんですか? 明日には乗り込もうとしているのに、バカップルの真髄が見いだせないままでは確実に愛の疑惑が巻き起こってしまいます!


「……とりあえず、手を握ってもよろしいですか?」


 不服丸出しのわたしの胸中が伝わったようです。シュヴァルさんは手を引っ込めることなく、さらに前に差し出してきました。手を握るって、不可抗力とはいえ抱き合った中なのに今更そんなこと……!


「キュイ殿下、――難しく考える必要はありません」


 難しく考えるなっ? どうしてあなたはそんな余裕なんですかっ? やはり当事者ではないからですかっ? しょせんは他人事ですかっ!

 憤り爆発寸前のわたしはその場から立ち去ろうとしました。こいつ役に立たない判定を頭が勝手に下して足に命じたかのようでした。けれど、また腕を掴まれます。


「殿下の考える恋人像を私に教えてください。そしてそれを二人で実行しましょう。そうすれば自ずと答えがでるはずです」


 優しく諭され、ちょっとボルテージが下がります。軽いなわたし!


「……そう、でしょうか?」


「えぇ、かならず」


「ですが時間が、」


 あぁ、シュヴァルさんのその自信はどこから来るんでしょうか? やっぱり他人事だからですか? 恋人像を実行していくなんて悠長なことをしても結果には結びつきませんよ! 試験は明日ですよ? 一夜漬けでもって習得しなければ……!


「殿下、焦らないでください。すぐさま王宮に足を運ばなければならないわけではないのです。女王陛下への謁見はいつかはしなければなりませんが、それは殿下が国にお帰りになる前に行えばいいだけです」


「――! そうなんですかっ?」


 それ、初耳です。本当ですかっ?


「えぇ。この国を――そうですね、街を出なければ、陛下からの呼び出しがあることはないでしょう。もちろんカミューリア殿下や噂をききつけた貴族たちが現れるでしょうが、あなたは仮とはいえ公爵位です。無理強いはできません」


 ということは、まだ時間の猶予があるということ……例えカミューリアさんや貴族たちが現れても街の中にいる限り、愛を見せつける自信がなければ逃げ出しても構わないと、そういうことですね?


 安堵したわたしは、ふらっとベッドに腰をおろしました。背中に嫌な汗をかいてしまいました。

 でも、良かった。出会ったばかりの人とほぼ即興でバカップルを演じるなんて土台無理な話なんですよ。あー、本当に良かった!


「――殿下は、何か用事があって女王国にこられたのでしょう? ならばその用事を先に終わらせてもかまいません。その合間に少しずつ恋人同士になればいいんです」


 隣に座ったシュヴァルさんの優しい言葉にわたしは笑みを浮かべました。

 ……そう……ですね。時間があるのなら、千里の道も一歩からといいますし。


「手を握り、デートをし、抱き合い、一緒のベッドで眠る。他には? あなたの理想とする恋人同士はいったい何をしていますか?」


 別に理想としているわけではないのですが。バカップルに憧れを抱いたことは一度もありませんから。それでも、もう一度よく考えてみます。


「…………、やたらとベタベタしている印象があります。移動するときは必ず手を握ったり、ご飯を食べさせあったり」


 アーンって。これはちょっとやってみたいです。食べさせるフリしてあーげないみたいなやつ。楽しそうです。


「……やりすぎですか?」


「いえ、とてもいい案だと思います。お互いと離れたくない、という気持ちがとても表に出ていますから」


 この世界でのバカップル基準が分からないので恐々と提案してみましたが、アリのようです。


「他には何かありますか?」


「……名前を呼び合ったりは、するのではないですか? こう、無意味に、というか、呼んでみただけ、みたいな……、ないですか?」


「いえ、それも相手への愛が溢れているかと。……では、二人きりのときは私がキュイ、と呼んでもかまいませんか?」


「あ、もちろんいいです。わたしもシュヴァル、と呼んだ方がいいですか?」


「えぇ、そのほうがらしいかと思います」


 ですよね。まぁ二人きりの時だと意味ない気がしますけど、雰囲気作りは大切です。ということで、今後は呼び捨てでいきましょう。

 ふふ、少し新密度があがってきているような気がするのは気のせいじゃないですよね?


「他には?」


「えっと、……額を小突きあったり」


「……額を小突く? こうですか?」


 指で押されました。


「そうです、そんな感じです」


 わたしも小突き、二人で笑みを浮かべます。


「触れ合ったりイタズラなどを仕掛け合うというのは、楽しい時間を共有しているということですから、とても愛を感じますね」


「そうですね」


 あぁ、なんだかバカップルの感じが出てきました。ふふ、ちょっと楽しくなってきました。お付き合いってこんな感じなんですね!


「他には?」


「あとは、浜辺でおいかけっこ、とか?」


「……浜辺ですか……? ……海は遠いですから、それは実行に移すのに時間がかかりそうですね。ですが、おいかけっこならもう経験済みです」


 どうやら街でのことを言ってるみたいですね。まぁあれも追いかけっこですかね? わたしに自覚はありませんでしたけど。


「相手を必死に探すという行為は愛の深さを表すようなものですから、また折をみてやってみましょう」


「そうですね。今思いつくのはその程度です。また後から考えてみますが、とりあえずこれくらいで大丈夫でしょうか?」


「十分だと思います。とりあえず、すぐに実行できそうなことから順番に進めていきましょう」


 手を差し出されたので、今度はすぐにその手をとりました。

 手を繋ぐなんて本当に今更ですが、これを日常にしなければならないわけですから繋ぐにこしたことはありません。

 そのままシュヴァルさん――ではなく、シュヴァル、シュヴァル、シュヴァル、――浸透させるために繰り返しますがシュヴァル、が立ち上がったのでわたしもそれに続きます。


「あなたの家へ向かうんですか?」


 問いかけるとシュヴァル、は笑みを浮かべました。


「家に行く前に、デートをしましょう」


「え?」


「幸い今、エマでは建国記念祭が行われているんです」


「建国記念祭?」


 え? あれ? 女王国の建国記念日ってこんな時期でしたっけ?


「はい、建国記念日までの半月間、街は夜も賑わいをみせています。初デートにはもってこいだと思います」


 でも、まぁ、お祭りデート! いいですね、カップルっぽいですね!


 ――でも、こんな服で明るい街中を歩くなんて嫌すぎますっ。せっかくのお誘いですが、それとこれとは次元が違うといいますか、恥ずかしいですよ、これじゃ!


「店もまだ開いていますから、服も用立てましょう。きっとキュイに似合う服が見つかります」


 わたしの様子から察してくれたようです。しかも楽しそうに告げられては断りづらいです。――というか今、さらっとキュイと呼びましたね? さっそく実行してますね?


「……そうですね、……シュヴァル」


 ならわたしも習わねばなりませんよね? さらっと、自然に、笑みなんか浮かべて――呼んでみましたが、これで大丈夫ですか? あぁ、オッケーそうです。さらなる微笑みが返ってきました。ふふ、シュヴァルさ――シュヴァルって本当に美人ですよね、笑顔が素敵過ぎますっ。


 そんなシュヴァル、の提案を断ってはいけませんよね。メイシャさんにも贅沢者! と怒鳴られるかもしれませんし、それに、どうせ外に出なければならないわけですから、着替えるまでの少しの間なら我慢することにします。


 ふふ、ふふふ、それにしても、二度の人生で初のデートですか……、しかもこんな美人さんと。うわー、もうデートってだけで舞い上がっちゃいます。楽しみ過ぎてちょっと顔がにやけます。――と、ダメダメ、わたしはクールで二枚目な美少年、あまりデレデレしてはいけません!


 でも、手を繋いでのお祭りデート。


 金魚すくいに射的にクジ、わたあめ、リンゴ飴、焼きそば、たこ焼き、ジャガバター!


 ――がないことは分かっていますが、それでもお祭り楽しみです!




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