勘違いもほどほどにして下さいっ!
◇
どうもー、キュイです。
漆黒の天馬と恋に溺れた暴走乙女が去って、ようやく着替えることができるーと喜んでいるキュイです。
このままこのカボチャパンツを履いていると、実は似合うんじゃね? と勘違いを起こしそうで、それが怖いキュイです。
そんなわたしはめちゃくちゃ早くここを立ち去りたくてたまりません!
何故って、服を着替えたいのもありますが、それよりも、
「いやー、まさかあんたが――じゃなくてあなた様が公爵殿下だったとは――じゃなくてでしたとは」
「まったくだよ、どうしてもっと早く言ってくれなかったんだい? わたしはてっきり男装したどっかの貴族様かと思ったよ。ねぇ?」
「あぁ、まさかこんなに可愛らしい公爵殿下がいらっしゃるなんてなー」
ニコニコととりあえず笑顔でいますけど、もう本当にヤですここ! おばちゃんたちったら鋭すぎます!
――というか、男女登録制だからあの反応だったわけですが、まったくもう気が気ではなかったですよ。もしかしてわたしの男っぷりに陰りが差しているのかもなんて少しばかり心配しちゃいました。
お嬢さんやあのデカキモムカつく騎士がわたしを殿下と呼んだことで疑いは晴れたようですし、お腹もぺっちゃんこなので妊婦説も消え去り、その点みなさん謝罪してくださいましたから安心しましたけど。
「いやーでも、ありがとうね。メイシャ様を許してくれて。あの子も、本当に悪気があったわけじゃないんだよ? でも、本当に少しばかり手が出やすい子でね。さらには腕っ節が強いもんだから色々とあることないこと言われ続けて……、昔からそのことで割と悩んでたみたいなんだよ」
……なるほど。
男女ー! とか、怪力ー! とかそんなことを言われ続けてきたわけですね。中身が真性の乙女ならきっと辛かったことでしょう。その都度そんなことを言いやがった奴をぶん殴っていったとしても一度放たれた言葉は戻りませんからね。うんうん。
「でも、根は素直ないい子なんだよ」
ふふ、分かってます。素直じゃないと最後のハニカミ謝罪は出てきませんからね。
うふふ、メイシャさんのことを語るおばちゃんは、まるで孫の話しでもしているかのような顔です。こんな風に接してもらっていたから自己中ながらも根は素直な子に育ったんでしょうね。
――あぁ、メイシャさんの未来に幸あれ!
頑張ってこのお嬢さんを見返してやるんです。大丈夫、あなたなら出来ます。見た目はかなり可愛らしいし、胸大きいし、それに、根は素直なツンデレなんですから! ツンとデレは使いようですよ!
「それにしても、メイシャ様、こりゃ今度来るときは女の子に戻ってるかもしれないねぇ」
――ん? ああ、そうですね。確かに!
きっともし次に会う機会があれば可愛らしいドレス姿が見れることでしょうね。うふふふ、ちょっと楽しみです。
「あぁ、絶対戻ってるな。こっちの貴族様に惚れてるこたぁ俺は知らなかったが、……今回で何度目だっけか?」
「男の子になってきたのはこれで三度目かねぇ。あのときは誰だったかね? あのときも確かどっかの女装子爵様に惚れてたような気がするけど」
…………うん?
このお嬢さんが初恋とかじゃないの? 初恋ゆえに暴走しちゃったのかと思ってたんですけど。
しかも男装が三度目って、それはつまり二度目と三度目の間は普通に乙女的な女装だったってこと?
「次はこの公爵殿下か。ま、惚れる気持ちも分からぁね」
…………。
うん? うんんん?
ぇ、なに? 今何か幻聴が……、
「まったくだね。あたしもグッときちまったよ。身分など気にしてはいけない。まさかそんな台詞をお貴族さまから聞くことがあるとはねぇ、あぁあ、あたしもあと十年若ければ立候補したんだけどさぁ」
いや、立候補って何にですかおばちゃん。
っていうか、メイシャさんはこのお嬢さんのことが好きなんですよね? 女に戻って魅力を振りまく相手はこのお嬢さんなんですよね?
おばちゃんたちを凝視していると、疑問を汲み取ってくれたようで、
「――あぁそうか、殿下はご存知ないやねぇ、どうやら他国からのご先祖返りのようだし」
――は? いや、なんですか? 疑問が増えたんですけど。先祖返り? 先祖返りって? まさかわたしのご先祖のことをご存知なんですかおばちゃん、それは由々しき問題なんですが。
「あの子はこの国では有名なんだよ。もちろん腕っ節の強さも知れ渡ってるがね、それよりも、ねぇ? あんた」
「ああ、メイシャ様はな、惚れやすいのさ」
あなたがた夫婦だったんですね。ってそれより、なに? ほ、惚れやすい?
「今までもあたしが知ってるだけで五人に惚れて性別をコロコロ変えてたよ」
「そうそう、フられてもめげずにアタックしてたかと思えば、いつの間にか追いかけてる奴が違ったりしてなぁ」
「思い切りがいいちゃいいんだが、毎回どん底まで凹んでここで麦粒水をがぶ飲みしてたなぁ。ありゃ大人になったら確実に大酒飲みになるな」
「あははは、確かにねぇ!」
…………。
あの、ケラケラ笑ってますが、それ、え? どーゆうことですか? ちょちょちょっ! 先祖返りは脇に置いとくとして、惚れっぽい? こ、このお嬢さんが五人目?
ぇ、つまりそれ、わたしが慰める必要などなかったと、逆にわたしが六人目になってしまったと? 面倒を背負い込んだと、そーゆうことですか?
「なぁ殿下。もしもの話なんだが、決まった娘さんがいないなら、あの子をもらってやってくんなよ。女王国の人間はちゃらんぽらんも多いが、大抵相手に惚れ込むと義理堅い一途になるって相場が決まってんだ」
俺みたいにな、――やだよあんた!
なんて夫婦の惚気なんて右から左に抜けていきます。
「きっとメイシャ様もそうさ。今は移り気だが、それは若いからで、成長すりゃきっちりあんたを立てて尽くすいい嫁さんになるからよ」
…………いや、うん、……んなこと望んでおりませんが?
メイシャさんがいいお嫁さんになるかもしれないことは喜ばしいことですけど、わたしの嫁にって。それ、無理でしょ? みなさん御存じないでしょうけど乙女同士ですよ? ――いゃ、分かってます。同性婚はいいんですよね? でも、例えこの国ではそれが認められていても、それはかなり無理があるってもんです。なにせ金麦では自国の貴族子女との結婚が強制されていて、さらに言えば同性婚など厳禁。お付き合いすら許されません。えぇ絶対。
「美男美女、可愛らしいカップルじゃないか。結婚するときゃ教えてくれよ、式には参加できねぇにしてもお祝いすっからよ」
――ってするかいアンポンタン!
もーやだ。なんですかこの国!
兄上女装してるし、美女さん男だし、ちまぷにがキモデカになるし、それにツンデレ嫁候補とか出てくるし……。
頼みますからもう何も言わないで下さい。誰も出てこないで下さい。困ります。本当に困りますからっ、このままじゃキャパ越えしてショートしちゃいますよわたしっ。
……うぅ、よ、よし、とりあえず、もしこの人たちが言うようにメイシャさんに迫られたら、きっぱりはっきり断りましょう。短期間で二人にフられるなんて可哀想ですが、曖昧な態度はよくありません。美少年やってますから告白には慣れています。ここは柔らかく、――ありがとう、気持ちは嬉しいよ。でもごめんね。――そう優しくお断りしなければっ。
「――それで、公爵殿下はお名前はなんて言うんだい?」
「キュイ、――キュイジーヌです」
お愛想笑をしながらも悩んでいたわたしは、突然の質問に咄嗟に答えていました。良かった。出てきて良かったキュイジーヌ。
「キュイジーヌ殿下かい。男らしい名前だねぇ!」
……ぇ、そう? そうですか? やだ嬉しい!
「国ではよくある名前ですよ。我が金麦の建国の父であるキュイジーヌ初代王に由来したものです」
「――あぁあんた金麦の出身だったね!」
――えっ?! よく御存知で!
「さっきの演説、最高だったよ!」
あぁそうでした。……ふふっ、でしょう? そうでしょう? 金麦愛とわたしの男気を感じたでしょう? そうでしょうそうでしょう!
「あそこのオルヴィナ産麦は質が良いよ。麦はそこから仕入れることにしてるのさ」
「――!」
なんとなんと!
いやん、おばちゃん、嬉しいことを言ってくれるじゃありませんか! そうですかそうですか、まさかのお得意様でしたか! ではさっき食べたパンやパスタにもわたしのとこの麦が使われていたんですね? あぁだから美味しかったんですね!
これは是非お礼とさらなるご愛顧を――、と口を開いたところで、お嬢さんに腕を掴まれました。しかも口も塞がれました。
ぇ、なんで?
「すみませんが、二階をお借りしてもよろしいですか?」
ぇ、ぇ、え? なんで?
しかもおばちゃんたちったら、
「――ぁ、そーか! 気付かなくてごめんなさいね。ほらあんたらも謝んなよ」
「ん? ……あぁ! こりゃすまなかった!」
と訳知り顏なんですけど?
店内の片付けを始めた人たちもハッとなって視線を向けてきたかと思ったらチラホラ頬を染めてるのはなんで?
「殿下にはもう相手がいたんだったな! それなのにメイシャ様をなんて言って悪かったよシュヴァル様!」
「お二人もお似合いさね! 何と言っても美男美女! 目の保養になるよねぇ、うんうん」
「そーだよなぁ、強力なライバル登場だからなぁ、……よし、心配すんな! しばらくは誰も二階には上げねぇよ! だからきっちり分からせてやんなよ」
……あー、……え、なに? どーゆうこと?
なんて言いません。
わたしそんなに鈍くないです。鈍けりゃ良かったと思ったの初めてかもしれません。
つまり、そーゆうことなんですね? おじさんたちがニヤニヤしてるのも、若い人たちが頬染めてるのもそーゆうことなんですね?
「こんなに可愛いんじゃ、男も女も引っ掛けてきて大変だなぁ、シュヴァル様も」
つまりこの方々は、
「キュイ殿下に教えてやんなよ」
メイシャさんと同じように、
「浮気はするなってね」
――全っ然分かってなーい!
どうやら乙女疑惑は晴れたようですが、このお嬢さんとの誤解は未だ継続中だったようです。メイシャさんだけじゃなかったようです。しかも男同士に見えるせいで妙な具合になっています。それに浮気って。わたしが浮気性だと思われてるなんて! わたしはひたすら兄上一筋なのに、なぜにどうしてこんなことに……!
って、だいたいにしてもお嬢さんもお嬢さんです。否定して下さいよ! どうしてそこで否定することなくわたしを米俵のように担ぎ上げたりしてるんですかっ? ちょ、階段登らないでください!
――ぁ、そういえば、に、二階って、酒屋や飯屋の二階って安宿だって金麦では相場が決まってるんですけどっ、いわゆる連れ込み宿でもあるというかっ、と、とにかくそんな感じなんですけどっ! あの、あのっ、こ、この国ではっどう――、
「……ほどほどにしときなよー」
同じですねっ、これは絶対同じ感じですねっ? 男と女がアレでコレでソレな感じの部屋で間違いないですねっ!
「あの、お、――しゅ、シュヴァルさんっ?」
蹴たくりますよ? その胸蹴たくって逃げることも可能なんですよ? それをしないのはあなたの目的が分からないからで、
「ありゃ完全に怒ってんな」
とか聞こえたからですよ?
「あの、シュヴァルさんっ?」
…………って無視ですかっ?
あなたシュヴァルさんですよねっ? そう呼ばれてましたよねっ? な、なんでですかっ? わたしがいったい何をしたとおっしゃいますかっ? あなたに怒られるようなことをしましたかっ?!
――はっ! まさかお嬢さん、この美少年顔に絆さらてマジラブフラグ?
いやいやいやいや。
マジで勘弁してくださいっ!
◇




