戦闘
剣を床を転がってかわし、魔法杖から魔法を発動する。
剣を魔法で叩き割ろうとしたが、うまくいかなかった。なんらかのエンチャントがされている可能性が高い。
ならばこれはどうだと剣を取り上げる魔法をかける。ダメだ。これも効かない。これはデバフあるいは敵意のある魔法が効かない可能性がある。
実験してみよう。
俺は防御魔法をマントにかけた。そしてそれを人の前に広げた。
少しうろたえたようだったが、人はそれを切ろうとした。だが、魔法がかけられたマントは切れることは無かった。
なるほど、防御魔法は効くらしい。マントを回収し、宿の損壊部分から魔法で荷物を引っ張りながら出た。
目の前に斧が振り下ろされた。バックステップでそれを避ける。
なるほど、徒党を組んでいるのか。斧持ちが一人、剣持ちが一人、ナイフ使いが一人か。
ナイフ使いのナイフをはじき返しながら、屋根の上へと登る。
ナイフ持ちは身軽なようなので、一番早くにここにつくだろう。ということで、設置型の魔法の罠を置いておく。剣持ちには恐らく効かないだろうが、ナイフ持ちにはどうだろうか?
屋根の上を走りながら、後ろを向くと、罠にナイフ持ちは引っ掛かっているようで、身動きが取れなくなっていた。
これで三人とも追ってこないだろう。
屋根の上から降り、路地裏を駆け抜ける。これからは「距離を取る」よりも「どこにいるかわからなくする」が大切だ。
…そう思っていたが、間違いだったようだ。なんと、ナイフ持ちを除いた人たちは建物を全て破壊して最短距離でこちらに来た。なにがそれまで彼らを駆り立てているのか、全く分からない。
「俺が何かしたか?」
ここはコミュニケーションを図ってみよう。インクや紙に被害が出たらたまったものではない。
「俺たちの仲間を殺しただろう! 魔法使いのドーザを!」
「ドーザ…? ああ、アイツはそんな名前だったのか」
剣が目の前に振り下ろされた。コミュニケーションは図れなかった。
身をかわし、短剣を剣使いへと投擲したが、はじき返された。
距離をとっても最短距離で詰められる、隠れるにも時間が足りない。
空に逃げるか? いや、だが浮遊魔法は苦手だ。
ならばここら一帯に天変地異を呼ぶか? いや、それをしたら俺の命はますます狙われるだろう。
転移魔法…は、失敗するかもしれないからなしだ。転移魔法は最悪な失敗をした場合、身体がちょん切れて死ぬ。
やはり、走って距離を取ろう。
俺はまだ倒壊していない家屋の屋根の上に乗り、駆けた。
当然追ってくると思ったので、わなを仕掛けた。恐らく剣持ちには効かないだろうが、斧持ちはひっかかる。
ある程度走ってから後ろを向くと、やはり斧持ちは引っ掛かったようだった。
だが、剣持ちはやはり追いかけてきていた。
そういえば、この町を出て山を幾つか超えたところに泉があったな。そこまで行ってみよう。
危ない、俺の足の隣を剣が掠めて行った。これは早急に移動しなければ。
やがて家屋がなくなり、街を囲む大きな塀が現れた。それを風魔法を行使して乗り越える。塀の上から下を見ると、垂直に壁を走って追ってきていた。まだ逃げる必要がありそうだ。
山を登っていると、かなり深い谷があった。そうだ、ここにコイツを叩き落そう。落下死するかどうかはわからないが、やってみる価値はある。
俺は魔法でハンマーを作った。そして、谷の前で立ち止まる。
相手はすぐそこだ。まだ、まだひきつける。
剣を振りかぶっているところで、俺は谷の方へと跳んだ。剣持ちも跳んだ。少し相手は無理な形で跳んだたため、叩き落としやすかった。
後ろは振り返らない。なぜならばこれは、時間稼ぎに過ぎないからだ。
いくつかの山を越えたところで、泉にようやくたどり着いた。俺は水の中に飛び込んだ。確か、この泉の中には外からでは見つけにくい水中洞窟があって、それの奥へ行くと外に出る。
水中から水面を見上げる。剣持ちは追いついていないようだ。ならば、俺がここのルートを通ったことはわからないだろう。
水の中をしばらく進んでいくと(水中で息が続く魔法がなければ死んでいただろう)水が急になくなった。
そこには魔法陣が描かれており、水の侵入を防いでいた。懐かしい。
その魔法陣を発動させている原動力が何だったか…少し気になってきた。
洞窟の中には誰かが掘ったであろう穴があいていた。人一人入れるような場所だった。
俺はそこに入ってみた。
しばらく進んでいくと、魔法石があった。かなり純度が高い魔石のようで、まだ三分の一も魔力が消費されていない。
これを作ったのは誰だろうか、こんな高純度な魔石はどこから手に入れたのだろうか。
よく見てみると、いくつかの魔石を無理やり一つの魔石につなぎとめたようだ。
どうやら、中心になっている魔石はそんなに純度が高いものではないようだ。なぜ、こんなことを…?
今度、あの一行に追われなくなったころにもう一度来てみよう。少し気になる。
もう一つの穴の方へ行く。そこには水のヴェールがかかっていた。手を入れると、少し流れが急なことが分かった。
「我は氷、我は独り、我は干渉しえない、そなたも干渉しえない、それが我とそなたの認知そのものである」
水の流れに流されない魔法を自分にかけ、俺は川に入った。少しクラゲが浮いているところを見るに、ここは海に近いのだろう。
蔦が川の中に入っている。もう充分泳いだだろう。これを使って岸に上がろう。
蔦をつたい、川岸に上がると、それは木に括りつけられていたものだということに気づいた。だが、それはところどころ劣化しており、長年手入れされていなかったことがうかがえる。もう、これを付けた人はここにいないだろう。
それよりも、どこかに身を休められるところはないだろうか。
蔦を付けた人がいるということは、家が近くにあってもいいだろう。もうここには居ないだろうから、劣化しているだろうが。
少しあたりが明るくなってきた。これで家を探しやすくなったかもしれない。草をかき分けると、家があった。
こう思った矢先にこれか。幸先がいいな。
その家の中には鏡があった。よし、これで魔法がかけられていたか確認しよう。
「鏡よ、我にかかる災厄、祝福、そのすべてを映し見出せ」
やはり、魔法をかけられていたようだ。「自分を殺した者が仲間にわかるようになる」というものだった。俺を襲撃してきた人たちは勇者たちだったか。
そういえば、建物がだいぶ損壊してしまったが、あいつらはどう落とし前をつけるつもりなのだろうか。
明日で完結するかもしれません。




