資金集め
性行為やそれによって金を得る描写、同性愛描写などが含まれます。
当然ながら、研究には研究費用が必要である。ということで、元手を作りに行く。
酒の匂いと、汗の匂い、そして、ベタついた床。
ここは酒場だ。
ここには何人もカモがいる。
カウンターに座って酒を飲んでいると、男が隣に座った。
俺はすかさず話しかけた。柔和な笑顔を作って、話しかけた。
「こんばんは、お一人ですか?」
男は少し驚いたような顔をしたが、満更でもなさそうだった。これはいける。
「あ、ああ、1人だな」
男がそう言ったのを見計らって少し距離を詰めた。
「へぇ、そうなんですね。じゃあ、一緒に飲みませんか?」
男は瞬きを忘れた。そして、頷いた。
脱水症状かだろうか、頭が痛い。だが、金は手に入れる事ができた。
この調子で資金集めをしていこう。
「よう、俺と遊んでくんね?」
やけに俺をベタベタと触りながらその男はそう言った。
俺は少し困ったような笑顔を浮かべた。
「ええ、俺でよければ」
そして、今日はそいつの家に行くことになった。
「なんか飲み物飲むか?」
「なんでもいいですよ」
男は戸棚の方へ行った。俺はベッドに横たわった。
脱水症状でフラフラしている今、飲み物はありがたい。
なんとはなしに布団を弄っていると、男が足音を消して近づいてくる音が聞こえた。
少しベッドから移動して扉のすぐ横に酒瓶を持って立った。
男は寝室のドアを開けた。
その男の手にはナイフが握られていた。俺は男を酒瓶で殴った。男は昏倒した。
理由を聞こう。金を払うのが面倒くさくなったのか、それともまた何か事情があるのか気になる。
そのためには縛るものが必要になるな。
家を物色していたところ、縄らしきものがあったのでそれで男を縛り、俺はベッドの端に座って男が起きるのを待った。
縄を探しに行ったときに水があったので、それを飲みながら待っていた。やがて水があと一口と言うところで男の目が覚めた。
「な、なんだこの状況はっ! おい!」
男はわめいた。
「刃物を持って部屋に来た理由を問わせてもらおうか」
「お前に言う義理はない!」
俺は魔法杖を取り、彼に近づけた。魔法杖の先端からは火花が出ている。
「光を失うのと、口をわるの、どちらがいいか?」
男の瞬きの回数が増えた。男は口を開いた。
「お前が指名手配所に書かれている奴なんだろ⁉」
なんとなく、男は嘘をついているような気がした。
そういえば、まだ試していない魔法があったな。試してみよう。
「我は鏡、汝の全てをわが前に表せ」
男は、瞳孔が開いた。
「あ…あっ、あっ。あぁ!」
失敗したのだろうか。
男はうなだれた。
「はい、俺は全てを話します」
男は再び口を開いた。
「貴方は魔王を倒した勇者一行から指名手配されている人に似ています。俺は貴方と愉しんだ後に貴方を倒して引き渡し、金を得るつもりでした」
勇者…ああ俺の同僚を殺した奴らか。そういえば、俺が殺した奴は恐らく、その勇者御一行の一人だろう。弱かったが。だから俺を追いかけてきているのか。
「そうか、わかった」
俺は麻痺魔法を男にかけた後に縄を解いた。三十分ほどすれば魔法は解けるだろう。
ベッドに男を横たわらせた後、俺は上着を羽織り、街へと歩き出した。
もう資金は集めた。ならば、今度は研究資材集めだろう。
昼間の街はにぎわっていた。俺はインク店の扉を開けて入った。
魔法陣を書くためには、専用のインクがいる。魔法陣書きにとっては、インクを吟味する時間は至福のひと時だ。どのインクでどんな魔法陣を作るか。そう考えながらインクを見るのだ。
インクの光沢や色でどういう魔法陣と相性がいいかわかるから、本当はもっとインクの色をまじまじと見たい。フードを外して、まじまじと見たい、が。それは無理だ。フードを外してしまえば、この時間は終わるからだ。
このフードは認識阻害できる術式を組み込んでいるため、外さない限りは誰かに指名手配犯だとバレることは無いだろう。その証拠に店の人間は誰も、俺のことを見てもとらえようとして来ない。
ヘドロがたまった沼の底のような色をしたインクを手に取る。
これはいいかもしれない。
この色からして恐らく、強力な風魔法を書き出せるものだろう。だが、これはかなり癖が強そうだ。扱いを間違えれば研究施設が壊れるだろう。ああ、そうだ。研究施設も買わなければ。
だが、金がない。しかも、以前までの金策は使えなくなってしまった。
これは、有用な魔法陣を幾つか開発してそれをまとめた本を出版するしかないな。その場合、このインクは買わない方がいいだろう。汎用性がある魔法陣はよく売れるが、ない魔法陣は売れない。このインクは強力すぎて汎用性には欠ける気がする。店主に聞くべきだろうか、いや、まだこのフードがどれほどの力を使えるか分からない。やめておこうか。いや、だがしてみたい。
店主の顔をちらりと見る。やはり、やめておこう。インクを買うにとどめるか。
では、このヘドロ色のインクと、澄んだ緑色のインクと安いインクを数本買わせてもらおう。
紙を買えるようにいくらか金額は残しておいて…。
…。
……。
………。
少し買いすぎたな。買うものを減らそう。
紙屋に行く途中で、確かに俺の指名手配書があった。それの前であんまり立ち止まるのもアレかと思ったが、少し立ち止まってしまった。そうか、俺はこういう顔をしているのか。
紙屋に行った。魔法陣作りには紙も重要なのでかなり吟味した。紙は手触りなんかで色々分かるので、インクよりかはわかりやすいところがある。おかげで店員に聞こうか聞かないか迷わずに済んだ。
俺は買った紙を眺めながら宿屋の寝室に寝転がった。
今日はインクを買った、紙も買った。魔法陣の研究に必要なものは全て買った。別に、魔法陣開発におおがかりな施設は必要がない。インクと紙さえあればいい。指にインクをつけて紙に思うがままに線をひいたあの日も、魔法陣はきちんと作動したのだ。
そういえば、明日することをメモに書いていなかったな。書くか。
メモを取り出そうとしたところで、杖が手にあたった。そういえば、魔法などはかけられていないだろうか。仮にも魔法使いを一人殺したんだ。自分が死んだら発動する魔法を相手がかけていた可能性はある。
俺は鏡の前に立った。
そして、杖を構えた。いや、かまえようとした。鏡は粉々に飛び散ってしまったから、それはできなかった。
一人が、切りかかってきた。




