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魔王、四天王、全滅

 退職届を書き終えて、インクのふたを閉めた。


「このたび一身上の都合により魔王軍四天王を退職いたしたく、ここにお願い申し上げます」


 文面を読み上げる。これでいいはずだ。恐らく。魔法塔を追放されたときはこんなものを書かなかったからわからないが、恐らくこれでいい。


 退職届を魔王に出して来よう。


 最近、イライラしていたんだ。


 俺以外の四天王たちについて。


 「殺人は芸術さ!」とか言っていたのに全くその「芸術」が芸術とはいえないお粗末なやつを作っている奴だったり、自分の編み出したチープな剣技を「唯一無二の剣技」と信じて疑わず、信者を作っていた奴だったり(信者もそう信じていた)「私にしかわかりえない魔術なのだ」とか言って全く割に合わない魔術を開発していたりする奴が俺の同僚だからな。辞めたい。というか今日、辞める。


 退職届を懐にしまい、俺は扉を開けた。すると、人が立っていた。


 誰だろうか。おそらく知らない人だ。


 魔王に会うのに邪魔だからちょっと避けてほしい。


「お前が四天王の一人、リーフェンか?」


 なんだ、それは。ああ、俺の名前か。そういえばそうだった。


 それよりもお前は邪魔だから退いてほしい。


「なんだ、その顔は⁉ 馬鹿にしているのか⁉ お前のせいで何人の人が死んだと思っている⁉」


 何もしていないのに相手が勝手に怒り始めた。そういえば弱い犬程よく吠えるらしい。


 相手は俺に杖を向けてきた。ああ、戦うのか。


 俺も杖を構える。


 手始めに「遥か彼方からの使者」でも使うか。


 杖から白色の光がいくつも発射された。それを相手は防御魔法を張って耐えた。


 壁が壊れてハチの巣のようになってしまった。俺は金がないから、壁の修復費用を出してから退職しろと言われたらどうしよう。


 今度は相手の番だった。火球がいくつもこちらめがけて飛んできたので、杖を軽く振った。火球は消え失せた。


 今度は火の竜巻のようなものが来た。杖を少し強く振ると、それも消えた。


 あまり魔力を使いたくないし「異郷からの返信」を使うか。


 先ほど出された火球を幾つか杖から出す。すると、相手はぐるりとそれをまわって避けた。


 魔王に会うのに邪魔だからちょっと避けないでほしい。


 今度も「異郷からの返信」を使い、火の竜巻を取り出した。あたりが火の海になってしまった。賠償費用が膨れ上がっているような気がする。


 しかも、相手はまだ生きている。


 もうここまでしてしまったら、いまさら何を壊しても同じだろう。


 杖を地面につけ、何回か地面をつつく。その間に、短剣を刺されそうになったので、こちらも短剣を出していなした。


 地面が抜けた。


 いや、正確には抜け「させた」。


 これで落下死してくれたらいいのだが…。


 だが、現実はそう上手くはいってくれないようで、まだ相手は生きていた。ので、この地下に書いておいた魔法を発動させた。


「人々の命よ、そなたの命を奪ったのは、かのものだ。今こそ怨嗟を晴らすとき。『怨嗟鳴声』」


 魔法陣から、人型の血を滴らせている何かが大量に飛び出した。それは、相手に絡みついた。相手はしばらく暴れており、こちらに魔法が飛んでくることがあったが、それは杖を振ってどうにかした。


 動かなくなった相手に近づくと、耳から血を流して死んでいた。死者の声に耐え切れなかったのだろう。


 俺の周りにもまとわりついてくる赤色の人型を杖を振って散らし、浮遊魔法を使って、俺は地上に上がった。


 一回、地下を見た。やはり、死んでいた。そういえば、以前久しぶりに外に出たら、烏が芋虫を食べているのを見たな。


 魔王に会いに行こう。






 扉を開くと、赤かった。あたり一面というわけではないが、赤かった。四人分の血だった。


「…へ?」


 魔王と、俺以外の四天王が、死んでいた。


 まず「殺人は芸術さ」と言っていた奴の瞼をあげてみた。瞳孔が完全に開いていた。俺は再度、瞼を下げた。


 次に、「唯一無二の剣技」と自慢していた奴の鼻をふさいでみた。いつまでたっても、何の反応も示さなかった。彼の口元の血をぬぐった。


 「私にしかわかりえない魔術なのだ」とか言っていた奴の肩をゆすった。起きなかった。落ちていたケープをかけた。


 魔王の前に立つ。顔をまじまじと見た。ついぞ目があうことは無かった。懐の退職届を、魔王の懐に押し込んでおいた。


 そういえば、今日は会議があったな。今、思い出した。俺も行っておくべきだっただろうか。いや、俺が行ったところで何か有意義な意見が産まれたとは思えない。いつもいつも、コイツらは虚栄と自尊心を慎重に、愛想笑いというオブラートに包装して当たり障りのない話をして、終わり。生産性のない会議だった。


 …持病の手の震えがやってきた。


 腕を伸ばし、目の高さまで手を上げる。軽く握り込んだり、開いたりしてみたが、どうにもならなかった。持病は悪化しているのだろう。魔法陣や論文を書いている時に不便だから治ってほしい。


 そうだ、この持病を治すために研究をするのはどうだろうか? 回復魔法という魔法もあるし、その類の魔法を使うことでこれを治すことができるかもしれない。魔王城を出た後でしたいことが見つかった。これは僥倖。


 ついでにこの酷い物忘れについても研究するか。この持病のせいで幾千もの素晴らしい魔法の原案が失われたに違いない。人類の発展のためにも、俺はこの物忘れを克服する必要がある。


 そのことを忘れないように、メモ帳を探すか…。


 魔王の玉座の下を見た。そんなものはなかった。


 魔王のローブを漁った。刺さっていたナイフが抜けた。これはメモ帳ではない。


 「私にしかわかりえない魔術なのだ」とか言っていた奴の白衣のポケットを漁った。ペンがあった。使わせてもらおう。


 「唯一無二の剣技」と自慢していた奴のズボンを漁った。ぐちゃぐちゃの紙が出てきた。これにはメモできない。


 「殺人は芸術さ」と言っていた奴のマントを漁った。彫刻刀が出てきた。床に刻めと?


 床を見渡してみた。金色の複雑な紋章が描かれな何かが落ちていた。それは、勇者の紋章だった。ああ、ここには勇者たちが来ていたのか。


 自分のローブを漁った。あった。メモ帳が。何のために探していたのだったか…明日の会議についてのメモをするためだったか…いや、違う。俺の酷い物忘れを克服するという目標と、持病を治すという目標を書き込むためだ。


 もうここに用はない。少し掃除したら出て行こう。







 最後に、先ほどの地下を見たが、死体が無くなっていた。殺し損ねたのだろうか。


 久しぶりに出た外は曇っていた。魔王城へと続く道には足跡と何かを引きずった跡があった。

AI使用区分につきましては、活動報告をご覧ください。

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