第7話「はじめての宿」
荷物運びのクエストを終えたルゥは、冒険者ギルドへ戻ってきた。
「今日も頑張ったにゃ!」
薬草を集めた。
荷物も無事に届けた。
少しずつだけど、冒険者としてできることが増えてきた。
そんなことを考えていた、そのとき――
「……そういえば、ルゥはどこで寝るにゃ?」
ふと、大事なことに気づいた。
この街に来てから、ルゥにはまだ泊まる場所がなかった。
冒険のことばかり考えていて、今まで気にしていなかったのだ。
「……困ったにゃ」
ルゥは受付へ向かった。
「ミーナさん、聞きたいことがあるにゃ」
「はい、なんでしょう?」
「ルゥ、まだ寝るところがないにゃ……」
ミーナは少し考えると、優しく笑った。
「それなら、冒険者通りにある『月のひげ亭』がおすすめですよ」
「月のひげ亭……?」
「冒険者さんたちがよく利用する宿です。ご飯も美味しいですよ」
「ご飯……!」
その言葉を聞いた瞬間――
ルゥの耳が、ピンッと立った。
「行ってみるにゃ!」
ルゥは冒険者通りを歩いていく。
てくてく。てくてく。
やがて、木の温かみを感じる大きな宿屋が見えてきた。
入口には、立派な看板が掲げられている。
『月のひげ亭』
「ここにゃ!」
ルゥが扉を開けると――
ふわっ。
温かな料理の香りが漂ってきた。
「いらっしゃい!」
声をかけてきたのは、大きな茶白の猫だった。
「俺はバルド。この宿の主人だ」
「ルゥにゃ。冒険者にゃ!」
バルドはルゥを見ると、ニッと笑った。
「冒険者か! 腹は減ってるか?」
「……減ってるにゃ!」
「よし! なら、まず食え!」
テーブルに並んだのは、できたての温かな料理。
ルゥは夢中になって食べ始めた。
「おいしいにゃ……!」
「ははは! いっぱい食え!」
温かな料理。
優しい声。
そして、どこか落ち着く空気。
ルゥの小さな胸が、ぽかぽかしてきた。
食事を終えると、バルドが声をかけた。
「部屋なら空いてるぞ。今日はここに泊まっていけ」
「泊まっていいにゃ?」
「ああ。冒険者なら、しっかり休むことも大事だからな」
「ありがとうにゃ!」
バルドに案内され、ルゥは二階の部屋へ向かった。
そこには、小さなベッドと柔らかな布団があった。
「ここで寝るにゃ……!」
ルゥはベッドに飛び込んだ。
ふかふかの布団が、ルゥの小さな体を優しく包み込む。
「……あったかいにゃ」
知らない世界に来てから、ずっと落ち着かなかった。
元の世界へ帰る方法も、まだ分からない。
それでも――
今夜は、安心して眠れそうだった。
「おやすみにゃ……」
ルゥは小さくつぶやいて、目を閉じた。
翌朝。
窓から差し込む朝の光で、ルゥは目を覚ました。
「……朝にゃ」
ゆっくり起き上がり、部屋を見回す。
昨日までとは、少し違う気持ちになっていた。
温かいご飯が食べられる。
安心して眠れる。
そして――
「また、ここに泊まりたいにゃ!」
ルゥは嬉しそうに笑った。
元の世界へ帰る方法は、まだ見つかっていない。
だけど――
この世界にも、ルゥが安心して帰ってこられる場所ができた。
月のひげ亭。
それは、異世界で初めてできた――
ルゥの「帰る場所」だった。
そして今日も、
小さなこねこの冒険は続いていく。
――第7話・おわり。
次回予告
ルゥが見つけた、初めての宿「月のひげ亭」。
そこで迎える、ルゥの新しい朝とは――?
次回、第8話「はじめての朝」




