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こねこの異世界冒険記  作者: ポンデリング
第2章「こねこ冒険者、次の一歩へ」

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22/25

第22話「1歩ずつ強く」

【異世界生活12日目】


朝。

月のひげ亭の窓から差し込む光で、ルゥは目を覚ました。

「……朝にゃ」

いつものように体を伸ばしてから、ルゥは冒険者カードを取り出した。

そこに表示されているのは――。


冒険者ランク:F

レベル:5

スキル:見切り


昨日まで、レベル4だった。

「……ルゥも、もっと強くなるにゃ!」

冒険者カードを見つめながら、ルゥは小さな前足をぎゅっと握った。

昨日、ギルドで出会った冒険者――レオン。

自分より少し大きくて、強くなるためにどんどん先へ進もうとしている猫だった。

レオンのことを思い出すと、ルゥの胸の奥に小さな闘志が湧いてくる。

すると、食事を運んできたバルドが笑った。

「おう。やる気が出てきたな」

「にゃ!」

「ただし、焦るなよ」

「……分かってるにゃ!」

ルゥは元気よく答えた。

強くなりたい。

でも、無理をするわけじゃない。

それは、この世界で冒険を続ける中で、少しずつ分かってきたことだった。

朝食を終えると、ルゥは月のひげ亭を出た。

向かう先は――冒険者ギルド。


【東の草原へ】

ギルドに入ると、受付にはミーナがいた。

ルゥの姿を見つけると、いつもの笑顔を見せる。

「おはようございます、ルゥちゃん」

「おはようにゃ!」

「今日は、少しだけ難しい依頼がありますよ」

そう言って、ミーナが依頼書を差し出した。

依頼内容は、


『東の草原にある薬草を採取してきてほしい』

というものだった。

必要な薬草は、全部で五つ。

「東の草原は、北の森とは違って、かなり開けています」

ミーナは地図を指差した。

「目印になるものが少ない場所もありますから、帰り道を見失わないようにしてくださいね」

「……帰り道を覚えるにゃ」

ルゥは依頼書と地図をしっかり確認した。

「それなら大丈夫そうですね」

「任せるにゃ!」

ルゥは依頼書を受け取ると、ギルドを出発した。


東の草原に到着すると、ルゥは思わず足を止めた。

目の前には、どこまでも続いているような広い草原。

風が吹くたびに、草が一斉に揺れている。

「わあ……広いにゃ!」

思わず走り出しそうになった。

けれど――。

ルゥは一歩踏み出したところで止まった。

「…………」

そして、後ろを振り返る。

遠くにはエルニアの城壁。

少し離れた場所には大きな岩。

さらにその先には一本だけ立っている木。

そして、少し曲がった柵。

「……まず、帰り道を覚えるにゃ」

ルゥは一つずつ目印を確認した。

城壁。

大きな岩。

一本の木。

曲がった柵。

これなら、帰り道を見失わない。

そう判断してから、薬草探しを始めた。


【本物を見つける】

草原を歩いていると、似たような植物がいくつも見つかった。

ルゥは依頼書に書かれている薬草の特徴を思い出す。

葉の形。

茎の色。

花の付き方。

「……これかにゃ?」

一度手を伸ばしかけて――。

ルゥは止まった。

もう一度、葉を見る。

茎を見る。

花を見る。

「…………違うにゃ」

以前の薬草採取で学んだことが、ここで役に立った。

見た目が似ているからといって、すぐに採ってはいけない。

確認してから採る。

ルゥは慎重に探し続けた。

やがて――。

「……あったにゃ!」

今度は間違いない。

依頼書に書かれていた特徴と一致している。

ルゥは丁寧に薬草を摘み取った。

一つ。

二つ。

三つ。

「あと二つにゃ」

順調だった。

そのとき――。


ガサッ……。

近くの草が揺れた。

ルゥの耳がぴくっと動く。

「……何かいるにゃ」

以前なら、気になって近づいていたかもしれない。

でも、今のルゥは違った。

その場から動かず、耳を澄ませる。

風の音。

草の揺れる方向。

そして、その気配。

「…………」

少し待つ。

もう一度、草が揺れた。

けれど、その動きはルゥのいる方向へ向かってはいなかった。

「……こっちには来てないにゃ」

ルゥは周囲を確認した。

危険かもしれない。

でも、今すぐ確かめる必要はない。

依頼の目的は、薬草を五つ集めること。

なら――。

「依頼は薬草を集めることにゃ」

ルゥは気配のする場所から離れるように、別の道を選んだ。

無理に近づかない。

追いかけない。

必要なら、避ける。

それも冒険者として大切な判断だった。

その後、ルゥは残り二つの薬草も見つけることができた。

「これで……五つにゃ!」

採取した薬草を確認する。

どれも間違っていない。

そして、帰り道も迷わなかった。

城壁。

大きな岩。

一本の木。

曲がった柵。

行きに確認しておいた目印が、ルゥをエルニアへ導いてくれた。

「帰れたにゃ!」

ルゥは少し嬉しそうに尻尾を揺らした。


【一歩ずつ】

冒険者ギルドへ戻ると、ミーナが薬草を確認した。

「はい。五つとも依頼された薬草で間違いありません」

「やったにゃ!」

「それに……」

ミーナは嬉しそうにルゥを見る。

「ちゃんと帰り道を覚えて、迷わず戻ってこられましたね」

「うんにゃ!」

「途中で何か気配もあったんですよね?」

ルゥは頷いた。

「でも、近づかなかったにゃ」

「それで正解です」

ミーナは優しく笑った。

「危険を感じたときに、無理をせず離れる。とても大切な判断ですよ」

ルゥは少しだけ胸を張った。

そして、ぽつりと尋ねる。

「……ルゥ、ちゃんと冒険者になってきたかにゃ?」

ミーナは少し驚いたように目を瞬かせた。

それから、優しく笑った。

「はい。少しずつ、ちゃんと冒険者になっていますよ」

その言葉を聞いて、ルゥは嬉しくなった。

「……にゃ」

その瞬間だった。

手に持っていた冒険者カードが、淡く光り始めた。

「……あれ?」

ミーナも気づく。

「これは……!」

光が強くなり――。

冒険者カードに、新しい表示が浮かび上がった。


【レベルアップです】

「……にゃ?」

「ルゥちゃん、レベルが上がりました!」

「ほんとにゃ!?」

冒険者カードを確認すると、そこには――。


Lv4 → Lv5

そして、能力値も変化していた。


HP:16 → 18

攻撃力:4 → 5

防御:2

素早さ:4 → 5

魔力:0

運:3


「……やったにゃ!」

ルゥは嬉しそうに冒険者カードを見つめた。

昨日より、ほんの少しだけ強くなった。

でも――。

それ以上に嬉しかったのは、今日の冒険で、自分自身の判断が少しずつ変わってきたことだった。

道を覚える。

薬草を見分ける。

危険な気配に気づく。

そして、必要がなければ近づかない。

少し前のルゥなら、もっと勢いだけで動いていたかもしれない。

でも今は違う。

「……一歩ずつでいいにゃ」

ルゥは冒険者カードを胸元にしまった。

「ルゥは、ルゥのやり方で強くなるにゃ!」


夕方。

月のひげ亭の扉を開ける。

「ただいまにゃ!」

「おう、おかえり!」

バルドの声が返ってくる。

その声を聞きながら、ルゥは今日の冒険を思い返した。

昨日は、レオンという新しい冒険者に出会った。

今日は、自分自身が少しだけ前に進んだ。

急がなくてもいい。

誰かと同じじゃなくてもいい。

自分にできることを、一つずつ増やしていけばいい。

ルゥはもう一度、冒険者カードを取り出した。

そこに表示されている数字を見る。


Lv5。

「昨日より、ちょっと強くなったにゃ」

小さく笑う。

そして――。

「明日は、もっとできるようになるにゃ!」


小さなこねこの冒険は、

今日も一歩だけ前へ進んだ。

――第22話・おわり。

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