第21話「気になる冒険者」
【異世界生活11日目】
朝。
月のひげ亭で朝食を終えたルゥは、冒険者カードを眺めていた。
Lv4。
少し前までLv1だったルゥが、今では魔物と向き合えるようになっている。
ツノウサギを追い払い、グレイファングから荷車を守り、そして――魔物を倒した。
少しずつだけど、自分が強くなっていることは分かる。
「……もっと強くなりたいにゃ」
そう呟いて、ルゥは冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドに入ると、掲示板の前に見慣れない猫がいた。
ルゥより少し大きな、トラ柄の猫。
腰には短い剣。
小さな冒険者用のバッグも身につけている。
その猫は掲示板から依頼書を一枚取ると、
「この依頼、俺がやる」
迷いのない声で、受付へ向かった。
「……新しい冒険者にゃ?」
ルゥが見ていると、ミーナが気づいた。
「あ、ルゥ。紹介しますね」
猫が振り返る。
「俺はレオン。Fランクの冒険者だ」
「ルゥもFランクにゃ!」
「へえ。同じだな」
レオンは少し笑った。
同じFランク。
それだけなのに、ルゥはなぜかレオンのことが気になった。
「レオンは、どんな冒険をするにゃ?」
ルゥが尋ねると、レオンは掲示板を見ながら答えた。
「俺はもっと強くなりたいんだ」
「強く?」
「ああ。もっと強い魔物と戦って、いろんな場所へ行く」
ルゥは少し考えた。
ツノウサギ。
グレイファング。
そして、北の森で見つけた魔物の痕跡。
「……ルゥも、もっと強くなりたいにゃ」
「じゃあ、同じだな」
レオンが笑う。
けれど、ルゥは首を傾げた。
「でも、危ないときは戦わないにゃ」
「俺は、まず動いてみるけどな」
「……ぜんぜん違うにゃ」
二匹のやり取りを聞いていたミーナが、くすっと笑った。
「目指しているところは同じなのに、冒険の仕方は正反対ですね」
「俺は早く強くなりたいんだ」
「ルゥは、ちゃんと考えてから進みたいにゃ」
レオンは少し考えてから、
「……まあ、それも一つのやり方か」
と答えた。
しばらくして、レオンがギルドを出ていく。
「じゃあな、ルゥ」
「気をつけるにゃ!」
レオンを見送ったルゥは、掲示板へ向かった。
するとミーナが、一枚の依頼書を指差した。
「ルゥには、これなんてどうでしょう?」
依頼は、街道沿いに落ちている小さな石を片付ける仕事だった。
「これなら、できそうにゃ!」
ルゥは街道へ向かった。
道の端に落ちた石を見つける。
一つ。
また一つ。
「よいしょ……にゃ!」
石を集めながら、ルゥは周囲にも目を配る。
魔物の気配はない。
周囲にも、危険そうなものは見当たらない。
「大丈夫にゃ」
最後の石を運び終える。
「これで終わりにゃ!」
小さな依頼だった。
でも――。
自分で周囲を確認して、自分で判断して、最後までやり遂げた。
ルゥは少しだけ胸を張った。
ギルドへ戻る途中。
街道の向こうから、レオンが歩いてきた。
「お、ルゥ」
「レオンにゃ!」
「そっちも依頼か?」
「終わったにゃ!」
「俺も終わった」
二匹は少しだけ並んで歩いた。
「じゃあ、またな」
レオンが別れようとすると、ルゥが尋ねる。
「……また会うにゃ?」
レオンは振り返った。
「たぶんな」
そう言って、歩いていった。
ルゥは、その背中をじっと見つめた。
まだ、仲間じゃない。
ライバルなのかも分からない。
でも――。
自分とは違う冒険者がいる。
そのことを知っただけで、ルゥの世界は少し広がった気がした。
【夕方――月のひげ亭】
夕方。
月のひげ亭へ戻ったルゥは、扉を開ける。
「ただいまにゃ!」
「おう、おかえり!」
バルドの声が返ってくる。
ルゥは今日出会った猫のことを思い出した。
レオン。
自分とは違う冒険の仕方をする猫。
「また会うかもしれないにゃ」
そう呟いて、ルゥは尻尾を揺らした。
そして冒険者カードを眺める。
Lv4。
「ルゥも、もっと強くなるにゃ」
次は、どんな依頼が待っているのだろう。
「明日も冒険するにゃ!」
ルゥは元気に尻尾を振った。
――第21話・おわり。




