第20話「はじめての難しい依頼」
【異世界生活10日目】
朝。
窓から差し込む光で、ルゥは目を覚ました。
「……朝にゃ」
昨日は、街道の枝を片付ける小さな依頼だった。
今日は――
「もう少し難しい依頼、やってみたいにゃ!」
ルゥは冒険者カードを確認する。
Lv4。
Fランク。
スキル――『見切り』。
少しずつだけど、できることは増えている。
「今日は、どんな冒険にゃ?」
ルゥは元気よく部屋を出た。
一階では、バルドが朝食を用意している。
「おう、今日は早いな」
「もっと難しい冒険をしてみたいにゃ!」
「ははっ。焦るなよ。ちゃんと考えてから選ぶんだぞ」
「分かったにゃ!」
朝食を終えたルゥは、冒険者ギルドへ向かった。
【少し難しい依頼】
エルニア冒険者ギルド。
「おはようございます、ルゥちゃん」
「おはようにゃ!」
ミーナに挨拶をして、依頼掲示板を見る。
その中に、少し気になる依頼があった。
『北の森・薬草群生地の確認』
森の奥にある薬草の群生地を確認し、指定された薬草を採取する依頼だ。
ただし――
群生地へ向かう道で、小型魔物の痕跡が見つかっている。
「……魔物の痕跡にゃ」
ルゥは依頼書をじっと見る。
ミーナが説明する。
「最近、この辺りで小型魔物の足跡が見つかっています。魔物を倒す依頼ではありませんから、危険を感じたらすぐ戻ってくださいね」
「分かったにゃ」
ルゥは少し考えた。
そして――
「見つけても、追いかけないにゃ」
ミーナが優しく笑う。
「はい。それが一番大切です」
「この依頼、やってみるにゃ!」
【北の森へ】
北の森。
木々の間を進みながら、ルゥは周囲を注意深く観察していた。
「道は……こっちにゃ」
目印になる大きな木。
曲がった枝。
そして、以前確認した道標。
今までの冒険で覚えたことが、少しずつ役に立っている。
しばらく進むと――
「……にゃ?」
地面に、小さな足跡があった。
ルゥは立ち止まる。
近づきすぎず、じっと見る。
「小さいにゃ……」
さらに周囲を確認する。
木の幹には、低い位置に引っかいたような跡。
「魔物の足跡かもしれないにゃ」
ルゥは少し緊張した。
でも、追いかけない。
「依頼は魔物を探すことじゃないにゃ」
そう判断すると、足跡から離れて先へ進んだ。
【薬草群生地】
森の奥。
開けた場所に出ると、緑の葉がたくさん広がっていた。
「ここが群生地にゃ!」
ルゥは依頼書を確認する。
指定されているのは、葉の形が特徴的な薬草。
「……これにゃ?」
一つ手に取る。
でも、よく見ると葉の形が少し違う。
「違うにゃ」
次を探す。
葉の形。
茎の特徴。
周囲の生え方。
一つずつ確認していく。
「これにゃ!」
指定された薬草を見つけた。
必要な分だけ、丁寧に採取する。
そのとき――
ガサッ。
茂みが揺れた。
ルゥの耳がぴんと立つ。
「……!」
一瞬、身構える。
けれど、飛び出してくるものはない。
ルゥは、すぐには近づかなかった。
「……何かいるかもしれないにゃ」
以前のルゥなら、好奇心のまま覗きに行っていたかもしれない。
でも今は――
「依頼は終わったにゃ。帰るにゃ!」
ルゥは周囲を確認しながら、その場を離れた。
【一歩進んだ冒険者】
ギルドへ戻ったルゥは、採取した薬草と確認結果をミーナへ渡した。
「はい、確かに確認しました。薬草も、指定されたものですね」
「よかったにゃ!」
ミーナは依頼書を確認してから、笑顔になった。
「魔物の痕跡を見つけても、追いかけなかったんですね」
「うんにゃ。危ないかもしれないから、離れたにゃ」
「それで正解です」
ミーナから報酬を受け取る。
報酬は90G。
ルゥは冒険者カードを確認した。
所持金――650G。
大きな変化はない。
レベルも、まだ4。
スキル『見切り』も変わらない。
それでも――
ルゥは、以前とは違う自分に気づいていた。
魔物の痕跡を見つけても、むやみに近づかなかった。
危険を感じたら、離れることができた。
「ちょっとだけ、冒険者らしくなったにゃ?」
ミーナが笑う。
「はい。とても」
【夕方――月のひげ亭】
夕方。
ルゥは月のひげ亭へ戻ってきた。
「ただいまにゃ!」
「おう、おかえり!」
いつもの声が返ってくる。
ルゥは今日の冒険を思い返した。
薬草を見つけた。
魔物の痕跡も見つけた。
そして――
危険を感じたから、追わずに帰ってきた。
強くなることだけが、冒険者の成長じゃない。
何をするか。
そして――
何をしないか。
それを自分で選べることも、力なのだ。
「前より、ちゃんと考えられるようになったにゃ」
バルドが笑う。
「それなら、また一歩進んだってことだな」
ルゥは嬉しそうに尻尾を揺らした。
「明日は、もっと難しいことにも挑戦できるかにゃ?」
そう呟いて、夕食の席へ向かう。
その頃――
エルニア冒険者ギルドでは、ひとりの冒険者が依頼掲示板を眺めていた。
まだ、ルゥは知らない。
この出会いが――
新しい冒険の始まりになることを。
――第20話・おわり。




