第18話「はじめてのスキル」
【異世界生活8日目】
朝。
月のひげ亭の窓から差し込む光で、ルゥは目を覚ました。
朝食を終えたルゥは、冒険者証を前足でそっと押さえる。
昨日、初めて魔物を倒した。
そして――新しい力を手に入れた。
「見切り」
「相手の動きを見て、攻撃のタイミングを予測しやすくする……にゃ」
ルゥは冒険者証を見つめながら、少し考える。
これまで、ツノウサギの動きを見ながら、畑の外へ誘導した。
森で魔物と出会い、その動きを観察した。
荷車を守るため、グレイファングを誘導した。
そして昨日は――その経験を使って、初めて魔物を倒した。
「……見てきたから、できるようになったのかにゃ?」
ルゥは自分の前足を見る。
「だったら……今日は、試してみたいにゃ!」
ルゥは元気よく月のひげ亭を飛び出した。
冒険者ギルド
ギルドに到着すると、ミーナがいつものように依頼書を整理していた。
「おはよう、ルゥちゃん。昨日は初めての討伐、お疲れさま」
「昨日、ルゥは魔物を倒したにゃ!」
「うん。ちゃんと覚えてるわよ」
ミーナは笑顔でルゥを見る。
「今日はどんな依頼にする?」
ルゥは依頼書を眺める。
その中から、一枚を選んだ。
『街道近くの森の小道を確認してほしい』
最近、その小道の近くで小型魔物が目撃されているらしい。
「危険だと思ったら、すぐに戻ってきてね」
「わかったにゃ!」
ルゥは依頼書を受け取り、森へ向かった。
森の小道
街道から少し離れた森。
ルゥは小道を歩きながら、周囲を注意深く観察していた。
昨日までとは、少しだけ景色の見え方が違う。
風で揺れる草。
木の葉の動き。
地面に残された小さな足跡。
「まずは、よく見るにゃ……」
そのとき――
ガサッ!
ルゥの耳がピンと立った。
前方の茂みが揺れる。
何かいる。
ルゥはすぐには近づかず、その場でじっと待った。
すると――
小型の魔物が茂みから飛び出してきた!
「来るにゃ!」
魔物が地面を蹴る。
その瞬間。
ルゥには、ほんの少しだけ相手の動きが先に見えた。
「……こっちにゃ!」
ルゥは横へ跳ぶ。
魔物の爪が、ルゥのいた場所をかすめていった。
「当たらなかったにゃ!」
ルゥは驚いた。
昨日までなら、攻撃が来てから避けていた。
でも今は――
相手が動く瞬間を見て、先に動けた。
「これが……見切りにゃ!」
戦わないという選択
魔物は再びこちらを向いた。
ルゥは身構える。
でも、すぐには攻撃しなかった。
昨日の戦いを思い出す。
自分の力。
相手の強さ。
そして――安全な方法を選ぶこと。
「……無理に倒さなくてもいいにゃ」
ルゥは距離を取った。
魔物が追ってくる。
ルゥは横へ逃げながら、相手の動きを観察する。
右。
左。
そして、また突進。
「今なら……!」
ルゥは横へ大きく避けた。
魔物は勢い余って、そのまま茂みの向こうへ走っていった。
「ふぅ……」
ルゥは胸を撫で下ろす。
「見切りがあっても、全部分かるわけじゃないにゃ」
でも――
「ちょっとだけ、動きが分かるにゃ!」
ルゥは嬉しそうに笑った。
ギルドへ帰還
依頼を終えてギルドへ戻ると、ミーナが報告を聞いてくれた。
「魔物がいたけど、戦わずに安全に離れたのね」
「見切りを使ってみたにゃ!」
ルゥは今日の出来事を嬉しそうに話す。
「昨日までは、攻撃が来てから避けてたにゃ。でも今日は――ちょっとだけ、先に分かったにゃ」
ミーナは優しくうなずいた。
「それは大きな一歩ね」
「一歩……にゃ?」
「うん。スキルを覚えただけじゃなくて、実際に使ってみて、どう役立つのか分かったんだもの」
ルゥは冒険者証を見る。
スキル:見切り
昨日までは、ただそこに書かれているだけだった。
でも今は違う。
昨日まで積み重ねてきた経験が、今の自分につながっている。
「もっと上手に使えるようになりたいにゃ!」
「その調子よ、ルゥちゃん」
依頼報酬として80Gを受け取り、
所持金は、
660G → 740Gになった。
その日の夜
月のひげ亭へ戻ったルゥは、自分の部屋で冒険者証を眺めていた。
昨日は魔物を倒した。
今日は、その経験から生まれた「見切り」を使った。
まだまだ小さな力。
でも――確かに昨日とは違う。
「ルゥ、少しずつ強くなってるにゃ……」
窓の外では、エルニアの街に明かりが灯っている。
ルゥは冒険者証を胸元に抱えた。
「明日は、どんな冒険が待ってるかにゃ?」
その答えを知るのは、もう少し先。
そして翌朝――
月のひげ亭で、ルゥは宿代の支払いについて、新しい話を聞くことになる。
第18話・おわり。




