第14話「はじめての護衛」
【異世界生活4日目】
翌朝。
ルゥは、いつものようにエルニア冒険者ギルドへ向かっていた。
昨日は、いつもより遠い森まで行き、道標を確認する依頼をやり遂げた。
少しずつだけど、自分で考えて行動できるようになってきた気がする。
「今日は、どんな依頼があるかにゃ?」
ルゥは依頼掲示板を見上げた。
その中で、目に留まったのは――
『荷車を街道まで護衛してほしい』
という依頼だった。
「護衛……にゃ?」
依頼書を手に取り、ミーナのところへ向かう。
「ミーナ、この依頼やってみたいにゃ!」
「護衛ですか?」
ミーナは依頼書を確認すると、ルゥに説明した。
「荷車を街道まで無事に送り届ける依頼です。途中で危険なものが出ても、無理に戦わなくて大丈夫ですよ」
「戦わなくてもいいにゃ?」
「はい。大切なのは、荷車を安全に目的地まで届けることです」
ルゥは依頼書を見つめた。
倒すことだけが冒険じゃない。
依頼を達成するために、どう動くか。
それも冒険者の仕事なのだ。
「わかったにゃ! やってみるにゃ!」
しばらく歩くと、待ち合わせ場所に荷車が見えてきた。
荷車を引いていたのは、小さな商人猫だった。
「よろしく頼むよ」
「まかせるにゃ!」
ルゥは荷車の少し前を歩きながら、周囲を見渡した。
右。
左。
草むら。
木の陰。
これまでなら、前だけを見て歩いていたかもしれない。
でも今日は違う。
護衛する相手がいる。
だから、いつもより周りをよく見る。
「こっちは大丈夫にゃ」
荷車がゆっくり進んでいく。
そのとき――
ガサッ。
「……にゃ?」
道の脇の草むらが揺れた。
ルゥは足を止めた。
「なんかいるにゃ……」
次の瞬間。
草むらから飛び出してきたのは――
灰色の小さな魔物、グレイファングだった。
「にゃっ!」
グレイファングが荷車へ向かって走り出した。
「危ないにゃ!」
ルゥは身構える。
けれど――飛びかからない。
魔物の動きを見る。
荷車との距離。
道の広さ。
そして、自分が逃げられる場所。
考える。
「……こっちにゃ!」
ルゥは荷車とは反対方向へ走った。
グレイファングの視線がルゥを追う。
「こっちに来るにゃ!」
グレイファングが方向を変え、ルゥへ向かってくる。
ルゥは走りながら、後ろをちらりと見る。
荷車は、少しずつ先へ進んでいる。
「もうちょっとにゃ……!」
グレイファングが飛びかかってきた。
ルゥはタイミングを合わせて横へ跳ぶ。
「にゃっ!」
グレイファングは、そのまま通り過ぎていった。
ルゥはすぐに立ち上がる。
追いかけない。
戦わない。
もう一度、魔物との距離を取る。
その間に――荷車は少しずつ先へ進んでいく。
「よし……!」
ルゥはグレイファングが荷車へ戻らないことを確認すると、ゆっくり後ろへ下がった。
やがてグレイファングは、森の方向へ走り去っていった。
「……行ったにゃ」
しばらくして。
荷車は無事に街道へ到着した。
「助かったよ。ありがとう」
商人猫が笑う。
「荷車、無事に着いたにゃ!」
ルゥも嬉しそうに尻尾を揺らした。
ギルドへ戻ると、受付のミーナが声をかけてくれた。
「お疲れさまでした、ルゥさん。無事に届けられたんですね」
「魔物が出たけど、戦わなかったにゃ!」
「それでいいんですよ」
ミーナは優しく笑った。
「今回のルゥさんは、ちゃんと周りを見て、安全な方法を選べましたね」
「安全な方法……」
ルゥは少し考えた。
初めて魔物と向き合ったときは、攻撃を避けるだけで精一杯だった。
昨日は、相手の動きを見て、自分で道を選んだ。
そして今日は――
自分だけじゃなく、誰かを守るために考えて動いた。
「……ルゥ、ちょっとずつ冒険者になってるにゃ!」
「そうですね」
ミーナは嬉しそうにうなずいた。
今回の報酬は――90G。
ルゥのお金は、
340G → 430Gになった。
「これで、また次の冒険に行けるにゃ!」
ギルドを出たルゥは、月のひげ亭へ向かって歩き始める。
夕暮れのエルニア。
今日も、いろんなことがあった。
魔物が出た。
初めて誰かを守るために動いた。
そして――自分で考えて、依頼をやり遂げた。
ルゥは、歩きながら小さく笑った。
「もっと、いろんなことができるようになりたいにゃ」
その気持ちは、昨日より少しだけ強くなっていた。
ルゥは小さな前足を、ぎゅっと握る。
「次は、もっとできるようになるにゃ!」
今日の経験もまた――
こねこ冒険者・ルゥの、新しい一歩になった。




