第13話「いつもより少し遠くへ」
【異世界生活3日目】
朝のエルニア冒険者ギルド。
ルゥは今日も、依頼掲示板の前に立っていた。
レベル2になったばかりだ。
でも――
「そろそろ、もう少し難しい依頼にも挑戦したいにゃ!」
ルゥは掲示板をじっと見つめる。
薬草採取。
荷物運び。
街のお手伝い。
そして、その中に――
『森の道標を確認してほしい』
という依頼書があった。
「道標……?」
依頼内容は、エルニアから少し離れた森にある三つの道標を確認すること。
これまでの依頼より、少し遠い場所だ。
「これ、やってみたいにゃ!」
ルゥが依頼書を手に取ると、ミーナがやってきた。
「その依頼を受けるんですか?」
「うんにゃ!」
ミーナは依頼書を確認する。
「いつもの森より少し遠い場所ですよ。道に迷わないように、周りをよく見て進んでくださいね」
「分かったにゃ!」
ルゥは胸を張る。
「もうレベル2にゃ! ちゃんとできるにゃ!」
ミーナは優しく笑った。
「それなら、気をつけて行ってきてくださいね」
「行ってくるにゃ!」
エルニアを出て、ルゥは森へ向かった。
いつも行っている森より、少し遠い。
歩いているうちに――
「……この道、初めて通るにゃ」
見慣れた景色が、少しずつ変わっていく。
大きな木。
曲がった岩。
小さな川。
ルゥは周りを見ながら歩いた。
「ちゃんと覚えておくにゃ」
いつもより遠くへ行くなら、帰り道も覚えておかなくてはいけない。
ルゥは一つひとつ、目印を確認しながら進んでいった。
やがて――
「あったにゃ!」
一本目の道標を見つけた。
「壊れてないにゃ!」
ルゥは依頼書を確認しながら、道標の状態をしっかり確かめた。
「次は二つ目にゃ!」
しばらく進むと――
「……あれ?」
道が二つに分かれていた。
「どっちに行くにゃ?」
ルゥは立ち止まった。
右の道。
左の道。
依頼書には、二つ目の道標までの詳しい道順は書かれていない。
「うーん……」
ルゥは周りを見回す。
すると――
「あっ!」
地面に、小さな木の杭が並んでいる。
「道標の方向を示してるのかにゃ?」
ルゥは杭を一つずつ確認した。
右の道には、杭がない。
左の道には、少し離れた場所にもう一本。
「こっちにゃ!」
ルゥは左の道を進んだ。
しばらくすると――
「あったにゃ!」
二つ目の道標を発見した。
「やったにゃ!」
ルゥは嬉しそうに尻尾を振った。
残るは三つ目。
けれど――
三つ目の道標は、二つ目よりさらに奥にある。
「ちょっと遠いにゃ……」
ルゥは少しだけ不安になった。
でも、すぐに前を向く。
「ここまで来たんだから、最後までやるにゃ!」
一歩。
また一歩。
森の中を進んでいく。
すると――
ガサッ。
「……!」
ルゥの耳がピンと立つ。
草むらが揺れた。
「魔物……かにゃ?」
ルゥは立ち止まり、じっと様子を見る。
すると――
ぴょんっ!
小さなツノウサギが飛び出してきた。
「……ツノウサギにゃ!」
第10話で出会った魔物だった。
あのときは、突進してくるツノウサギを必死に避けた。
でも――
今のルゥは、あのときとは少し違う。
「大丈夫にゃ……」
ルゥは距離を取る。
ツノウサギの動きを、じっと見る。
身を低くした。
「来るにゃ!」
ダッ!
ルゥは慌てず、横へひらり。
ツノウサギは、そのまま走り抜けていく。
「……避けられたにゃ!」
前よりも、動きがよく見えた。
「前より、ちゃんと動けたにゃ!」
ツノウサギは、そのまま森の奥へ逃げていった。
ルゥは追いかけなかった。
「依頼を先に終わらせるにゃ!」
そして――
森の奥で、三つ目の道標を見つけた。
「あったにゃ!」
道標を確認する。
問題なし。
「これで全部にゃ!」
ギルドへ戻ると、ミーナが迎えてくれた。
「おかえりなさい、ルゥさん」
「三つとも確認してきたにゃ!」
ルゥは依頼の結果を報告する。
「初めて行く場所だったのに、ちゃんと道を覚えて帰ってこられたんですね」
「途中でツノウサギにも会ったにゃ!」
「まあ」
ミーナが少し驚く。
「でも、ちゃんと依頼を優先して戻ってこられたんですね」
「うんにゃ!」
ルゥは胸を張った。
「前なら、もっと慌ててたかもしれないにゃ」
ミーナは嬉しそうに笑った。
「それも立派な成長ですよ」
今回の報酬は――
80G。
現在の所持金は260G。
今回の報酬を合わせて――
340G。
「340Gになったにゃ!」
ルゥは嬉しそうに冒険者証を見る。
月のひげ亭へ戻る道。
ルゥは今日の冒険を思い出していた。
初めて行く場所。
分かれ道。
そして――
ツノウサギ。
少し前なら、怖くて慌てていたかもしれない。
でも今日は違った。
「ちゃんと考えて、動けたにゃ」
レベルが上がった。
少しだけ強くなった。
そして――
冒険者としての経験も、少しずつ増えている。
「もっといろんな依頼、できるようになりたいにゃ!」
ルゥは夕暮れのエルニアを歩いていく。
まだFランク。
まだまだ新人。
それでも――
昨日より、ほんの少しだけ前へ進んだ。
こねこ冒険者の次の一歩は、今日も小さい。
でも、その一歩は確かに未来へ続いていた。
――第13話・おわり。




