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二階は、私たちにとって最も重要な「作業室」と「商品ストック倉庫」のフロアだ。
ここも私の緻密な設計思想が完璧に反映されていた。フロアの半分は私の裁縫スペース。大きな裁断用のテーブルがあり、窓際の最も光が入る特等席には、あの高価な「透過式線維接合機」が鎮座している。壁面には色とりどりの糸や布地を収納するための細かな棚が造り付けられていた。
そして、フロアのもう半分は、カシウス専用の「家具作り・木工作業スペース」である。
カシウスは剣術だけでなく、手先が非常に器用で、店舗で使うディスプレイ用の小物や、ちょっとした木の家具なら彼が作ってしまうのだ。しかし、木工作業はどうしても木屑や粉塵が出る。私の扱うデリケートな布地にそれが付着するのを防ぐため、二つのスペースの間には、透明な魔法ガラスの防塵パーティションが天井までしっかりと設置されていた。互いの作業風景を見ながらコミュニケーションを取れる(私が見たいだけ)が、物理的な干渉は完全に防げる完璧な間取りだ。
「これなら、木屑を気にせずに思う存分作業ができますね。私のための場所まで、こんなに立派に整えていただいて……ルキア様、本当にありがとうございます」
カシウスは真新しい作業台の滑らかな表面を撫でながら、嬉しそうに目を細めた。
「カシウスの作る什器は最高だからね。これからも期待してるわよ」
正直言うと、カシウスが作っているところは、数回しか見たことがなく、それも少しだけだった。
裁縫している間、アパートでは、壁の向こう側。
作業を見ていたけど、私にも裁縫の仕事があり、無理だったのだ。これからは心置きなく、カシウスの作業を見れる!
さらに私たちは、再び一瞬の昇降機移動を経て、三階の住居フロアへと上がった。
三階は、私たちのプライベートな生活空間である。以前のアパートは、増える家電や商品在庫、作業スペースなどで生活空間が狭くなり、常に布地や在庫に囲まれて寝食をしているような状態だった。しかし、増床して丸々ワンフロアを住居に充てたことで、驚くほど広大な空間が生まれていた。
広いリビングダイニング、設備の整った最新の工学キッチン、そしてゆったりとした憧れの大きなジャグジーバスのあるお風呂。私とカシウスのそれぞれの個室も、十分すぎるほどの広さが確保されている。
「……なんだか、二人暮らしでは広すぎるぐらいね」
私は広々としたリビングの真ん中で、ぐるりと見回しながら呟いた。
「そうですね。ですが、これだけの空間があれば、心身ともにゆとりを持って生活できるはずです。以前の屋敷の広さを思えば、コンパクトですが」
「そうだった! あれは二人では無駄に広すぎたわね」
そんな会話をしていると、奥の部屋から内装の最終仕上げを行っていた職人たちが出てきた。
「おお、ルキアさん! ちょうどいいところに来てくれましたね。内装の仕上げ、今しがた全部終わったところです!」
棟梁らしき恰幅の良いドワーフの男性が道具を持って話しかけてきた。
「皆様、約一ヶ月間、本当にありがとうございました。おかげで想像以上の素晴らしいお店になりました」
私は深々と頭を下げ、労いの言葉を掛けた。
「今日は最終日ということで、ささやかですが、皆様に私からプレゼントがあります。どうかこれを受け取ってください」
私がバッグから取り出したのは、真新しいタオルの束だった。
ただのタオルではない。吸水性と肌触りにこだわった綿素材を使用し、その端にはドワーフミシンで精巧な刺繍が施されている。
刺繍のデザインは、ヘルメットを被り、小さなハンマーとノコギリを手にした「大工の格好をしたペンギン」だった。今回の建設工事に携わってくれた職人たちへの、私なりのリスペクトと感謝を込めた限定の非売品デザインである。
「こ、これは……ッ!!」
タオルを受け取った棟梁は、刺繍を見た瞬間、目を見開き、ワナワナと震え出した。
他の職人たちもタオルを覗き込み、次々と息を呑む。
「おおお……! 聖鳥が、我々と同じ大工の御姿に……!」
「なんというありがたさ……! 聖鳥が我々の労働を祝福してくださっているぞ!」
「家宝にする! いや、額縁に入れて工房の神棚に飾ろう!!」
筋骨隆々のいかつい職人たちが、ペンギンのタオルを両手で恭しく掲げ、ある者は涙ぐみ、ある者は天に向かって拝み始めた。
(……聖鳥って。流石、本物の神様や魔法が実在する世界なだけあって、みんな信心深いわね。ただのデフォルメしたペンギンのキャラクターなんだけど……。でも今更か)
私は顔を引きつらせないように必死に笑顔を保ちながら、心の中で激しくツッコミを入れた。ペンギンがこの国で「幸運を運ぶ聖なる鳥」として神格化されつつあるという噂は飽きるほど聞いていたが、実際に当事者として目にすると一味違うというか、まさかここまでとは。だが、彼らが喜んでくれているのなら結果オーライである。
職人たちを盛大に見送った後、私はこの建物における、私個人の最大のこだわりポイントへと向かった。
三階の廊下の奥にある階段を上り、重厚な扉を押し開ける。
そこは「屋上」だった。
「わあぁぁ……!」
一歩踏み出した瞬間、吹き抜ける風が私の髪を激しく揺らした。
屋上の床と周囲を囲む低い壁も、外壁と同様に落ち着いたバーントアンバー色で統一されている。
実は、この屋上のデザインを決める際、私は前世の知識(というより、薄っぺらいリゾートのイメージ)を振りかざして、大失敗しそうになっていたのだ。
当初、私は「屋上はリゾートっぽく、真っ白な壁にしよう! 床もキラキラのクリスタルを敷き詰めて、ラグジュアリーな空間にするの!」と息巻いていた。
しかし、それを聞いた職人たちは一斉に青ざめ、反対したのである。
『オーナーさん、正気ですか!? 白い外壁なんて、この王都の土埃ですぐに黒ずんで、一番汚れが目立ちます』
『床に聖堂のようなクリスタル!? 冗談でしょ!? 直射日光を反射して目が潰れますよ! しかも熱を吸収して、床で目玉焼きどころか、肉が焼ける温度になります! 屋上に立つだけで丸焦げになっちまう!』
専門家たちの容赦ない、しかし的確すぎる指摘に、私はぐうの音も出なかった。
前世のテレビで見たリゾート地は、常に専属の清掃員がいて、特別な素材が使われているからこそ成立するのだ。個人の店舗の屋上でそれをやれば、地獄のオーブンと化すだけである。しかもここは異世界。私の浅知恵は危険極まりない。
私はおとなしく職人たちのプロフェッショナルな助言に従い、カシウスと一緒にカラーサンプルを何時間も睨み合い、汚れが目立たず、光を反射しすぎず、かつ洗練されて見える「バーントアンバー」を選んだのだった。今思えば、あの時の彼らの助言には感謝しかない。




