ビジネスの行方
「うん、悪くない。ちゃんとマスコットっぽくなったわ。あとは……ヒトデなんかもいいかもしれない」
ヒトデは星の形をしているので、デザインに取り入れやすい。黄色やピンクのパステルカラーで彩れば、お客の目を引く立派なアクセサリーのモチーフになるはずだ。
デザインの方向性が大方決まったところで、今度は具体的な「商品」の選定だ。
私が最初に販売して成功を収めたのは、手のひらサイズのミニ動物シリーズだった。そこから少し改良を加え、カバンなどにつけられるキーホルダー型や、少し大きめの抱き枕サイズのぬいぐるみも販売した。さらに実用性を求めて、化粧品や小銭を入れるポーチ、簡単なヘアアクセサリー(シュシュやリボン)なども展開し、手堅い売上を記録してきた。
「新しいジャンルの商品としては……料理関係がいいかもしれないわね」
天井のファンを眺めながら、万年筆であごを軽くトントンと叩く。
私は麻紙の空いたスペースに、生活雑貨のスケッチを描き始めた。
まずは手軽に作れるコースターから始めて、鍋を掴むためのミトン、そして……エプロンなんかもいいかもしれない。
このルーメン国において、エプロンというものは単なる「汚れ除けの布」という認識でしかなかった。使用人や料理人が身につける、無骨で頑丈なだけの白い麻布。そこに「おしゃれ」を求める文化は存在しない。しかし、ロマーナさんが美容ブームを起こしたように、この国の人々も「生活の中に美しさを取り入れる」ことの喜びに目覚め始めている。
「ただのエプロンとして売るんじゃダメね。…………そうだ!『クッキングドレス』って名前で売り出せば、若い奥様や令嬢たちにも売れるかもしれない!」
料理をする時でも美しくありたい、という願望を形にするのだ。裾に刺繍をあしらったり、背中で大きなリボンを結ぶような少しモダンなデザインを取り入れる。もちろん、本来の目的である汚れを防ぐために、生地は厚手で撥水性のある頑丈なものを選び、機能性とファッション性を高い次元で両立させるのだ。
「うんうん、いいわね。絶対にいける」
私はワクワクしながら、色々なデザインのクッキングドレスを描き殴った。
もしこれをメイン商品に据えるとしたら、生産体制はどうなるだろうか。
「私一人で……一日10着は作れるかな? いや、もっといけるかもしれない」
私がそう強気になれるのには、明確な理由があった。
それは、部屋の片隅で鈍い金属光沢を放っている機械――古代ドワーフの機械を現代の技術で大体復元したものを販売する専門店で、大枚を叩いて購入した「透過式線維接合機」、すなわち前世で言うところの「ミシン」の存在である。
手縫いでチクチクと布を縫い合わせていた時から比べれば、このなんちゃってドワーフ製ミシンがあるのとないのとでは、作業効率が文字通り桁違いなのだ。
しかも、このミシンには驚くべき機能が備わっていた。
魔石に記録された図面データを読み込ませることで、自動で指定の刺繍を施してくれる「自動刺繍機能」付きなのである。私がペンギン柄の小物を大量生産できたのは、手縫いではなく、この機械が正確かつ高速でペンギンを布地に描き出してくれたおかげだった。
しかし、この夢のような機械は、ベラぼうに高かった。
なんと、300金貨もしたのだ。一般的な家族が、何年も働かずに暮らせるほどの大金である。改修工事の資金と合わせて、私の貯金は一時的にかなり心許ない状態になったが、これは未来への投資だと割り切った。
ただし、この古代ドワーフ製ミシンは、前世のミシンとは少し勝手が違った。
なんと「針」が無いのである。
スイッチ、ではなく歯車を回すと、機械の先端から半透明の青い光の帯――魔力の糸のような物体が真っ直ぐに伸び、それが布地を透過しながら、瞬時に繊維同士を分子レベルで接合(縫合)していくのだ。
初めて使った時は、指まで接合されてしまうのではないかとヒヤヒヤして、本当に怖かった。今でも使う時は少し緊張するが、慣れればこれほど頼もしい相棒はいない。縫い目は絶対にほつれないし、布の厚さに関係なく滑らかに縫い進めることができるのだから。
これを使って量産するなら……今まで週3日だった開店日を、思い切って週2日に減らして、商品製作に費やす時間を増やした方がいいかもしれない。
メモをどんどん追加していく。
「うーん」
私はスケジュール帳を見ながら呟いた。
せっかく店舗が大きくなるのだから、品切れで棚がガラガラというのは、どうにも避けたい。
やっぱり自営業のいいところは、こういう風に、自分のペースや状況に合わせて、ある程度スケジュールを柔軟に考慮できる点だろう。雇われの身であった前世では考えられない自由だ。
そうやって、充実感に満ちた頭で仕事の計画を練っていると、ふっと、甘酸っぱくも温かい、りんごの良い香りが部屋に漂ってきた。
「お疲れ様です、ルキア様。少し休憩してくださいね」
振り返ると、カシウスがお盆を持って立っていた。
お盆の上には、私の一応お気に入りのペンギンマグカップが二つ乗っており、そこから湯気と共にりんごの香りが立ち上っている。カシウスが淹れてくれたのは、カシウスの故郷の味。手作りのホットアップルドリンクだった。
カシウスは少し照れくさそうに微笑み、私の向かいの椅子に静かに腰を下ろした。
「ありがとう、カシウス。いい香り……あ! それ、もしかして昼間ロマーナさんにいただいた新しいお茶?」
「はい。ルキア様が帰宅と同時に、あれだけ興奮してオススメされるので、どうしても気になって眠れなくて。夜分ですが、少しだけ淹れさせていただきました。ホットアップルと合うかどうかはわからないのですが」
「また〜♪ 眠れないなんて大げさね」
「ハハハ、本当ですよ。ルキア様が美味しいと絶賛するものは、私の舌も必ず満足させてくれますから」
私たちの間に、穏やかで甘やかな空気が流れる。
私たちはそれぞれペンギンマグカップを手に取り、熱いホットアップルで少し喉を潤した。ポットから注いだ例のエルフ大陸・ティル・ナ・ノーグのお茶を口に含んだ。
「どう? 美味しいでしょ?」
私は自信満々に尋ねた。




