神に認められぬ巫女(4)
「実菜穂、どうしたの?」
陽向が心配そうに実菜穂の様子を気遣った。
「黒い巫女見習い⁈ それがどうしたんだ?」
「あの見習いの巫女の子を見た瞬間、叶さんは本当に変わってしまった。怒り、憎悪、執念……全てが混ざり合って、凄まじい力を持った巫女となってあの子に襲い掛かろうとした……。あの圧倒的な力は、今の私じゃ止められなかった……叶さんがどうしてあの子をそこまで憎んでいるのか……もし叶さんが叶夢優衣だっていうのなら、もしかしたらあの子が……これって安易な発想かな」
隼斗の問いかけに対し、実菜穂は胸の中で感じていたことを素直に語った。
「そうでもないよ。実菜穂は、ただ頭で考えたんじゃない。心で直接感じ取ったんでしょ。叶さんの中に隠されていた目には見えない何かを……」
陽向が実菜穂の身体の震えを優しく受け止め、寄り添い落ち着かせた。
「私……叶さんよりも、あの子の心に触れたのかもしれない。だから、叶さんを止めたんだ」
陽向の温もりに触れて落ち着きを取り戻した実菜穂が、確信を込めて呟いた。
「おい、さっきから言ってる黒い巫女見習いって、小学生くらいの女の子か?」
隼斗の問いかけに、実菜穂と陽向は深く頷いた。
「えっ? どうして隼斗が知ってるの?」
霞が目を丸くして、驚きの声をあげる。
「ああ、俺も偶然だがな。空港で物の怪に遭遇したんだ。結構やばい奴だったんだが、黒い巫女衣装を着た女の子が「あっ」という間に片付けやがった。かなりのやり手だと思ったぜ……叶夢優衣の敵役ってことは考えられるが、三年前ならその子は小学校の低学年くらいだろ? いくらなんでもそんなガキが『猫又』を倒せるのか?」
隼斗の疑問は、実菜穂の思考を着実に確信へと導いていた。
実菜穂は、ゆっくりと口を開いた。
「叶さんに狙われている時のあの子……戦う力は持っていながら、心は小さな子供そのものだった。身を硬くしてただ怯えているの。ううん、違う。まるで大好きなお母さんを怒らせてしまったかのように、絶望に打ちひしがれていた……。きっとあの子は、叶さんが『叶夢優衣』だってことを知っていたんじゃないかな……」
「おいおい、そいつは俺の質問の直接的な答えになってないぜ。まあ、叶の正体を知っていたというのは何か含みがあるな。その線、もう少し探ってみるか」
隼斗が納得して深く頷くと、再びストローを口に咥えた。
「隼斗さん。確かにあの子は巫女見習いです。ただ『見習い』というのは、正式に仕える神様が決まっていないというだけで、素質と血の滲むような鍛錬次第で絶大な力を持つことは十分可能です。たとえ小さな子供であっても例外ではありません。静南さんがそうでした」
「血の滲むような鍛錬か……たしかに……あいつ正式な巫女でもないのに、とてつもない力を持ってたもんな。なら、ガキでも『猫又』を仕留める力もあったと考えられるのか……くそっ、面白くなってきたな」
陽向の説得力のある説明に深く頷くと、ニヤリと笑いながらサッと席を立ち上がった。
「面白くなってきたって、他人事みたいに言わないでよ!」
霞がプクッと頬を膨らませて不満を口にした。隼斗はその表情を見て、楽しそうに笑い声をあげた。
「そういうつもりじゃないさ。俺自身、心底知りたくなったんだよ。まだ全体像は見えないが、巨大な何かが裏で動いている気がする。この眼の力を俺にくれた神が、そう囁いているんだ。それに……なぜ俺にこんな力を与えたのか知りたいしな。まあ、何か掴めばまた連絡するよ」
そう言い残して去ろうとする隼斗を、霞は思わず呼び止めた。
「隼斗、絶対に無理はしないでよ。何かあったら、私がすぐに駆け付けるから!」
隼斗は振り返らずに軽く手をかざしてみせると、ファミレスを後にしていった。
同じ刻、夜空を一羽の純白の鶴が駆け抜けている。ファミレスを去る隼斗を見下ろしながら、ゆっくりと地上へと舞い降りていく。
宙で眩い光の粒子に包まれると、白のミニスカート、そして首に巻かれた黒い絣のスカーフを静かになびかせ、一人の可憐な少女がそこに佇んでいた。




