助ける巫女と拒む巫女(2)
少女はすぐさま起き上がろうとしたが、受けたダメージが大きかったのか、動きが鈍くなっていた。
緊迫した状況に、霞は全身に力を込め、今にも飛び出しそうな体制で固唾をのんだ。
ブルル ———!
再びスマホが震え、叶から新たなメッセージが表示された。
『姿を現さぬよう、一撃で仕留めてね(ニコニコマーク)』
場違いとも思える叶の笑顔マークの絵文字に思わず焦りを覚えたが、ゴーサインが出たことで霞は気づかれないように僅かな神気を放った。
「よし!」
白い羽手裏剣を右手の指の間に二本挟み込むと、半身を大きく捻り、勢いよく放った。一本目の羽は、巨体な雌のカマキリの背を穿ち、そのまま腹を突き破った。二本目は、小柄なオスの眼球を貫いた。
状況が掴めず困惑する少女だったが、突如として悶え苦しみだした化け物を見て、反撃のチャンスとばかりに二体に止めを刺した。
霞はそれを見届けると、「よしっ」と小声でガッツポーズを決め、その場から風のごとく姿を消した。
残された二体のカマキリの化け物は、黒いチリとなり次第にその姿を消していった。少女は、刀を浄めるように振り払い鞘に納めると、不思議そうな顔で周囲を見渡した。雲が晴れて月明りが戻り、静かな秋風が少女の髪を優しく撫でていった。
◇◇◇
「お疲れさーん」
つむじ風と共に姿を現した霞に、叶が声をかけた。叶の後ろでは、実菜穂と陽向も霞を迎えるように立っている。
とはいえ、彼女たちがいる場所は電波塔のてっぺんだった。公園が一望できるロケーションとしては最高であるが、おおよそ夜に人が来る場所ではない。
「はい、これで分かったでしょ。この時期、物の怪と戦っているのは私達だけじゃなくて、他の巫女たちもいるってこと。まあ、あの子は、見習いで本当なら所属している神社の本巫女が助けるはずだったんだけどね……」
叶がクイッと公園の方に顎をしゃくって「見てごらん」と促した。三人が霞のいた場所を見下ろすと、既に二人ほどの巫女姿の少女たちが集まっていた。
「霞ちゃんが助けなかったら、あの子すごく危なかったよね」
実菜穂が鉄の弓を抱えたまま、霞よりも興奮した様子で言った。
「ははは、確かにそうだったかもね。でも、こっちも大変だったのよ。実菜穂ちゃんがここからあの子を助けようとして弓を構え始めるから、陽向ちゃんと私で必死で止めてたんだから」
叶にからかわれて、実菜穂は顔を赤くしながら恥ずかしそうに弓を引っ込めた。
照れながらも安心した表情で胸を撫でおろす実菜穂を見ながら、霞はふと疑問を口にした。
「姿を現さずに助けさせたのは、『つるまない』ためですか?」
「そうだよ。もし、あなたが手を出して助けたって知れたら、あの子、本巫女から厳しく責められちゃうわね。下手したら神社を追い出されるかも」
「そんな……」
霞は何ともやるせない表情を浮かべ、電波塔の上から公園じっと見つめていた。




