3-2
昨夜と同じように、彼は手際よく朝食を並べ、流れるように椅子を引いて私を座らせる。
取り皿によそった料理を私の目の前に並べた後、そのまま後ろに下がろうとしたけど、
「座りなよ」
と、私が向かいの席を指すと、彼はぎこちなく、しかしすぐ立てるように浅く座った。
昨日の今日じゃ無理か。
そんな彼の目の前に、これまた昨日と同じく、私が一口だけ食べたパンと具を少なくしたスープを差し出す。
一応、病み上がりだからね。
胃に負担をかけさせないために、具は多めにいただきました。
けして意地悪とかじゃないよ?
「さっきも聞いたけど、体調はもう良いの?」
確かに昨夜貼り付けた『大きな葉っぱ』は大部分が剥がれている。
残っているのは首や手首、脇腹や太ももといった目立つ箇所くらいかな。
効きが良いのね。
「はい。ご主人様自ら手当てをしてくださったおかげです。本当にありがとうございました」
食事の手を止め、静かに頭を下げて礼を言ってくる。
――ん?
キミ、今、なんつった?
「いや、”貼り過ぎ注意”っていうのを忘れていた私が悪いんだけどね……ちなみに、昨日のことはどこまで覚えてる?」
「ご主人様手ずから食事をくださったところまでは覚えております。それ以降の事は……申し訳ありません」
――うん。
やっぱり”ご主人様”って言ってるよね?
聞き間違いではなかったのか。
「いや、謝ることじゃないからそれは良いんだけど……」
うーーん。
これはどうしたものか。
大きな器に残ったスープに浸したパンを咀嚼しながら考える。
言いたいことはある。
けど、とりあえず、ご飯が先かな。
昨夜みたいに途中で食べられなくなったら困るしね。
「――確認なんだけど。昨日のことはどこら辺から覚えてる?」
朝食後、彼が武骨なカップで出してくれたハーブティーをふーふーと冷ましながら尋ねてみる。
この集落にはティーカップという物は存在しないらしい。
いや、まぁ、飲めるからいいんだけどね。
「どこら辺、とは?」
「えーと……キミとは昨日、この集落の礼拝所で会ったんだけど、そのことは覚えてる?」
眉間に皺を寄せ、ものすごく真剣な表情で記憶を辿りながら、彼は答える。
「――…覚えているのは……ご主人様が私を洗う、とおっしゃってくださった辺りからでしょうか。それ以降のことは鮮明に覚えておりますが、それ以前のことを、とおっしゃるのであれば、正直に申し上げて、覚えておりません。申し訳ありません」
「いや、謝らなくて良いんだけど……」
そうか。
あんなに劇的な出会いだったのに、彼は覚えていないのか。
残念だけど、無理もない。
あの時のキミは死んだ目をしていたしね。
そうかー。
そこら辺から説明しないといけないのかー。
どうやって話そう。
私、説明苦手なんだよな……
「――っあのっ!」
「んー?何?」
「発言を、お許しいただいてもよろしいでしょうか?」
「どーぞー?」
姿勢を改め、緑の瞳を真っすぐ私に向けて、意を決したように口を開く。
「――ご主人様自ら、奴隷である私を洗ってくださり、キズの手当て、食事、更には寝床に至るまで、過分な温情を賜り、心から感謝の念に堪えません。このご恩に報いるためにも、これから誠心誠意尽くさせていただきたく……何卒、よろしくお願いいたしますっ」
深々と頭を下げて懇願にも近い挨拶をしてくる彼に、何とも気まずい視線を送る。
うわっ。言いづらいな。
「あ~~……それなんだけど、さ」
「はい」
「私……アナタの”ご主人様”じゃないのよね」
「――――……え?」




