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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第三章
53/53

3-3

「――…は……」

「は?」

「はつげんを……おゆるし、いただいても……よろしいでしょう、か……」

「どうぞ?あ。その前に訊いても良い?」

「は、はい……」

「昨日から気になってたんだけど、その、”発言を……”っていう前口上、何?」

「え――…?」

 私の質問に彼の目がきょとんとなる。

 この人は何を言っているんだろう?という目だ。

 すまないねぇ。

 本当に昨日から気になっていたんだよ。

 話したいことがあるなら話せばいいのにって。

 でも彼、この前口上を言わない限り、自分から発言はしてこないんだよね。

「……奴隷は、ご主人様の許可なく、発言をすることが、禁じられておりまして――」

 あーー、そーゆーことか。

 発言しないんじゃなくて、できないのか。

 え?そんなこともダメなの?

「ごめんなんだけど、私と話してる時はソレ、いいから」

「いい……とは?」

「”やらなくても良い”ってこと。ソレがあると会話が進まないんだもん。――で?」

 質問の続きを促すために、手のひらを軽く向けて「どうぞ」と示す。

「あ……はい――…その……”ご主人様ではない”というのは……一体、どういう意味、なのでしょうか……」

「言葉通りの意味だよ」

 私の顔色を窺うような彼をまっすぐ見つめながら。

 正直。それ以上でも以下でもないんだけどね。

 ハーブティーを一口飲んで落ち着く。

 彼にも勧めたけど、どうやらそれどころではないらしい。

「私は、昨日、この集落の神父さんからキミを契約書、それと鍵と一緒に押しつ……ん゛ん゛……預けられたの」

「預けられた……」

「あ。だからと言って、私はキミを奴隷扱いしないよ?そこは安心して良いからね?」

「あ、は……ぃ?」

 ゆーて何度も言うけど、奴隷の扱い方とか知らないしね。

「とは言っても、主人でもない私がキミを持っているわけにもいかないから、どうしようかな?って考えてたんだけど……」

 持っていたカップをテーブルの上に置き、両手で包んでゆっくりとくるくる回す。

「私――、用事があって、次の街に行かなくちゃいけないのよね」

「は、ぃ……」

「そこでキミを、ちゃんとした所に預け直した方が良いかなって思ってるんだけど……どうかな?」

 彼の目を見て小首を傾げる。

 そう。

 昨日、神父さんも言っていたではないか。

『奴隷商』――と。

 響きは悪い上に良い印象は全くないけれど、彼らは専門家だ。

 知識のない素人の私の手に負えないなら、まずは専門家に相談してみれば良いのだ。

「ど、ぅ……と、おっしゃっても……」

 確かに神父さんは「奴隷商も引き取らない程の……」と言っていたけど、ここまでキレイになったんだもの。

 文句はないでしょ。

「私としては、主人になる気もない人間が奴隷を持つっていうのも、変な話だと思うわけよ」

「いえ、主人になる気がない方も、奴隷をたくさんお持ちですが……」

「でも、そんな……やる気のない主人に仕えたくないでしょ?」

「いえ、やる気のない主人もたくさんおります」

「そうなの?でも、そもそも私、奴隷を持つ気はないし」

「え?」

 ……ん?

 彼、すっっごく驚いた顔してるけど、一体、どこに驚く要素があるかな?

「――…あの……質問を、お許しいただいても……」

「どーぞー?」

「主人になる気も、奴隷を持つ気もない、とおっしゃるのであれば――何故、私にそこまでしてくださったのでしょうか……」

「そこまで、とは?」

「私を洗ってくださいました」

「え?汚れてたら洗わない?」

「……」

 緊急時なら仕方がない。

 しかし、私は清潔好きな日本人。

 それ以外だったら一日二日が限界だ。

「で、では――キズの手当てをしてくださったのは……」

「――ケガしていたら、手当てするのは当たり前じゃない?」

 あんなに痛そうだったんだよ?

 化膿したらヤバいじゃん。

「食事を、与えてくださったのは……」

「あの状態で、私だけご飯食べるとか、私、そこまで意地汚くないよ?」

 そもそもあの量、一人じゃ食べきれなかったし。

「……」

「……」

 あれれ?

 私、変なこと言ったかな?

 彼、目を見開いて、すっごく、固まってるけど。

「――…ひ……」

「ひ?」

「ひどい……っ!ひどすぎます!!」

「どこら辺が?!」

 突然テーブルに突っ伏して、彼は文字通り泣き崩れた。

 肩を震わせ、しゃくりあげながら、何度も口を開いては言葉を飲み込む。

 どれくらいそうしていただろうか。

 ようやく絞り出すように、彼が口を開く。

「ご……ご、しゅじん、さま、は……わたしの、ご主人さまでは、ないのです、ね……」

「――うん。そうだね」

「そして……私を、いらないと、おっしゃるんですね……」

「言い方が違うけど、そう、だね……」

「それなのに、優しい手を差し伸べるだけ差し伸べて、突き放す――っ!」

「いや、だから、言い方よ……」

 突き放す、じゃなくてちゃんとした所に預けるって言ってるんだけど……

 私、そこまでひどいこと言った?

 文字通り泣き崩れる彼に、なんと声をかけていいのか分からず、思わず、背中をさすってしまう。

「困ったな、もう……そんなに泣かないでよ。目が溶けちゃうよ?」

 いかん。

 これだと小さな子供を慰めているようだ。

 彼はれっきとした成人男性。

 もっと他の、慰め方が……

「――…男の人が泣いていいのは、財布を落とした時と、両親か、大切な人が亡くなった時だけだよ?」

「――…さいふは……奴隷なのでもちあわせておりません……両親も、今はどうなっているか、わかりません……ようやく巡り逢えた、大切なご主人様だと思った方に……今、まさに捨てられそうです――っ」


 藪蛇だった―――!!




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