2-25
ここまで読んでくださりありがとうございました。
7月は2週間ほどお休みさせていただきます。
尚、再開は7月下旬を予定しております。
そうして、ようやくありつけた異世界で初めての夕食。
匂いがおいしそうだったのでちょっと期待したんだけど、残念ながら、握るナイフとフォークの動きがだんだん鈍くなっていく。
こう言っては何だけど、正直、味はイマイチ 二 サン……
パンは固いし、スープは薄味、鳥は皮こそパリパリだけど、肝心の肉はパッサパサ。
全体的にうま味が皆無という謎仕様。
特にスープよ。
人参と玉ねぎが入っているなら、多少なりとも甘みやコクが出ていてもおかしくないのに。
解せぬ。
そんなマズ――失礼、素材の味を十分に生かした夕食を前に、ちらりと彼を盗み見れば、彼の箸ならぬスプーンもあまり進んでいない様子。
やっぱり美味しくな――もういいか――いのかな、と、そんな料理を薦めたことを後悔していた時。
なにやら彼の身体がぐらりと揺れたかと思えば――
「え?」
ゴトンッ!と大きな音を立てて床に倒れ込んだ。
「ぎゃぁぁぁぁ―――!何事?!」
大丈夫!?頭打ってない!?
慌てて駆け寄り、揺らさないようそっと身体に触れてみると、息が荒く、脈も速い。
そして何より、体が熱い。
これは――マズいのでは?
「早く、冷やさなきゃ……ベッドに、寝かせないと……」
なんとか彼を抱き起そうとするけれど、意識のない人間って、本っ当に重たい!
しかも私より高身長高体重!
「起きて!お願い!ベッドまででいいから!私一人じゃ、むーりーー!!」
私の悲痛な叫びで、かろうじて意識が戻った彼が、ふらつきながらもどうにか立ち上がり、なんとかベッドまで歩いてくれた。
ありがとう!助かった!
具合が悪いのに無理させてホントごめんっ!
邪魔なマントを引っぺがし、ベッドに寝かせると、急いで再び洗面器に水を張り、濡らしたタオルを額や首筋、わきの下、足の付け根に当てる。
血管が太いところを冷やした方が良いって昔、おばあちゃんが言ってた。
ほんとは氷が欲しいところだけど、そもそも焼き石でお湯を沸かすあたり、氷という高度な技術は望めない。
……一応、後で聞いてみよう。うん。
でも、急にどうしたんだろう。
何か変なものでも食べたのかな?
それだと、私も具合が悪くなっておかしくないのに、今のところなんともない。
そう思って彼を見れば、まるで打ち捨てられた魚のようにぐったりと横たわっている。
「……」
彼の大事なモノが目に入って妙に気まずいので、そっとタオルで隠してあげた。
それにしても……緑過ぎる。
「やっぱり、貼り過ぎたかな?」
――あれ?待てよ?
確かこの『大きな葉っぱ』って――…
急いで【空間収納】を取り出し、『大きな葉っぱ』の項目を改めて読み返してみる。
『大きな葉っぱ』…魔力が強い場所に自生する治癒力の高い木から採れる葉。怪我に良く効く。
使用方法:葉の汚れを落とした後、きれいな水で優しく揉み込み、葉の裏側にとろみが出てきたら傷口に貼ってください。怪我が治れば自然と剥がれ落ちます。
注意事項:無理に剥がすと傷口がより酷くなります。貼り過ぎにはご注意を。
「書いてあるじゃん!”貼り過ぎ注意”って!」
どこ見てんのよ、私!
うわぁ~ごめんっ!ほんっとごめんっっ!
でも……今更剥がすことはできないし、どーしよぉ~。
濡れたタオルを何度か取り替えているうちに、荒かった彼の呼吸も少し落ち着いてきた。
よかった。
一時はどうなるかと思ったよ。
安心したところで、残りの夕食をどうしようかと考えていた、その時。
再び扉をノックする音とともに、従業員が食器下げとお風呂の準備をしに来てくれた。
「え?!もうそんな時間?!」
なんで……こういう時だけ来るのが早いのよ。
しかも、また違う人達だし……
それにしても――
代金を払っているとはいえ、お風呂用の桶や水、焼き石、果ては衝立まで、バケツリレーで二階まで運んでくれるなんて。
知らなかったよ。
お風呂の準備って、こんなに大掛かりで大変だったんだ。
……次からはお湯だけもらうことにしよう。
そんな彼らに、残してごめんなさいと謝りながら夕食を下げてもらった。
作ってくれた人には大変申し訳ないけれど、それどころじゃなくなったので。
うっうっ……もったいないお化けが出そう。
――美味しくなかったけど。
ただ、従業員たちはベッドで横になっている彼を見てぎょっ!となり、かなり困惑した様子でコソコソと囁き合っている。
「奴隷がベッドに?」
「床だろ、そこは」
「てか、なんで全身緑なんだ?」
だーかーらー。
全部聞こえてるんだっつーの。
病人なんだから仕方ないでしょう。
全身緑は……まぁ、分からんでもないが。
念のため、準備を終えて戻ろうとしていた従業員に、「氷、ありますか?」と訊いてみたけど、申し訳なさそうに「そんな高価な物、うちにはありません」と言われてしまった。
やっぱり『魔道具』という便利道具があっても氷って高価なのね。
ないものは仕方ない。諦めるか。
彼の具合も、さっきよりは落ち着いてきているみたいだし。
……こんな時に言いづらいんだけど、お風呂入ってもいいかな?
いいよね?
だって、頼んじゃってたし。
キミ倒れるの、想定外だったし……
心の中で彼に言い訳しながら、【空間収納】からリラックス効果とお肌に良い薬草を取り出し、お湯に浮かべる。
薬草を大量に入れるという愚行は繰り返さない。
少しは成長したぞ、私。
お風呂に入る前に、彼に当てた濡れたタオルを交換し、目元をタオルで覆うのを忘れない。
いやぁ~、いくら衝立があるとはいえ、同室に異性が居るのに素っ裸になるのはちょっと、ね。
そんな彼を気にしながら、衝立の陰で素早く服を脱ぎ、ささっと桶に身を沈める。
――なんだろう。このフィット感。
小さい頃住んでいた団地の浴槽を思い出す。
膝を抱え、そのままずるずると肩まで滑る。
「あっ……たかぁ~いぃ~」
はぁ……さすがに疲れた。
鼻に通る爽やかな薬草の匂いを深く吸い込みながら、今日あった出来事を振り返ってみる。
朝から魔物に追いかけられ……(全力で逃げたけど)
謎の卵を3個も拾い……(思わず持ってきちゃったけど)
初めて異世界の人と遭遇し……(言葉が通じたけど、常識は通じなかった)
何故か奴隷を押し付けられる。
――なんか、一ヶ月くらいの出来事が凝縮されたような……
「なんとも濃ゆい一日だった――」
明日は、もう少し薄味だと良いなぁ。




