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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第二章
46/55

2-21

 体を強張らせながら湯に浸かった彼の肩や背中に、薬湯を優しくかけた。

「熱くない?」

「――はい」

「そう。よかった」

 何度か繰り返すと、ほぅ……と静かに息を吐き、肩の力が抜けていく。

 やっぱりお風呂は良いね。

 全てを洗い流してくれる正義だ。

 それから水や焼き石を足しながら、入れ過ぎたハーブを使って彼の汚れを拭っていった。

 彼にも同じことをお願いしたら、率先してやってくれた。

 心なしか、さっきより手つきが軽く見える。

「よしっ。こんなもんかな」

 額の汗を拭った時、陽は落ちていて、辺りは暗くなり始めていた。

 ちなみに、足した水は途中から『聖水』になっていたのは内緒。

 だって、いちいち汲みに行くのが面倒だったんだもん。

「じゃぁ、これで最後ね」

 そう言って、彼の背後からケガの消毒と称して『聖水』を頭からざぱーっとかける。

 ――あれ?

 よく考えてみたら『聖水』は「消毒」じゃなくて「浄化」だったね。

 ……まぁ、良いか。

「どう?少しはすっきりした?」

「――…はい…っ」

 お。洗う前より覇気のある声。

 良きかな良きかな。

 私が渡したタオルで彼が自分の身体を拭いている間に、使用した場所や道具をきれいに片づけておこう。

 日本人なら誰もが知っている教訓『来た時よりも美しく』だ。

「体拭き終わったらコレ羽織っててね」

 そう言って、私が樽の上に放り投げていたマントを彼に差し出す。

「ですが……」

「――…そのままだと風邪ひくよ?」

 いくら日中は温かかったとはいえ、陽が落ちて、肌寒くなってきている。

 けれど、本当は風邪をひくとか、そういうかわいい問題ではない。

 何故なら――

「着る物、ないよね?私、男物の服は持っていないし。それとも今まで着ていた服、着たい?大事なものだった?」

「いえ……そこまでは……」

 それでも受け取ることを躊躇う彼に、笑顔でマントをぐっと押し付けた。

「私――全裸で歩かせる趣味は持ってないのよ」

 それともなにか?

 そんな趣味がキミにはあるのか?

「じゃぁ、部屋に行こうか」

 戸惑いながらもマントを羽織った彼を引き連れて、宿の中に戻る。

 てゆーか、明るい所で見たら、彼、イケメンなのでは?

 身長あるし、痩せすぎではあるけど整った顔立ちしてるし、洗濯したからきれいになったし……は、違うか。

 女将さんに水汲み場の礼と、夕食を部屋に運んでもらうよう頼んだ時、彼の姿を見てぽかんとしてたからなぁ。

 まぁ無理もない。

 さっきまでまっくろくろすけだったのが劇的に変化したんだもん。

 ビフォーアフターも真っ青だよ。





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