2-20
それから私は彼を洗った。
素手で洗うのは抵抗があったから(ごめん……)、手袋を着用したんだけど。
その手袋が、手袋の体を成さなくなるほど、彼の汚れは――すごかった。
まずは、今は使っていないという馬小屋の横にあった灰を利用させてもらった。
「悪いけど、前は自分で洗ってね。後ろは私が洗うから」
「はい……」
昔、亡くなった祖母から「灰はいろんな汚れを吸着して落としてくれるんだよ」と教わったことがあった。
あの時は「ふぅ~ん……」程度にしか思わなかったけど、それがこんなところで役に立つとは……
天国のおばあちゃん、本当にありがとう。
今、めちゃくちゃ助かっています。
「……っ」
「ごめんっ。痛かった?」
「――いえ……」
……にしても、本当にひどいな。
無数の傷に、焼けただれた火傷、青あざが浮き、肌は湿疹と炎症で荒れている。
「痛いだろうけど、我慢して。これが終わらないと何もできないからっ」
「――…っ……はい……っ」
灰を擦りつけるたびに彼の体がびくりと跳ねる。
けど、心を鬼にして洗い続けた。
そんな彼をもうちょっときれいにしようと手に取った石鹸は、驚くほど泡立ちが悪かった。
しかも、何とも言えない臭いがキツ過ぎて正直、使う気にもなれない。
念のため、自分の手に使ってみたけど、めちゃくちゃ肌が突っ張って痛いのなんの。
「なんじゃこりゃ……」
こんなモン使ってられっか!
せっかく買ったのに……もったいな――…くはないかな。うん。
代わりに何かないかしら?と、彼に背を向けて【空間収納】を漁ってみたら――
「お。良いのがあるじゃないですか」
『ジクスの森』で採取した薬草の中に、消毒とかリラックス効果のある、いわゆるハーブの類が。
「やだ――こっちの方が断然良いじゃん」
効能を見て、ニヨニヨしながらあれもこれもと、夢中になって手当たり次第取り出してみる。
なんだろう、薬草採取してるみたいでめっちゃ楽しい。
「あ、あの――…」
「んー?なぁーにぃー?」
背後から遠慮がちに声がかかる。
振り向くと、ものすごく困惑した顔で彼がたらいを見つめていた。
つられて私も見てみれば……
いつの間にか、たらいの中がハーブでもっさりとなっている。
「――…なんでこうなった?」
いや、投げ入れたのは私か。
……どうしよう。今更取り出せない。
でも、匂いはちょっと青くさいけど落ち着いた感じだし、触ってみたらしっとりしていて肌にも良さそう。
「だ、大丈夫!相乗効果で効能は抜群のはずだから!」
親指を立ててにっかりと笑って見せる。
「は、い……」
そう返事するしかない彼の顔が、若干引きつっているように見えたのは、私の気のせいだろうか。




