2-14
ふらりと長椅子に座り、両肘を両膝に乗せ、項垂れる。
「――…先生。ちょっと質問なんですが」
「はい、何でしょう」
「先程”夫は妻を守り、養い、子を育てる義務がある”とおっしゃいましたが、女性の社会進出……つまり、女性は働くことが出来るんですか?」
「女性が働くこと自体なんら問題はありません。この集落でもそうですが、特に地方に行けば行くほど人口も少ないので女性も働いています。ただ……」
「ただ?」
「女性が表立って働くことは”夫の甲斐性がない”、つまり”妻を養えるほどの経済力がない”とみなされ、男性の沽券に関わります。それは逆に領都、王都に近づけば近づくほど、また身分が高ければ高いほど如実になっていきます」
「……もしかして、”冒険者に私はなる”と言った時、怪訝な顔をされていたのも……」
「はい。そういった事情からです」
なーるほど。
だから眉間に皺を寄せていたのか。
「でも、先生。私みたいに夫がいない場合はどうやって生活すれば良いんですか?資金はいずれ枯渇します。できれば働いて収入を得たいのですが……」
そんなことぐらいで竜賢さんの遺産は枯渇しないけどね。
実は「一生遊んで暮らせるほどの軍資金を持っています」とか言った日には秒で殺人事件が起こるから黙ってるんだけど。
そもそも、私が憧れているのはスローライフであってニートじゃない。
インターネットやラジオで情報が得られない以上、働いていないと大事なことを聞き洩らしてしまう。
あと、正直、何も刺激がないと退屈で死ぬ。
そのための冒険者でもある。
「ですから、資金が枯渇する前に、早々に夫を迎える必要があるのですっ!」
――おい、聖職者。
頼むから握り拳で力説するのはやめてくれ。
そんな理由で結婚なんかしたくないわ。
こんな私にだって選ぶ権利はある。
てか、選ばせろ。
「この集落では貴女のような若くてきれいな、それでいて謙虚な女性に相応しい男はおりません。せめて次の街、いや、領都……王都を目指すべきです!」
だぁーかぁーらぁー!
変な言葉を入れるなっつってんだろぉーーー!!
きれいとか…言うな……っ!
「そんな貴女に、ちょうど良いモノがあります」
少々お待ちください……と神父さんは軽やかに席を外す。
――…なんだろう。
すっごく……疲れた。
そしてまたもや、すっっごく、イヤな予感がする。
神父さんがいない間、燃え尽きた灰のようになった私の口から抜けた魂をなんとか呼び戻す。
逃げても無駄だからね?一蓮托生だからね?
そんな中、ふと――『世界樹の女神』と視線が合った。
慈しみに満ちた穏やかなその微笑みで、彼女は私に何を語ってくれているのだろうか。
――…女神様、あなたの世界は、私にはハードルが高過ぎます。
あと30㎝くらい下げてくれませんかね?
そうしていると、神父さんが何とも言えない強烈なニオイを放つ、めちゃくちゃ汚れまくった一人の男性を連れて来た。
―――…勘弁してくれ。
額に手を当て、天を仰ぐ。
だぁーかぁーらぁー!
私はフラグを立てたいんじゃなくて、押し切りたいのっ!!




