2-11
「無知ついでに教えていただきたいのですが…」
「はい、何でしょう」
「冒険者になるにはまず何をすれば良いでしょうか?」
「は?」
セオリーとしては『冒険者ギルド』に行って登録するというのが一連の流れなんだろうけど。
そもそもこの集落に、冒険者ギルドってあるのかしら?
――って、あれ?
神父さんの目が点になってる。
どうしたのかな。
「あの……大丈夫、ですか?」
「……女性の、貴女が、冒険者……ですか?」
なにかを確認するかのように、神父さんは一言ずつ言葉を区切って聞いてくる。
「はい。そう、です、けど――…え?女性って、冒険者になれないんですか?」
「いえ、そのような規定は……なかった、と思われますが……」
よかった。
そんな言い方されると女の人は冒険者になれないって思うじゃんか。
”元の世界に帰る方法を探す”という私のミッションが、始まる前から終わってしまうところだったよ。
なぜか神父さんは「女性が冒険者……」と難しい顔をして納得してないご様子ですけど。
「もし、よろしければ、冒険者になりたいと思われた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
理由か――…
いくら神父さんでも、本当の事(『腐』の遺産をどうにかするために帰る)なんて言えるわけがないよね。
とはいえ、黙っているわけにもいかないし。
「――実は、先日、祖父が亡くなりまして……」
声のトーンを一つ落とし、神妙な面持ちで先程石垣を修繕していたおじさんと同じ話をする。
「そうだったのですか……それは大変でしたね」
話を聞いた神父さんが納得してくれたことに、内心、ガッツポーズをする。
よし。
この設定は十分使えるぞ。
「女性が冒険者になることはかなりお勧めできませんが、一通りご説明だけはさせていただきますね」
「はい」
「冒険者になるには、まず『冒険者ギルド』で登録をしなければなれません」
ですよね。
これをしないと何も始まらないもんね。
「ただ、この集落には冒険者ギルドがありませんので、次の街まで行かなければいけません」
うん。そんな予感はしてた。
だって、さっきから人家はあっても役場的な建物が見当たらないんだもの。
「次の街には『身分証』がないと入れませんが……身分証は持っていらっしゃいますか?」
え?身分証って、パスポート的なやつのこと?
そんな物……
「――…いえ……持って、いませんが……」
「ご自宅に忘れたわけではなく?」
「――……ハイ」
竜賢さん、身分証のことまでは教えてくれなかったよ!
ヤバい!どーしよー!!
「成人すると、身分証を持つことが当たり前となっているのですが……」
神父さんが訝し気に私の顔を窺う。
暗に言っている……何故、持っていないのか――と。
「――お持ちでないのであれば、仕方ありませんね」
「え?」
――それだけ?それだけでいいの?
罰則とかは?
内心だらだらと冷や汗を掻きながら訊いてみれば、
「そのようなものはありませんよ。領都や王都でも、身分証を持たずに生活している者もおりますからね。もちろん、あるに越したことはありませんが……」
なんでも、家庭の事情や金銭的な理由から、身分証を持っていない人がザラにいるんだって。
なんだ。じゃぁ、持ってなくても怪しまれないってことね。
びっくりさせないでよ、もぉー。
ちなみに、身分証の発行もこの集落ではできないらしく、次の街まで行くしかないみたい。
しかし、冒険者登録の前に身分証か。
めんどくさいから同時発行してもらえないかなぁ。
「じゃぁ、まずは身分証を作らないと、ですね」
「そうなんですが……」
神父さんは困ったように続ける。
「身分証は成人していないと発行できない仕組みでして……」
「あ、大丈夫です。私、成人してるんで」
「え?」
「え?」
――…なんだろう。
神父さんが「冒険者に私はなる!」と言った時以上に驚いた顔をして固まっている。
「――…成人……されて、いるのですか?」
「はい。してます、けど……」
一拍置いて何かを誤魔化すようにこほんと咳払いをする神父さん。
それから実に爽やかな笑顔で、
「それは――大変失礼しました。世間知ら……いえ、まだまだ世の中のことをあまりご存じないようだったので……てっきり12、3歳くらいかと」
いや低すぎやろ!
いくら東洋人が年齢不詳だからって。
てゆーか、アンタ今「世間知らず」って言おうとしたでしょ。
否定はしないけどね!
「参考までに、そう思った理由を教えてもらってもいいですかっ」
ぷりぷりと、若干お怒りモードで聞いてみる。
「そう、ですね……まず、非常に小柄な上に華奢で線の細い体つき、大変可愛らしくあどけない顔立ちに、きめ細かい陶器のような白い肌、ここら辺では見たこともない見事な黒い髪と神秘的で大きな黒い瞳、細く長い指に形の良い爪と――……どうかしましたか?」
いやぁぁぁ!もぉぉぉやめてぇぇぇ!!
聞いてるこっちが恥ずかしくなるような言葉の数々に居たたまれなくなって、思わず両手で顔を隠し、うずくまる。
なにこの羞恥プレイ!
私にそんな趣味はないんだけど!!
しかもその内容、”幼く見えた”の理由に全くなってないからね!
「もう――結構です……」
「そうですか?まだ言い足りないのですが……」
なぜか肩を落とす神父さん。
いや!もう本当におなかいっぱいです!
これ以上は胸やけします!!
それはそうと、身分証の話だよ!
「と、とりあえず……次の街に行ったら身分証は発行してもらえるんですね?」
「そうですね。ただ、身分証を持っていない者は街に入る時、保証金として大銀貨1枚を支払う必要があります」
くそぅ。この神父、オンとオフの切り替えが早いな。
ちなみに、大銀貨1枚は低収入の人でもギリギリ支払える金額で、保証金を払えない場合は保証人がいれば大丈夫らしい。
基本、成人したら親(保証人)と一緒に作りに行くから、圧倒的に保証金より保証人の方が多いんだって。
「あ、それは大丈夫です」
軍資金は豊富なんで(笑)
「それは良かったです。保証金も3日以内に身分証を作れば戻ってくるので大丈夫ですよ。これがないと何もできませんからね」
「もしかして、図書館的な所で調べものをするのにも……」
「必要ですね。本は大変貴重なので」
やっぱりそうか。
まぁ、向こうの世界でも図書館の利用者カードを作る時は本人を確認する書類は必要だしね。
「いろいろご助言、ありがとうございました。まずは身分証をゲットするために次の街を目指したいと思います」
とりあえず、目標はこの集落ではなく、次の街ということがわかった。
今ここで訊けることは聞いたので、まずは宿屋でゆっくり休んで次に進もう。
神父さんのせいで無駄に疲れたわ。




