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異世界転移というけれど…  作者: 橘吟香
第一章
30/34

2-5

 魔物の恐怖から逃れ、『ジクスの森』を抜け出したのも束の間。

「急げ急げ……!じゃない。大丈夫、落ち着け……焦るな……」

 いつ魔物が森から出てくるとも限らない。

『ジクスの森』から離れた場所で【空間収納】を取り出し、愛車を出現させる。

 その勢いのまま、後部座席に謎の卵を放り投げ、運転席に乗り込むと、文字通り脱兎のごとくその場を走り去った。

 異世界に似合わないから文明の利器は使うな?

 はっはっは。

 キミタチ、寝言は寝てから言いたまえ。

 こちとら か弱い オンナノコ。

 お尻の大きな オンナノコ。(うるせぇほっとけ)

 立ってる者は親でも使うお年頃なのだ!

 そもそも、私の足ではあっという間に追いつかれてしまうじゃぁないか!

 舗装されていない、かろうじて轍のようなものがうっすらと残る一本道をひたすら走る。

 ゴツゴツした大きな岩が点在する草原が延々と広がり、遠くには白い雪を纏った山々も見える。

 けど、距離感が日本のそれとはまったく違う。

「なんか……『世界○○紀行』みたいな風景だな」

 少し開けた窓からタイヤが砂利を弾く音や、小石が車体に当たる音が響く。

 法定速度以下で走っても、体が上下左右に揺れ、舌を噛んでしまいそうなほどのデコボコ道ってどうよ?

 ……車、大丈夫かしら?


 それからガタガタ道をひた走ること数分。

「つ……っかれたぁぁぁ…」

 無事、『ジクスの森』から離れることに成功した。

 バックミラーで確認しても、遠くで「何かが起こっている」気配は感じられない。

 誰もいないのをいいことに、道のど真ん中に車を停め、ハンドルに突っ伏しながら盛大に息を吐く。

 とにかく……ホント、マジで疲れた。

 小学生ならいざ知らず、成人してからあんなに全速力で走ったことはない。

 ブーツや手袋で完全防備していて本当に良かった。

 じゃないと全身擦り傷だらけだったわ。

 服はちょっと破れちゃったけど。

 バックミラーで痛むおでこや鼻の様子を確認してみる。

 赤くなっているけど、思っていたほどひどく擦りむけていない。

 よかったとホッと胸を撫で下ろしていると、ふと、後部座席の謎の卵が目に入った。

 結構ハデに放り投げたけど、よく割れなかったな。

 あと、今更だけど、勢いで持って来て良かったのだろうか?

 卵の親が近くにいたり、保護が違法だったりしないかな?

 それは鳥のヒナの場合か。

 とりあえず、素手で触っていないからまだ大丈夫かな。

 てゆーか。

 そもそもこの卵は一体何の卵なんだろう。

 大きさも大きさだし、色も色だし、異世界だし……

 ただ、ダチョウの卵じゃないってことぐらいは分かる。

 腕を組み、目を閉じて考えること数秒。

「ん――…わからんっ」

 だからと言って今から元あった場所へ置きに戻るのは論外。

 でも、こんな隠すところが何もない道端に放り出すのは、いくら何でも無責任すぎる。

「成り行きで持ってきちゃったけど、キミタチどーする?」

 つい癖で卵に話しかけてみる。

 もちろん返事は、ない。

 いや、あったらあったで怖いんだけど。

「はぁ……仕方ない」

 こんな時、竜賢さんがいてくれたらなぁ。

「主は一体何をしておる……」とか言いつつ、呆れながら教えてくれるんだろうけど。


 ……誰か、分かりそうな人を見つけて訊くしかないか。





 ※ 現実世界では、

  「落ちているヒナは拾わず、そっと見守る」

  これが原則です。

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